配信四十一回目:大きな川と獣道
空狐に案内してもらうこと、一分。いや、案内というか、空狐が小さく鳴くと黒い穴が目の前に出てきてね。それに入ると、川でした。
『これはまさか、奇門遁甲!?』
『知っているのかコメント!』
「え、なに? 空狐のスキルだったりするの?」
『ごめん、言ってみただけ。奇門遁甲って憧れない?』
『知るか』
『クソが』
『ギルティ』
『ごめんて』
スキルじゃない、のかな? ルルなら知ってるかな、と思って聞いてみると、首を振って答えてくれた。
「スキルじゃ、ない」
「そうなの?」
「ん……。案内をお願いしたら、どんなモンスでも、あれが出てくる」
「なるほどね」
つまりは、ここが迷いの森のどこにあるかまでは分からないわけだ。まあでも、妥当かなとも思う。実際の案内だったら、こうした配信とかで誰でも行けるようになっちゃうし。
まあそもそもとして、ここが本当に迷いの森かも分からないけど。
で、川だけど、すごく広い、でも穏やかな流れの川だった。
川の両端はやっぱり原生林で、ここがどのあたりの位置かは見当もつかない。私たちがいる場所だけが砂利になっていて、広さはそれなり。バドミントンぐらいはできそう、かな? やらないけど。
こっち側の原生林にはうっすらとだけと獣道がある。私としてはそこもちょっと気になる、かな。
「ルルさん、あの獣道を進んだら何かあります?」
「ん……。呼び捨てで、いい」
「へ? あー……。そう?」
「ん」
まあ、ルルがいいなら、遠慮無く。
「んん……。それじゃ、ルル。あっちには何があるの?」
「アリスがこの前行った、はず」
「ほう」
ルルと二人で、川へと振り返れば。
「うん。よし! れんちゃんかわいい!」
「そ、そう?」
「かわいい!」
いつの間にかれんちゃんが水着になってた。よくあるワンピースタイプの水着だ。ついでに浮き輪装備。あの浮き輪は装備品になるのかな?
『れんちゃん水着だぞ。ミレイも早く着替えろよ』
『さあ、早く!』
「あっはっは。残念ながら私の水着はないのだ!」
『なん、だと……?』
『ふざけんなお前! 見た目しか取り柄ないくせに!』
「いやひどくない?」
さすがにそこまで言われると私もへこむんだけど。私だってさ!
「性格そんなに悪くないよね?」
「え?」
「え?」
「え」
アリスとルルの、何言ってんだこいつ、みたいな視線が痛いです。心にきます。こういう時はれんちゃんを見て癒やされようそうしよう。
というわけで、れんちゃんはと言えば。
「んー……」
足の指で川の水をつんつんしてた。かわいい。
「あー……。怖くて当たり前かな。川遊びなんて初めてだし」
お風呂にはもちろん入るけど、当たり前だけど水の流れなんてないわけで。穏やかな川といっても、常に水が流れていくなんて初めてのはずだ。
『ああ、そうか。そりゃそうだよなあ』
『だったらいきなり川ってのは、ちょっと厳しかったんじゃないか?』
『いや、むしろここは川入門にちょうどいいだろ』
んー。意見が分かれてる。とりあえずはここで様子見でいいかな。
れんちゃんはちょんちょんと水をつついて、何度も唸って。そうしている間に、頭のラッキーが川に飛び込んだ。待ちきれなかったみたいだ。
「あ、ラッキー! まって!」
慌ててれんちゃんも川に入っていく。
「あー……。浅いのか、ここ」
「ん。奥は深いけど、手前は浅いから安心」
ラッキーを追いかけてちょっと奥まで行ったけど、それでもれんちゃんの膝程度だ。流れも速いわけじゃないし、溺れる心配はない、はず。多分。
器用に泳ぐラッキーと、それを追いかけるれんちゃん。ラッキーは何度も振り返ってるから、れんちゃんがついてこれるようにしてくれてるみたいだね。
もうちょっと水に慣れたら、泳ぎ方を教えてあげてもいいかもしれない。体の動かし方さえ覚えておけば、リアルでも応用できるだろうし。
「あ、そうだ。ミレイちゃん、さっき呼んでたみたいだけど、何かあったの?」
「いや、あの獣道の先って何があるのかなって」
後ろの獣道を指差して聞いてみると、アリスはああ、と頷いて、
「大きな池があるよ。ペンギンの池よりも大きな池」
「なにそれ。聞いてない」
「うん。言ってない」
愕然とするルルとにやにやと笑うアリス。
『これはひどいw』
『さすがアリス汚い!』
あ、アリスの頬が引きつった。こほん、と咳払い。見なかったことにするらしい。
「でもさ、ルル。私、ちゃんと聞いたよ?」
「え?」
「獣道調べてきたよって。興味ないって言われたから黙ってたんだけど」
ルルの動きが、止まった。視線を泳がせてる。どうにかして記憶を探ってるのかもしれない。
ふむ。まあ、私には関係ないかな!
「池だけ?」
私が聞くと、アリスはにっこり笑って答えてくれた。
「まさか。たくさんいたよ。水に関わるもふもふたちが!」
「もふもふ!?」
おっと、れんちゃんが反応した。それなりに距離あったと思うんだけど、ラッキーを腕に抱いてこっちを見てる。ぷるぷる首を振って、水を飛ばして。なんだか犬みたいだ。
れんちゃんはそのまますごい勢いでこっちまで走ってきた。
壁|w・)れんちゃんの水着はワンピースタイプです。
きっとふりふりとかついてます。作ったのはアリスなので間違いない。
次回は、獣道の先のもふもふ。
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ではでは!






