ひびきちゃん
土曜日のお昼前。病院の近くの喫茶店でのんびりと待つ。今から来るのは腐れ縁とも言える幼馴染みの菫と、その妹ちゃん。れんちゃんのファンで、内気な性格と聞いたけど、どんな子かな。
そう思って待っていたら、喫茶店のドアが開いて菫が入ってきた。もう一人、菫に手を引かれて入ってきたのは、れんちゃんよりも少しだけ背の高い女の子。
「菫!」
私が呼ぶと、菫はすぐに気が付いてくれた。真っ直ぐにこっちに来て、軽く手を上げて挨拶する。
「ごめん。遅くなった」
「いやいや、私が早すぎただけだよ。で? その子が菫の妹さん?」
そうよ、と菫が背中に隠れてしまった子を前に出す。
短めの黒髪を首のあたりでくくって、小さいポニーテールみたいな髪型にしている女の子。菫が言うにはれんちゃんと同い年らしい。内気なのも本当みたいで、私の前に来たせいかわたわたと慌ててる。ちょっとかわいいかもしれない。
「響。自己紹介しなさい」
「は、はい!」
響ちゃん、かな? ぴしっと直立になる。厳格な姉と怯える妹のイメージが定着しそう。
「青野響です! えと、小学二年生、です。えと、えっと……。八歳、です! えと、えっと、えっと……」
「響」
「あ、ご、ごめんなさい……!」
「いや、怒ってるわけじゃないけど……」
ああ、うん。なんとなく察した。
多分菫は家でも学校内とあまり変わらないんだろうね。クールで格好良いけど、クールは悪い言い方をすれば無愛想だ。人によっては常に怒ってると感じてしまうかもしれない。
響ちゃんもそんな感じなのかな。菫は察しがいいから、その程度は気付いてると思うけど。
「初めまして、響ちゃん。菫の友達の、大島未来です。よろしくね」
「は、はい! よろしくお願いします!」
本当に小学生? 礼儀正しいのはいいことだけど、この年でこれはちょっと……。もっと生意気でもいいんだよ?
「菫って響ちゃんに厳しいの?」
「怒ったことすらないはずなんだけど……」
「目の前で誰かを怒ったことは?」
「そんなことも別に……。…………」
あ、黙り込んだ。心当たりがあったらしい。そういうところだよ、菫。
「ま、まあこの話はいいでしょう。それで? 早速行くの?」
「そうだねえ……。響ちゃんのことをもうちょっと聞こうかなと思ったけど、結局れんちゃん次第だしね。行こっか」
私が響ちゃんを気に入ったところで、れんちゃんと気が合わなかったら意味がない。れんちゃんと一緒に話を聞けばいいかなと思う。
「そ。それじゃ、行きましょうか」
「はい!」
ああ、これ、緊張もあるのか。歩き出した菫とそれについていく響ちゃんを見ながら、菫にも色々あるんだなと思った。
れんちゃんの病室の、準備室みたいな小さい部屋。私と菫が棚に荷物を置いてる間、響ちゃんは何故か真っ青になってた。どうしたのかなこの子。
「菫。なんだか響ちゃんが体調悪そうだけど」
「え? ああ……。緊張してるだけよ。言ったでしょ? この子、れんちゃんのファンだから」
なるほど? 有名人に会うような感覚、かな? れんちゃんも有名になったものだね。姉として鼻が高いです。もちろんこの子が例外というのは分かってるけど。
「あと、それと」
「うん」
「病気はあまり実感がなかったみたいね。私の親戚に入院してる人もいないし、病院の病室そのものが初めてなのよ」
「あー……」
知らなかったら、緊張するのもちょっと分かる。一階とか二階の、診察とかで行く場所ならともかく、入院してる人が多いところはちょっとした別世界だ。悪い意味で言ってるんじゃなくて、縁遠いっていう意味で。
知り合いもいないのにうろつく人もいないしね。
「響ちゃん」
名前を呼んでみると、びくりと震えた。そんなにびっくりしなくても。
「れんちゃんは良い子だからさ。よければ仲良くしてあげてね」
「あの、その……。はい……」
ちょっと不安になってきたよ。大丈夫……?
ともかく、病室に入ろう。電気を消して、真っ暗になるのを待つ。
「本当に真っ暗になるのね。響。ぶつからないように手を繋ぎましょう」
「うん……」
おお、いいお姉ちゃんしてるなあ。なんてことを思ってちょっとにやにやしてたら、
「何をにやついてるの?」
「え、あれ? 見えてなかったんじゃないの?」
「何年の付き合いだと思ってるのよ。それぐらい見えなくても分かるから」
「お、おう……」
この子は本当に、こっちが照れるようなことも平然と言うのが怖い。まったく。
「ところで未来。れんちゃんにはちゃんと伝えてるのよね?」
「ん? ああ、うん。一応。私の友達が来るよ、て伝えたけど……」
「けど?」
「あれは多分、ここに来るとは思ってないんじゃないかなあ……」
れんちゃんに伝えたけど、最初きょとんとした後、そうなんだってちょっと寂しそうだったんだよね。あれってつまり、私がここに来ないと思ったからだと思う。
私が来なくて寂しいと思ってくれていればだけど。思ってくれてるとは思うんだけど! その辺りどう思いますか菫さん!
「知るか」
あ、はい。すみません。
ちょっとだけしょぼんとしつつ、ドアを開ける。中に入ると、
「もふもふもふも……」
「…………」
うん。その、なんだ。ごめんね。私が来ないと思ってたから、ベッドにぬいぐるみを広げてたんだよね。うん。分かるよ。うん。だからそんな睨まないでぐへえ!
「おお、クリーンヒット……」
「あわわわ……」
ペンギンの着ぐるみを着たシロクマぬいぐるみはもふもふでした。
壁|w・)響ちゃんです。リアルパートでちょくちょく顔を出すことになる、かも?
ちなみにペンギンの着ぐるみのシロクマぬいぐるみは実際にあります。かわいいです。
面白い、続きが読みたい、と思っていただけたのなら、ブックマーク登録や、下の☆でポイント評価をいただけると嬉しいです。
書く意欲に繋がりますので、是非是非お願いします。
ではでは!






