配信四十回目:ふわもこれんちゃん
「はい完成」
羊毛をたっぷり採取した後、アリスから十分だけ待ってほしいと言われたから待ってたんだけど、その結果がなんとびっくり、ローブだった。
ローブというか、ガウンというか、寝間着というか……。シンプル。とてもシンプル。最高品質の羊毛をたっぷり使ったローブで、とてももこもこしてる。
「れんちゃんの羊さんからもらったからね。はい、れんちゃん」
「わあ! ありがとう!」
れんちゃんがまっしろもこもこれんちゃんになった。なんか、すごい。ふわもこ羊毛に包まれたふわもこれんちゃんだ。これはいい。とてもいい。
『ほぼ羊毛だからかシンプルだな』
『いやでも、それがいい。ふわもこしてる』
『ふわもこれんちゃんをぎゅっとしたい』
「は?」
『ごめんなさい』
『女の子が出していい声じゃないぞw』
おっと失礼。でも今の発言は完全アウトだと思います。
「羊さん! みてみておそろい!」
羊さんの前でアピールするれんちゃん。羊さんはそんなれんちゃんを見て、のっそりと立ち上がって、ぽふんと優しく体当たり。れんちゃんも羊さんをぎゅっと抱きしめる。
なにこれ。もふもふがもふもふにもふもふしてもふもふももふもふしてもふもふはもふもふともふもふもふもふもふもふもふもふ。
「ミレイちゃん」
「はっ!」
やばい。なんか頭が変なことになってた。これもれんちゃんがかわいすぎるのが悪いんだ。つまり私は、いや私が悪いから。れんちゃんが悪いとかあり得ないから。
でも本当、さすがアリスだよ。よく分かってる。ちゃんとお礼を言わないとね。
「アリス。結婚して」
「喜んで」
『お前らはいきなり何を言ってんの?』
『突然の告白に草も生えないwww』
『生えてるんだよなあ』
「でもごめん、私にそんな趣味はないかな」
「うん。私にもないかな」
『ないのかよw』
『大丈夫? ちゃんと頭で考えて発言してる?』
「いや、わりと勢い」
「同じく」
『だめだこいつら、早くなんとかしないと……』
『手遅れ定期』
『いやな定期だな』
いやあ、れんちゃんを見守ってるだけでなんかこう、ほんわかしてて。
しばらく羊さんと遊ぶれんちゃんを見てたんだけど、はっとして時計を見てみたらすでに夜の七時だった。あと一時間しかない。
「ああ! まずいまずい迷いの森行かないと!」
『気付いてなかったのかw』
『もうこのまま終わるのかとw』
終わるわけがない。フクロウは私もちょっと楽しみなんだから。
「というわけで、アリス。悪いけど行ってくるよ!」
「はいはい、気をつけてね」
手を振るアリスに手を振り返して、れんちゃんに駆け寄る。れんちゃんは不思議そうに私を見つめてきた。
「どうしたの? おねえちゃんももふもふする?」
「その提案はとても魅力的だしとてもやりたいけど、そろそろ迷いの森に行かないかな? フクロウに会える時間がなくなるよ」
「行く!」
れんちゃんも忘れてたらしい。最後に羊さんをぎゅっとして、離れる。すると羊さんは小さく一鳴きして、歩いて行って……。家の前の柵に入っていった。子犬たちにまとわりつかれてる。それでいいの……?
まあ、うん。とりあえず、出発だ!
迷いの森はその名の通り、とても迷いやすいエリアだ。岩肌の場所とかもあるせいで獣道すらまばらで、奥まで入ってしまうとそう簡単に徒歩で出ることなんてできなくなる。方向感覚まで狂ってしまうと、戻ることすら困難だ。
でもこの森、実は通るだけならとても簡単だ。
「迷いの森探検ツアーの集合場所はこちらです!」
あれがあるから。
「初めて来た時はびっくりしたよね。迷いの森探検ツアーって。迷いの森とは」
『案内に従っていれば観光しながら森の反対側に出られるしな』
『(方向性が)迷いの森』
『やめろw』
うん。怒られるよ?
アップデート直後だからか、ツアーの案内人もたくさんいるみたいだ。普段は一時間に一回だけ、なんだけど、もっと多いと思う。十人以上の案内人がいるし。
「よく見ると、触れ合いイベントでお世話になったゲームマスターさんたちだよね、あれ」
『いや、あれPvPイベント……』
「え?」
『え?』
『え?』
『なんでもないです』
PvPイベントなんてあったっけ? あははー。
とりあえず、たくさん視線を感じるというか、こっちを見てる人が結構多い。なのでさっさと迷いの森に入ってしまおう。迷いの森は笑うしかないほどに広大だから、少し奥まで行けばもう人に会わなくなる。……はず。
「というわけで、れんちゃん。準備はいいかな?」
「うん!」
そんなれんちゃんは最終ダンジョンでも着ていた動きやすい和服っぽい服で、ディアに乗ってる。ちなみに私はシロにのせてもらう予定。
「今更だけど、目立つ理由ってディアでは……?」
『まあ分かりやすい目印ではある』
『でかいからな』
『ここにれんちゃんがいますよって言ってるようなもんだろ』
だよね。人が多い場所だと気をつけないといけないかな。とりあえず、私もシロを呼び出して、さくっと……。
「なあ! そこのお姉さん!」
「うげ」
『ミレイw』
『気持ちは分かるが声w』
いやだって、時間もあまりないのにこのタイミングって……。
壁|w・)人が多いところに行くとまれによく遭遇する問題ですね。
次回は、始祖龍のお仕置き。……うん、つまりそういうことです。
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ではでは!






