お歌配信
「せっかくなので突発配信なのだ」
「なのだー!」
ベッドの上、カメラを私たちに向けて、スマホをテーブルに置く。れんちゃんと一緒にそう宣言すると、スマホからはみんなのコメントを読み上げる機械音声が流れてきた。
『平日の真っ昼間にと思ったら、病室か』
『やっぱり暗いなあ……』
『ミレイお前学生だろ、学校どうした』
「真っ昼間にこの配信を見てる人には聞かれたくないかな!」
『やめろお!』
『その発言は俺に効く……』
『流れ弾で大惨事になってるぞw』
うん。私は悪くない。悪いのは学校の話を持ち出してきたやつだ。
キリンさんを抱きしめてもふもふしてるれんちゃんを、さらに後ろから抱きしめる。役得だ。
『てえてえ』
『れんちゃんこんちゃー』
「ん! こんちゃー!」
『ちゃんと返事をしてくれる君が好き』
『かわええ』
『それで、この配信は何の配信?』
「別に何もないよ。私たちもまったりしてるだけだし」
ね? とれんちゃんに聞いてみると、お返事はキリンさんあたっくだった。ぽふん、と私の鼻に当たる。もふもふしたぬいぐるみだなあ。
「ほら、れんちゃんもこう言ってるでしょ?」
『わかるかwww』
『違う、と言ってるようにしか見えないぞ』
『そういうミレイはわかんのか?』
「今のはね、そうだけどもっと違う言い方をしなさい、と私が怒られたの」
『怒られたのかよwww』
『さすがに適当すぎるw』
『れんちゃん、合ってる?』
れんちゃんはキリンさんをぎゅっとしつつ、頷いた。ふふん、どうだ。れんちゃんのことなら何でも分かるのだ。お姉ちゃんだからね!
『まさか本当に正解だったとは……』
『ここまでくると逆に気持ち悪いわw』
『れんちゃんが気持ち悪いと!?』
『ばっかお前、ミレイがに決まってんだろ。れんちゃんはかわいい』
「それなら許す」
『許された!』
『れんちゃん至上主義すぎだろw』
『自分のことはどうでもいいのかw』
わりとどうでもいいです、とか言おうとしたらまたキリンさんあたっくが。うん、これは黙っておいた方がよさそうだ。
『特に内容が決まってない配信ってことでいい?』
「ん? いいよ。ぬいぐるみをもふもふするれんちゃんを眺めるだけでもいいよ!」
『それはそれでかわいいけどw』
『それで十分だと思ってしまった俺はこの姉妹に毒されているのかもしれない……』
『奇遇だな、俺もだ』
『どうせなら、れんちゃんの歌とか聞いてみたい。さすがに病院じゃだめか?』
ほう。歌。そう言えば、れんちゃんの配信の時に興味を持ってくれた人もいたっけ。この人がその人かは分からないけど、ここでやっておくのもいいかな?
「防音ばっちりらしいから、歌程度なら大丈夫だよ。音楽は流せないけどね」
まあ本人の気分次第だけど。
というわけで、れんちゃんに聞いてみる。両手でれんちゃんのほっぺたをはさんで、むにゅっと。
「んー?」
「れんちゃん、歌を聞いてみたいんだって。どう?」
「うあー?」
「そう、歌」
「いいよー」
引き受けてくれた。さすがれんちゃん、話が分かる。もうかわいいなあ!
ということで、喉元こちょこちょ。きゃー、なんて言いながらキリンさんを盾にされた。むう、キリンさんシールドは破れないな……。
仕方ないのでキリンさんを受け取って代わりに抱きしめておく。れんちゃんは手元にもふもふがなくなると、ベッドの隅のウサギさんを持ち出した。こっちにウサギさんの顔を向けて、ぴこぴこ。ちなみに小さいぬいぐるみで、れんちゃんの手のひらに載ってしまうサイズだ。
『謎の遊びが始まったぞw』
『歌はどうしたw』
『いやまあ、これはこれでかわいいけど』
「おっとそうだった。ごめん」
私がキリンさんを側に置くと、れんちゃんはウサギさんを自分の頭に置いた。スマホに向き直って、えっと、と考えて。
「その、それじゃあ、歌います……」
『頭のうさぎがとても気になるけど、ぱちぱちぱちー』
『ウサギはそのままなのかw どぞどぞ』
『楽しみ』
少しだけ緊張してきたのか、れんちゃんがちょっと震えてる。けれど大きく息を吸って、そのまま歌い始めた。
れんちゃんの歌はとても聞きやすい。綺麗で澄んだ声だ。身内のひいき目を差し引いても、とても上手だと思う。
配信のコメントも絶賛するものばかりだった。次ははやりの歌で、というコメントもあったけど、れんちゃん自身はあんまり歌を聞かないから、どうだろう。
三曲ほど教科書にも載ってるような有名な歌を歌って、配信は終了した。いつの間にかお父さんたちが待ってたからね。れんちゃんも気付いていて、最後の方はそわそわしてたし。
ということで配信を終了させて三人へと振り返ると、揃って苦笑を浮かべていた。
「いや、いい歌だった。とても良かったよ、れんちゃん」
「そうかな? えへへ、ありがとう」
はにかむれんちゃん。他人からの評価なんて初めてだから、素直に嬉しいんだと思う。私からは聞き飽きてるだろからね。悲しいことに。嘘なんて言ってないんだけど。
「それで、取材は?」
私が聞くと、倉橋さんはぐっとサムズアップした。お父さんとお母さんも笑顔で頷いてるから、無事に許可は取れたらしい。
それを見たれんちゃんは、
「やた!」
嬉しそうに笑った。
うんうん。これで羊さんをもらえるね!
「今日、早速お渡しさせていただきます」
「え? 取材の後じゃなくていいの?」
「お預けはかわいそうですから」
ああ、なるほど。うん。れんちゃん、すごくにこにこしてるからね。楽しみにしてるのがすごく分かるからね。そうしてもらえると、私も嬉しい。
「取材についてはまた後日、決めましょう。家族団らんを邪魔するのは申し訳ないですので」
「ああ、はい。すみません気を遣わせて」
「いえいえ。それでは、これで」
そう言って、倉橋さんはお父さんたちにもう一度頭を下げて帰っていった。あの時は分からなかったけど、とても真面目な人だ。
「金ぴかさんとは思えない……」
「金ぴかさん?」
首を傾げるお父さん。休憩時間はまだもうちょっとあるみたいだし、せっかくなので教えてあげようかな。
壁|w・)なお、ひいき目なしと言いつつひいき目入ってます。
れんちゃんが何を歌ったのかはご想像にお任せします、ですよ。
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ではでは!






