配信三十五回目:金ぴかさんの羊さん
ウルフだけじゃなくて、行く先々でれんちゃんはもふもふ自慢をしていた。猫もそうだしトラたちもそうだ。
もちろん自慢を聞いてくれた人の中にはちょっぴり迷惑そうにしている人もいたけど、そんな人は特に騒ぐこともなく、静かに帰っていった。ゲームマスターの監視はやっぱり大きいみたいだね。
私としては、ちょっと驚いたのが、レジェの区画に行った時かな。
その時にレジェの周りに集まっていたのは、金属鎧に身を包んだいかにもガチな人たちだった。いわゆる前線組というか、戦闘大好きな皆さん。これにはれんちゃんもちょっと怯えていたけど、話してみるとみんな気さくな人たちだった。
「いやあ、俺もストーリーはクリアしたけど、始祖龍にこんなゆっくり触ったことないからさ。貴重な体験をさせてもらったよ」
「ほんとほんと。こんなにもふもふだったのね。すごく気持ちいい……」
そんな人たちの言葉にれんちゃんも気をよくしたようで、その後はいつものようにレジェを自慢してた。レジェにぴったり張り付いて自慢するれんちゃんはとてもかわいかったです。みんな頬が緩みっぱなしだったし。
「ミレイさん。ちょっといいかい?」
そう声をかけてきたのは、このグループのリーダーさんっぽい人。黄金の鎧を着てます。
「何でしょうか、金ぴかさん」
「金ぴかさん!?」
『金ぴかさんwww』
『間違ってはないなw』
『一応最大手のクランのマスターなんだがw』
あ、そうなんだ。結構な有名人ってことだね。もっとも、戦闘大好き前線組の間では、だろうけど。私たちみたいなまったりプレイヤーにとっては住む世界が違うと言っても過言じゃないし。
あれ? そんな前線組にすら知られてるれんちゃんって実はすごいのでは……? 私はれんちゃんのおまけだし。
それはともかく。
「いや、実は俺も一匹だけテイムモンスがいるんだけどさ」
「え!?」
『うそ!?』
『おいおいマジかよ全然知らんぞそんな話!』
『どう見ても直接ぶった切るスタイルなのに!』
「否定はしないけど、ひどいな」
そう言って、苦笑する金ぴかさん。でも前言を撤回したりしないってことは、本当にテイムモンスがいるらしい。
それなら私がやることは一つだけだね!
「れんちゃーん! この人、テイマーだってー!」
れんちゃんの自慢がぴたりと止まる。たくさんの人が振り返って、金ぴかさんを見て、驚愕に目を見開いた。もしかして、隠してたのかな。それなら悪いことしちゃったかも……。
「ご、ごめんなさい」
「え? ああ……。別に隠してるわけじゃなかったから大丈夫だよ。というより、言う機会がなかっただけだからね」
なるほど。それなら良かった。でも言う機会がなかったってことは、戦闘メインの子じゃないってことだね。
そう話している間に、
「テイマーさん! もふもふ! もふもふ好きですか!」
れんちゃんが金ぴかさんの間近に迫っていた。こわい。圧がすごい。
「あ、いや、好きだけど、れんちゃんほどでは……」
「もふもふ!?」
「も、もふもふ? あ、テイムモンスのことかな。そうだね、もふもふだ」
「もふもふ!」
「うん。あー……。見る?」
「もふもふ!」
落ち着けれんちゃん。さっきからもふもふしか言ってないよ。
『新言語、もふもふ』
『もふもふしか言ってないのに、何を言いたいのかはなんとなく分かるw』
『身振りで簡単に分かるなw』
『身振りってことは、もふもふは言わなくてもいいのでは……?』
『お前、それ気付いたらだめなやつ……』
『こいつ、死んだな……』
『なんで?』
とりあえずれんちゃんを落ち着かせよう。れんちゃんのちっちゃいお鼻をぷにっと押します。……はい、止まりました。冷たい視線のおまけつき。
「おねえちゃん……」
「うん。ごめん」
かわいかったので、つい。
気を取り直して。金ぴかさんが早速テイムモンスを召喚してくれた。金ぴかさんが召喚したのは、
「羊さん!」
わあ。れんちゃんの瞳がきらっきらだ! テイムモンスで羊がいるってことは、どこかに出てくるってことで間違いないと思う。だかられんちゃんも嬉しいのかな。これは是非とも場所を聞かないと……。
「先に言っておくけど、敵として出てきたわけじゃないから」
「え」
ということは、新しくテイムできないってことか。れんちゃんもしょんぼりしちゃって……、あ、そうでもない。目の前の羊をもふもふしてる。
「わー……。もふもふだね……。かわいい……」
柔らかい羊毛にれんちゃんは夢中。全身で堪能してます。羊もなんだか得意気だ。みんなかわいい。
「敵として出ないってことは、何かのクエストでテイムできるの? ペンギンみたいに」
「ああ、いや。羊は特典なんだよ」
「特典?」
「そう。ベータテスト参加者の特典」
うわ、そうきたか。それは私にはどうしようもないやつだ。
当たり前だけど、このゲームも何度かのテスト期間を経て、正式サービスをしてる。一般の人が参加できるテストは二回あって、限られた人数で行うクローズドベータテスト、人数制限なしの、負荷テストも兼ねたオープンベータテスト、があったらしい。らしいっていうのは、私もその時はこのゲームを知らなかったから。
それぞれのテストには参加特典があって、金ぴかさん曰く、クローズドベータテストの特典なんだって。
「へい、詳しい視聴者さん。これって。ほんと?」
『ほんとだぞ。正確には特典は複数種類あって、一つ選べるって形式だった』
『俺参加者。その時の選択肢の一つがペットの卵だったはず』
『同じく参加者。ペットの卵選んだけど、私は猫だった』
ふうん。てことは、必ず羊がもらえるってわけじゃなかったんだね。
残念だ。もっと早く知ってたら、私も絶対に参加したのに。
壁|w・)ベータテストの景品って、たまに羨ましい時があります。
プレイヤー「ペットの卵、なにが孵るのかな。わくわく」
卵:ぱかっ にゃー!
プレイヤー「?????」
分かりやすくした結果、卵から哺乳類が生まれました。不具合かな。
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ではでは!






