配信三十五回目:もふもふ自慢はむふーと共に
どうせなら、夜にあのお祭りに行けばよかったかな、と今頃思った。やっぱり夜の方がそれっぽいし。でもまあ、いっか。それはれんちゃんの病気が治った時のお楽しみ、ということで。
というわけで、れんちゃんを抱き寄せる。ぷにぷにだなあ。
「このまま寝たいです」
「何言ってるのおねえちゃん」
うん。そんな冷たい目で見ないでください。
そんな感じでれんちゃんにべたべたしてたら、すごく呆れた様子のアリスがやってきた。
「やっほ。来たよ。来たけど……何やってるの?」
「れんちゃんに甘えてます」
「おねえちゃんに甘えられてるの」
「なんて?」
普通逆では、とか聞こえるけど、たまにはこれもいいんだよ。れんちゃんのぷにぷにを独り占めです。羨ましいでしょ?
「ねえ、ミレイちゃん。結構見られてるよ……? 大丈夫?」
「んー?」
周囲を見る。なるほど確かに、来場者さんが私たちを見てる。ちっちゃく、てえてえ、とか聞こえるけど、気のせい気のせい。
でも仕方ない。挨拶はしないとね。
というわけで、配信をぽちっと。光球が出てきたのを確認して、私は立ち上がった。
「れんちゃんは私の妹だ! れんちゃんが欲しいやつはかかってこい!」
『おかえ……お前はいきなり何を言ってんの!?』
『再開一言目は頭がぶっとんだ発言でした』
『さすがやでミレイ。もちろん褒めてないからな?』
「うるさいよ!」
外野は黙っててもらおうか! 宣言は、途中なのだ!
「さあこい! 相手になるよ! レジェが!」
先生出番です、みたいな勢いでレジェを見る。心なしかレジェの視線が呆れているように見えるけど、いや気のせいだ。そうに違いない。
「れんちゃん先生! 一発お願いします!」
「もう……。仕方ないなあ!」
もうとか言いながら乗り気です。れんちゃんとっても楽しそう。
『くるぞ! 全員耳を塞げ!』
『スタン対策は万全か!?』
『耳栓! 耳栓はどこだ!』
慌てふためく視聴者さんや来場者さんなんて知ったことかと、れんちゃんは叫んだ。
「がおー!」
吠えるテイムモンスたち! いやあ、大迫力だね! 正直ちょっとくせになってきたよ! れんちゃんも満足げだ。
「むふー」
『鼓膜ないなった』
『でもかわいい』
『どや顔れんちゃんかわええw』
うんうん。私の妹はやっぱり世界一かわいいね! 異論は認めるけど聞く耳は持たないよ!
ちなみにとばっちりでゲームマスターさんも瀕死です。素直にごめんなさい。
「たのしかった!」
「ならばよし!」
『よくねえw』
『本当にこの姉妹はwww』
れんちゃんが楽しければよかろうなのだー!
気を取り直して。れんちゃんは触れ合い広場にいるみんなに会いに行くらしいのでついていきます。れんちゃんが言うには、ゲームマスターさんが見守ってくれてるとはいえ、やっぱりみんなが心配らしい。天使かな? 天使だった。
まず最初に向かったのは、草原ウルフの区画。無駄に広い。百匹いるからね……。
「あ! れんちゃん!」
「生れんちゃんだ!」
「え、あ、こ、こんばんは……」
ウルフたちを撫でていた来場者さんに声をかけられて、れんちゃんは挨拶を返して、けれどちょっと怖かったのか、私の後ろに隠れてしまった。ひょこりと、顔だけ出してる。
「リアルれんちゃんかわいい」
「怖くないよ? 出ておいで?」
「いや十分怖いから」
何を言ってるんだろうねこの人たち。不審者にしか見えなくなってるよ。
『どこからどう見ても怪しい集団だしな』
『むさい男どもが集団でウルフを撫で回す光景』
『絵面がひどすぎるw』
本当に。運営さんはどうにかするべきだったと思う。いや、どうにもならないのは分かってるけどさ。
ちょっと怖がってたれんちゃんは、私の後ろからちょこっと顔を出して男たちに聞いた。
「あのね、もふもふ、好き?」
「もちろん」
「大好きです」
即答する男たち。まあ、嫌いならわざわざここに来ないよね。
それを聞いたれんちゃんは、ぱっと顔を輝かせた。そう言えばれんちゃんは、もふもふが好きな人に悪い人はいないって考えだったね。
れんちゃんは駆け出すと、ウルフの一匹を抱きしめた。
「この子! この子が一番やわらかいの! ふわふわ!」
「へえ」
「でね! でね! あっちの、えっと……。この子! この子はかけっこが一番速いの! いつも真っ先にわたしのところに来てくれるんだよ!」
「おう……」
「次はね、次はね!」
あ、終わらないやつだ。
どうしようかな。来場者さん、飽きちゃったりしないかな。さすがに途中で帰られたら、れんちゃんもちょっと気にするだろうし……。
なんて思ったけど。
『大丈夫だろ』
『れんちゃんのもふもふ自慢を生で見れるとか、裏山』
『にっこにこで好きなものを話してくれるれんちゃんを見てて飽きるはずがないんだよなあ』
「それはそれで色々危ないと思うけど、それならいっか」
見てみると、なるほど確かに、みんな笑顔で見守ってくれてる。迷惑そうにしてる人なんていなくて、ちゃんとしっかり聞いてくれてる。
大勢の前に姿を見せるってことでどうなるか不安だったけど、これなら大丈夫そうだ。ちょっと安心した。
私ものんびりと、みんなと一緒にれんちゃんのもふもふ自慢を眺めるとしようかな。
壁|w・)むふー(ドヤァ
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ではでは!






