配信三十五回目:伝統的なお祭り
今回のイベントのメインになってる闘技場はサズにある。つまりここはサズという街だったりするんだけど、れんちゃんは来たことがないので気付いてない。イベントのために闘技場周辺がものすごく飾り付けされててサズの面影がなくなってるから、多分今後も気付かないかな。
イベント用として闘技場と周辺の区画が利用されてるんだけど、その区画の隅にそれはあった。
「わあ……!」
れんちゃんの感嘆のため息。私はまあ、うん。言葉が出なかった。
そこにあったのは、日本のお祭りや縁日で見られる露店だ。たくさんの屋台が並んでる。わたあめとかたこ焼きもあるし、射的に金魚すくいもある。長さはそれほど、というより左右に十軒ずつの二十軒しかない。けれどそれは、昔から続く日本のお祭りの光景そのものだ。
当たり前だけど、このゲームの世界観にそぐわない。だから、NPCのお店ではないと思う。
「アリス、これって……」
隣のアリスに聞いてみると、彼女はにんまりといたずらっぽく笑った。私にだけ聞こえるように教えてくれる。
「れんちゃん、お祭りに行ったことなんてないでしょ? それが掲示板でちょっと話題になったの」
「そう、なんだ」
「うん。で、みんなで話し合って、日本のお祭りを再現できないかなって。運営にも相談してみたら、この区画だけ自由に使わせてもらえることになったんだよ」
ああ、そっか。つまり、日本のお祭りを楽しんでもらおうと、れんちゃんのために用意してくれたのか。
見れば分かる。この小さなお祭りにはたくさんの人が関わってる。お店に立っている人だけじゃない。屋台を作った人もいただろうし、このゲームにはない景品を工夫して用意してくれた人もいると思う。
はは……。みんな、みんなみんな、優しすぎるでしょ。
「おねえちゃん?」
れんちゃんに呼ばれてそちらを見ると、心配そうに私を見ていた。じっと、私の顔を見つめてくる。今はちょっと、見られたくないんだけど。
「どこか痛いの?」
「んー……。大丈夫。大丈夫だよ」
うん。よし。涙はひっこめる。せっかく用意してくれたのに、私のせいで満足に遊べなかったら申し訳ないから。泣くだけなら、後でもできる。
「よし! 遊ぶよれんちゃん!」
「うん!」
というわけで! お祭りだー!
『大丈夫そうだな』
『焦った。ミレイも泣くんだな』
『実は涙もろいところあるよな、ミレイ』
『立ち直れたようで良かったな』
『準備班の俺たちはのんびり見守るとするか』
『おう』
『からかいながらなw』
『おうw』
れんちゃんのために用意してくれたこのお祭りだけど、もちろん一般客もたくさんいる。アリス曰く、れんちゃんが気にしないように、れんちゃんのために用意した、というのは隠すつもりらしい。コメントが静かだったのもそのためだとか。
それに、お祭りには人がいないとね、という意見もあったとか。その通りだと思う。閑古鳥が鳴いてるお祭りは、むしろホラーだ。
というわけで、れんちゃんが迷子にならないように、シロを呼びました。れんちゃんはシロに乗って移動です。
「シロ! シロ! 楽しいね!」
まだ何もしてないのにれんちゃんのテンションはとても高い。シロをもふもふしながらにっこにっこしてる。そんなれんちゃんに影響されてるのか、シロの足取りも軽い。あれだね、飼い主の影響を受けて……。
いや待て。君、私のテイムモンスだよね……?
いや、うん。れんちゃんかわいいからね! 仕方ないね! わかるとも!
『ミレイの表情がおもしろいw』
『笑顔から困惑になって、ちょっと怒ったかと思ったら急にまた笑顔』
『大丈夫? 頭ぶっ飛んだ?』
「私の心はれんちゃんに囚われてるからね……」
『きもい』
『うざい』
『くせえ』
「ひどい」
自分でも確かに気持ち悪いセリフだなと思ったけど、そこまで言わなくても。
「おねえちゃん! あれやりたい!」
「ん?」
れんちゃんが最初に興味を示したのは金魚すくいだ。定番だね。……いや待って、金魚なんていたかな。
『運営が仕方ないなとばかりに用意してくれました』
『俺たちもびっくりなえこひいきでした』
『金魚どうするかなって話し合ってたら掲示板にゲームマスター降臨したからな』
『冗談抜きでびびった』
「うわあ……。あとでお礼、言っておかないと……」
この区画を用意してくれただけじゃなかったらしい。びっくりだよ本当に。
金魚すくいの屋台に向かう。店番さんのお兄さんに声をかけると、一瞬驚いた後、満面の笑顔になった。
「いらっしゃい! やってくかい?」
「おお……。雰囲気出てる」
「そこは黙っておこうか」
おっと、すみません。
「ささ、れんちゃん、やってくかい?」
「え? わたしのこと、知ってるの?」
「あ」
『お前もボロを出すのかよw』
『舌の根が乾かぬうちに、なんてレベルじゃねえぞw』
『お前俺らの代表だぞしっかりやりやがれボケェ!』
わあ。視聴者さんたちがこわい。店番さんも冷や汗流してるよ。
「い、いやあ、配信見てるからね! いつも楽しませてもらってるよ!」
「そうなんだ! ありがとう!」
嬉しそうに笑うれんちゃん。店番さんの笑顔は見事に引きつってる。なんとなく、わかるよ。
「罪悪感で死にそう……」
『わかる』
『耐えてくれ』
『れんちゃんのためだ』
「おう……」
是非ともがんばってください。応援しかできないけどね!
壁|w・)ろこつなえこひいき。
222 名無しさん
金魚すくいもやりたいよな
223 名無しさん
いいな、金魚すくい
問題は金魚だけど
224 名無しさん
代わりになりそうな魚もいないな。
225 GM
金魚ですか
開発部に相談してみましょう
226 名無しさん
ふぁ!?
きっとこんな感じ。
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ではでは!






