配信三十五回目:浴衣
触れ合い広場を出たところで、アリスが待ち構えていました。
「ふふふ。待ってたよミレイちゃん! れんちゃん!」
「通報」
「やめて!? まだ何もしてないよ!?」
『まだとは』
『これは黒だな。真っ黒だ』
『ギルティ』
「違うから! 本当に違うから!」
分かってるよ冗談だよ、だからそんな泣きそうな顔しないでよ。
れんちゃんからもすごく冷たい目で見られちゃってるよ……。
「あ、でも、これはこれで……」
『おい、ミレイが変な扉開きかけてるぞ』
『落ち着けミレイ! その先は地獄だ! 割とガチでヤバイ地獄だ!』
『はい、扉閉じなさい。今すぐに』
「はい。うん。落ち着いた」
危ない。わりと冗談にならない扉だった気がする。よし落ち着け私。こういう時はれんちゃんをぎゅっとして深呼吸だ。
はあ、落ち着く……。
「おねえちゃん、ちょっとだけうざい」
「あ、はい……」
ぐさっときた。割と深く刺さった。言葉は選ぼう、れんちゃん。選んでそれ? あはは、そっかー。……そっか……。
「で、アリス。用件は?」
「うわあ、テンションが急降下してる……。まあそんなミレイちゃんもテンション上がること間違い無し!」
「はいはい」
「お祭りと言えば、浴衣、だよね? ということで、浴衣を作ってきた!」
「アリス最高! さすがだねアリス分かってる!」
「いえーい!」
「いえーい!」
アリスとハイタッチ! いや本当、まさか用意してくれるとは思わなかった。そりゃテンションも上がりますよ。
『なお、れんちゃんの目は加速度的に冷たくなってます』
『気付いて。れんちゃんがすごく白けてるから』
「なんと」
振り返ると、れんちゃんがこっちを軽く睨んでた。ちょっと怒ってるかも。でも、少しだけ見つめ合うと、仕方ないなあとばかりに苦笑いされてしまった。ごめんね、変なテンションになっちゃって。
とりあえず話を進めましょう。アリスと視線を交わし、頷き合う。素早くいこう。
というわけで、恒例のトレード画面。アリスから服をもらう。
「さすがに時間が足りなくて、れんちゃんの浴衣しか用意できなかったよ」
「そっか。いや、うん。仕方ないよ。文句なんて……」
「という言い訳はしない! ちゃんとミレイちゃんの浴衣もあるよ!」
「マジですかマジだ最高だよアリス!」
「でしょでしょ! もっと褒めてもいいよ!」
「アリスすごい! かしこい! よしぎゅっとしちゃう!」
「よしどんとこい……、ありゃ?」
謎の勢いのままに任せてアリスを抱きしめようとしたら、れんちゃんがすすっと間に割り込んできた。アリスと二人で首を傾げる。れんちゃんは、ぎゅっと私にしがみついてきた。
「おねえちゃんは、わたしの」
「あ、うん……。ごめんね?」
『おや? これはもしかして、嫉妬?』
『そこは譲れないんだなれんちゃんw』
『まあ意味わからんテンションになってた二人が悪いな』
「いや、うん。さすがに変なテンションだった」
これもお祭りが悪い。
「いやだってさ。お祭りって、無駄にテンション上がらない? こう、説明のできないハイテンション」
『わかる』
『わからん』
『人によるとしか』
そっか。まあ、うん。本当に落ち着こう。
とりあえずもらった浴衣をれんちゃんに渡す。れんちゃんは首を傾げながら、早速着替えてくれた。当然だけど着替えといっても装備を変更するだけなので一瞬です。
れんちゃんの浴衣は、全体的に薄い青色で、水玉の模様が描かれてる。さらにちょっとした装飾品として、金魚を入れる水の袋も。確か金魚袋、だったかな?
私は対照的に、薄紅色の浴衣。模様は金魚、かな? うん。いいと思う。
「うん……。うん」
アリスと二人で、視聴者さんにお願いされてくるっと回るれんちゃんを見る。アリスと視線を交わす。頷き合う。がしっと握手した。
『こいつらwww』
『いや、でも今回は分かる。浴衣れんちゃんかわいい』
『浴衣ミレイもかわいい……はずなのに、色々と台無しなんだよな……』
「うるさいよ」
いいんだよ私のことなんて。もっとれんちゃんを見て。ほらほら。
「れんちゃんかわいいでしょ?」
ぎゅっと後ろから抱きしめる。うーん、かわいい!
『それは否定しない』
『むしろ全力で認める』
『れんちゃんかわいいやったー!』
「やったー!」
よし。満足。
「じゃ、お祭りいこっか」
『急に冷静になるなw』
「早く行かないと時間なくなるからね」
というわけで、出発です。いやまあ、この周辺が全て会場だから、移動する必要なんてないんだけど。
というわけでれんちゃんと一緒に順番に回ろうと思ったら、何故かアリスから待ったがかかった。
「ミレイちゃん。れんちゃん。こっち」
アリスが手招きして歩き始める。私はれんちゃんと顔を見合わせて、それでもついて行くことにした。
壁|w・)要約:浴衣をもらったので着ました。
お祭りを回るはずだったのに……。
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ではでは!






