配信三十五回目:がおーテロ
一応ここに入る人数って決められてるんだけど、それにしてもすごい人数だ。みんなそれぞれ、気になった子のところに行ってるみたいだね。
一番人気はレジェ、二番人気はラッキーたち子犬組。特に子犬組は女性に大人気だ。黄色い声がここまで届く。私としても鼻高々です。
シロとクロは私の護衛なので側にいるわけだけど……。
「わあ、この子がシロちゃんなんだ! ふわふわだあ……!」
「クロくんもちっちゃいけど格好いいね!」
この子たちも大人気だよ……。
「ミレイさん、シロちゃんはどうやってテイムしたんですか!?」
「え、あ、えっと……。たまたま見かけて、エサをあげたら、仲良くなりました……」
「へえ! すごい! 運命だ!」
どんな運命だよ。シロのことは大好きだけど、狼が運命の相手とか嫌すぎるよ。私の運命の相手はれんちゃん以外にあり得ないから。間違い無い。
たくさんの人が入れ替わり立ち替わり、もふもふしていく。特にレジェを触った人は感動したみたいにみんな震えてた。次からのもふもふが物足りなくなるよ……?
みんなのもふもふを見守って、シロもそれに巻き込まれて。私はクロを肩にのせて、嵐が過ぎ去るのを静かに待つ。みんな、すごい。元気。
「だめ、疲れた。避難します……」
『おう。お疲れ』
『見てたけど大変そうやなw』
『休め休め。これはしんどいわ』
シロを呼び戻して、そそくさと移動。ぽちっと移動する先は、れんちゃんのホーム。いつもと違う静かなホームで、私は一息ついた。
予想以上でびっくりだ。あれは、むり。疲れる。
そうしてしばらく休憩していると、いつの間にか十二時になってたみたいだった。
「おねえちゃん」
「あ。れんちゃん」
れんちゃんが抱きついてきた。普段はいるラッキーがいないのが寂しいのか、すぐにクロを構い出す。クロをころんと仰向けにして、お腹をわしゃわしゃ。クロは抵抗するどころか、気持ち良さそうだ。……うん、君は私のテイムモンスなんだけど。いいけどさ。
「れんちゃん、とりあえずは触れ合い広場で軽く挨拶だけど、その後はどうしたい?」
「んー……。みんな楽しそう?」
「楽しそうだったよ」
本当に。テイマーさんはもちろんのこと、普段はテイムをしていない人たちも、あまり触れられないモンスに触れて楽しそうだった。多分、明日からはテイマーさんが増えるんじゃないかな。そうなったら、ちょっとだけ嬉しい。
「そうなんだ。じゃあね、ちょっとだけわがまま、いい?」
「いいよ。何かな?」
「お祭り、見てみたい」
ああ、そっか。れんちゃんにとっては初めてのお祭りだ。それは是非とも見に行かないといけない。山下さん曰く、プレイヤーのお店にはわたあめやたこ焼きを出してる店もあるらしいし、リアルのお祭りと大差なく楽しめるはず。
「うん。いこっか。お祭り!」
「やった!」
れんちゃんが嬉しそうに笑ってくれるだけで十分です。とりあえず、ぎゅー。
そしてこっそり配信再開をぽちっとな!
『お、再開か!』
『れんちゃんきた……何やってんの?』
「れんちゃんがかわいいのでぎゅっとしてます」
『お、おう』
『いつも通りですね。……あれ? いつも通りってやばくない……?』
『落ち着け。それは気付いてはいけない闇だ』
どういう意味だ。
おっと、れんちゃんが配信に気付いて逃げだそうとしてる。でもだめなのだ。もう少しぎゅっとさせてください。
「おねえちゃん、はなして」
「やだ」
「…………。むう」
『おや? 珍しく怒らない』
『いつもなら気持ち悪いとか言いそうなのに』
「ん……。だって、疲れてるみたいだから……」
『れんちゃん優しい!』
『れんちゃんの優しさに全俺が泣いた』
『本当にいい妹だよな』
「れんちゃんが優しいのは最初からでしょ、何言ってんの君ら。バカなの?」
『辛辣ぅ!』
『こっちは優しくないw』
『いつものことである』
うん。れんちゃん分を補充して元気出た。よしよし、では行きますか。まあその前に、触れ合い広場に寄らないといけないわけだけど。
というわけで、れんちゃんと一緒に触れ合い広場へ。来場者さんの顔ぶれは変わっても、みんな楽しそうでにこにこだ。
まだれんちゃんには気付いてないみたいだ。れんちゃんはきょろきょろしてる。多分、ラッキーを探してる。連れて行きたいんだろうね。
本来なら、こうして触れ合い広場に出てる以上、連れて行くのは良くないことだと思うけど、ラッキーに負けず劣らずのもふもふ子犬はちゃんといる。大丈夫でしょう。
もしかしたら、山下さんはこれを見越してあの子犬をれんちゃんに贈ったのかもしれないね。
お、れんちゃんがラッキーを見つけた。でもたくさんの人に囲まれてる。さすがに割って入るのは難しい……。
まって。れんちゃん何するつもり。いやさすがにここでそれは、いやほんとにやるのまって耳塞ぐから!
「がおー!」
がおー入りましたー! 鼓膜が! 鼓膜が破れる! ゲームだから鼓膜ないけど!
吠えたのは全てのテイムモンス。だからみんな突然の大音量に驚いて耳を塞いでる。れんちゃんはそのすきにさささっと女性プレイヤーの集団にもぐって、ラッキーを連れてきた。
れんちゃん、いつの間にそんなにしたたかになっちゃったの……? れんちゃんの成長が嬉しいような、寂しいような、私としては複雑な心境です。
『れんちゃんかしこい』
『かしこいけど、せめてこっちには警告欲しかったかな』
『鼓膜ないなった』
『がおーたすかる』
『がおーたすかるというパワーワードよ……』
「えへへ。ごめんね」
れんちゃんはいたずらっぽく笑う。そんな笑顔も素敵です。
その、無音だからこそよく響いたれんちゃんの声に、みんなが振り返った。
「あ、れんちゃん!」
「れんちゃんだ!」
「れんちゃんかわいい!」
さすがれんちゃん、人気者だ。事前に運営さんから注意されてたからか、こっちに来られることもなく、みんなが明るく手を振ってくれる。
周囲で目を光らせてるゲームマスターさんの存在も大きいかもしれない。さすがにこの世界のルールの目の前で変なことをする人はいないか。……いないよね。早めに行こうかな。
「たくさん遊んであげてね!」
れんちゃんはそう言って手を振って、私たちは素早くその場を後にした。
壁|w・)目の前のモンスターたちが突然一斉に吠える。
下手をするとトラウマでは……?
次回はアリスと合流です。
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ではでは!






