配信三十五回目:イベント、開場
ついに。そう、ついにだ。この日がやってきた。公式イベントの開催日だ……!
イベントの時間は午前九時から夜九時までと長い時間になる。PVP大会参加者は午前中に予選があって、午後から本選なんだとか。
丸一日かけてのイベントなので、当然ながらリアルの都合で参加できない人もいるみたいだけど、さすがにそれは運営曰く次の機会に、ということらしい。全員の都合を合わせることなんて不可能だろうから、仕方ないと思う。
周辺ではプレイヤーもだけど、NPCもたくさん露店を出してくれるから、戦闘に興味がなくてもお祭り気分で回るのもいい、とのこと。むしろぶっちゃけそっちのお祭りの方がメインになるのでは、と山下さんは言っていた。それでいいのか運営。
で、私の仕事は朝の九時から夜の九時まで。ちょっと長いけど、山下さんの計らいで一日限りのアルバイト、みたいな扱いになった。色々と契約も交わしたよ。まあ、お父さんに確認はしてもらったけどね。
もっとも、休憩自由な上に大した仕事があるわけでもないけども。
れんちゃんは、担当医の先生と相談して、十二時から十四時と十八時から二十時に来てもらう予定だ。あの子の場合は触れ合い広場にちょっとだけ顔を出せば、あとはお祭りに参加でもいいらしい。管理はこちらでやります、だって。正直、助かる。
簡単にまとめてしまうと。できるだけログインしていてほしいけど他は自由ってことだ。
「そんなわけでれんちゃん、十二時に広場で待ってるからね」
自室でれんちゃんとお電話中。れんちゃんはわくわくが隠しきれない声で、はーいと返事をしてくれた。
れんちゃんもすごく楽しみにしてたからね。是非とも成功させたいところ。
というわけで、そろそろ九時なのでログインです。
今回は特別仕様で、私がログインするとそのまま触れ合い広場に転送されるようになってる。だから目を開けた時、いつもと違うその光景に、思わずおお、と声が漏れた。
転送された場所は、広い広場。広さは、多分野球の球場程度なら余裕であると思う。
その広場にいくつもの木の柵が設置されていて、その中にれんちゃんのテイムモンスがたくさん集まっていた。一つの柵に一つの種族。ディアとかボスモンスは単独だ。少しだけ狭いかもしれないけど、耐えてほしい……。あれ? なんか、みんな結構のびのびとしてる。いや、いいことだ、うん。
「お待ちしておりました。大島様」
「あ、どうも山下さん」
いつの間に後ろにいたのか、山下さんが立っていた。社会人らしく、ぴしっとしたスーツを着てる。でも、ゲーム内ぐらいもっとこう、ファンタジーな服装でもいいと思うんだけどね。
「その辺りどうですか?」
「その辺りはここで管理をする者に任せますよ」
そう言って、山下さんが周囲に視線をやる。つられて見てみると、それぞれの柵に鎧姿の男の人やローブの女の人がいた。ただ、その、なんというか。
「仕方ないとは分かってるんですけど、ファンタジーな服装に、ゲームマスターのたすき掛けはちょっと……」
「はっきり言ってくれても大丈夫ですよ」
「バカっぽい」
ぐふう! となんか誰かの声が聞こえてきた。えっと、一人、膝をついてる人がいるけど、あの人大丈夫なの?
「たすき掛け考案者です」
「察した。……いるなら言ってくださいよ、さすがに濁すのに」
「つまり濁す必要があると」
「……っ!」
ああ! さっきの人がさらに凹んでる! というか周囲の人も励ますとかさ、しないのかな!? 漏れなくお腹抱えて笑ってるけど!
うん。いや、うん。でも。
「楽しそうな職場ですね」
私がそう言うと、山下さんは何も言わなかったけど小さく微笑んだ。
九時少し前。周囲を、触れ合い広場をざっと見回す。それぞれの柵にゲームマスターさんが待機してくれてる。あまり長時間居座る人には注意するらしい。
とりあえず私はいつも通りのことを、ね。
というわけで、配信開始をぽちっとな。
「どうも皆様こんにちは。テイマー姉妹のもふもふ配信へ、ようこそ」
『きもい』
『あまりにも気味が悪い』
『ミレイどうした、頭大丈夫か?』
「あはは。喧嘩売るなら買うぞこの野郎」
たまには真面目に始めてみようと思ったらこれだよ。少し失礼すぎると思います。
「今日は公式イベントの日なので、この配信も特別バージョンです。いや、まあ、長時間配信しますよってだけだけどね」
『触れ合い広場の日だな!』
『触れ合いイベント! 運営ありがとう!』
『もふもふとの触れ合いのイベントなんて、さすが運営分かってる!』
「いやいや、メインはPVP大会の方だからね?」
あくまで触れ合い広場は露店の一つ、という形式だ。形式というか、建前だ。それだけは忘れちゃだめなのです。もふもふに興味がない人もいるだろうし。
まあ私としては、もふもふに興味がないとか、人生の十割損してると思うけど。
『れんちゃんは?』
「れんちゃんはまだログインしてないよ。ああ、そうだ。触れ合い広場にご来場する皆様に注意です。……ああ、うん。どうせならみんなに連絡ね」
私がそう言うと、触れ合い広場の前の映像が目の前に出てきた。うわあ、なんだかすごい行列ができてる。今からこの人たち全員にも放送するわけだけど……。やだなあ……。
いや、でも、必要だからね。山下さんがやるっていう話を、私が自分でやるって言ったことだ。れんちゃんに関わることを、他の人に譲るつもりなんてない。
「あーあー。てすてす。聞こえてますか」
私がそう言うと、画面に映る人たちが全員こちらを向いた。怖いって。
「もうすぐ触れ合い広場を開場しますが、少しだけ注意事項です。当然ですが、ここにいるモンスたちに攻撃やテイムをしかけることは禁止です。運営のゲームマスターさんたちがそれぞれ見張ってるからすぐにばれるよ」
何人かが目を逸らした。やるつもりだったのかな?
「あと、私としてはゆっくりもふもふしてほしいですが。してほしいですが! 時間も限られているので、一人十五分までです。もふもふは計画的に」
とりあえず、反応はなし。まあ事前に注意事項として記載されてたから、この辺は分かってるか。
「最後に、れんちゃんはずっとこの会場にいるわけじゃありませんのでそのつもりで。もしかすると露店巡りの方がれんちゃんと会えるかもね」
ざわりと。空気が揺れた。れんちゃんが目当ての人もいるらしい。れんちゃんかわいいからね!
「連絡事項はこんなもの、かな。最後に、皆さんがもふもふで癒やされますように」
というわけで、開場です!
壁|w・)触れ合いイベント開始です。
PvP? 闘技場? なにそれ?
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ではでは!






