草原ウルフ3
「おねえちゃん、登録されたよ!」
「う、うん……。そっか。いや、れんちゃんがそれでいいなら、いいんだけどね?」
なんとも色々と言いたくなるけど、れんちゃんがいいなら、いいか。うん。
「えへへ。らっきー」
「わふん」
ぺろぺろれんちゃんのほっぺたをなめるラッキー。あざとい。実にあざとい。狼じゃなくて犬だね、間違い無い。
ところで。そう、ところで、だ。私はね、とっても嫌な予感がしているわけですよ。
ラッキーウルフの説明文には、ウルフのお姫様とあった。それはつまりさ、親がいるってことじゃないかな。王様みたいなのがいるってことじゃないかな!? そして私は残念ながらそれに心当たりがあるんだよね!
ずしん、と地面が揺れる。まあくるよね、と振り返れば、大きな大きなウルフさん。他のウルフの五倍ぐらいの大きさ。でかい。このフィールドのボスモンスターだ。
娘さんを取り返しにきたのかな。そうなんだろうな。そうとしか思えない登場の仕方だったよね。
まあ、倒せるのは倒せる。危なげなく倒せる自信がある。フィールドボスといっても、最初のフィールドだしね。今更後れを取るとは思わない。
でもなあ……。れんちゃんの前で、ゲームのモンスターとはいえ、生き物を殺したくないなあ……。
「おねえちゃんおねえちゃん!」
「んー? お姉ちゃんは修羅場を乗り切る方法を考えるのに忙しいけど、どうしたの?」
「友達増えた!」
は? とまた振り返れば、草原ウルフが三匹ほど取り囲んでれんちゃんをぺろぺろしていた。なんだこれ。しかも全部テイムしたみたいだし。
「あ」
お、れんちゃんがボスに気が付いた。
「おっきないぬ!」
やめてあげて! 犬扱いにボスですら一瞬動き止まったから! モンスターにもAIが積まれてるかも、とは聞いたことあるけど、真実味が増すね。こんな気づき方はしたくなかったけど。
そしてれんちゃんは恐れることなくボスに向かっていった。すごいよれんちゃん。怖い物知らずだね。
まあ、ノンアクティブだから問題はないんだけどね。ぺたぺたボスを触って、ふわあ、なんて間延びした声を上げてる。ぺたぺた、というか、もふもふ、というか。いいなあ、柔らかそう。
ボスもまた白いウルフで、じっとれんちゃんのことを見つめていた。顔を近づけて、ふんふん臭いを嗅いでいる。
「あ、そうだ! あなたも食べる?」
れんちゃんが、エサを差し出して。ボスが、ぱくりと食べて……。
「えー……」
ボスのテイムに成功するとか、どういうことなの……。
ボスのテイムは、テイマーたちがずっと試してきたことだ。眠らせてみたり、ぎりぎりまで体力を減らしてみたりして、どうにかテイムしようとみんなが躍起になっていた。
けれど、誰一人として成功することはなかった。確率が低いだけなら、いつかは誰かが成功するだろうに、ただの一人も成功しなかったのだ。
出された結論は、ボスモンスターはテイムできない、というもの。私もそれを疑ってなかったんだけど……。
「えへへー。ディアももふもふだあ」
ボスの背中にのって、全身でもふもふを堪能するれんちゃん。現実逃避したくなる。
そのれんちゃんの頭の上には、小さいウルフのラッキー。なんか、すごい光景を見てる気がする。
ちなみにボスはディアと名付けられました。かっこいい名前だね。うん。
他の草原ウルフについては、名付けはなし。何か名前をつけようとしたけど、私が止めた。
テイムには二種類ある。名付けをするかどうか、だけど、この差が大きい。
名付けをした場合は、どこにいても名付けをした子を呼び出せる。ただしこれには上限があって、一人につき五匹までだ。取り消しもできるけど、れんちゃんがそれをするとは思えない。この先に他の出会いもあるかもだし、草原ウルフの名付けは止めさせてもらった。
名付けをしない場合は、フィールドに来るたびにテイムした子たちが駆け寄ってくる。これは何匹でもできるけど、来てくれるのは毎回ランダムで五匹まで。もふもふするなり一緒に戦うなりは人次第だね。
この辺りのシステムは後日のアップデートで変更が入るかもしれないけど。
「それにしても……」
まだ一時間程度だというのに、なんでこんな怒濤の勢いでやらかしてるのかな。誰かに迷惑かけるようなことじゃないからいいけどね。いいけどさあ!
「ごろごろー」
ああ、大きな犬の上でごろごろ転がるれんちゃんがかわいい……。なんか、考えるのが面倒になる。いいなあ、私もごろごろしたい。
「シロでごろごろとか……。どう考えても無理か」
うん。変なこと言ったのは分かってる。何言ってんだこいつ、みたいな冷たい視線はやめるんだ。
草原の隅っこで、ウルフたちと戯れるれんちゃんをのんびり眺める。なんだかこう、幸せな気持ちになる。と思っていたら、れんちゃんがディアの背中から下りてきた。草原ウルフが集まってきた。何も知らない人が見たら初心者さんが襲われてるように見えるのかな。
「わ、わ、わ……!」
ウルフたちにもみくちゃにされてる。ほっぺた舐められまくってる。見ていてちょっと面白い。
ウルフたちはひとしきり舐めると満足したのか、離れていく。一定距離まで離れて、丸くなった。あれは、もしかしてれんちゃんを守る布陣なのかな。
「おねえちゃーん!」
おっと、呼ばれたので行きますか。
シロを連れて、れんちゃんの元へ。れんちゃんはとことこ走ってきて私に抱きついてきた。ぎゅっと抱きしめておく。
「わぷ……。おねえちゃん、苦しいよ?」
「寂しかったもので」
「えー」
嘘ではないけど、まあ見ているだけでも十分でした。こっそり視覚撮影でスクリーンショットもたくさん残した。ほくほくですよ私は。
「それで、どうしたのれんちゃん。もういいの?」
「んー……。この後は何するのかなって」
「特に予定はないよ。街を案内しようかなと思ったけど、れんちゃんはこの子たちと遊びたいんでしょ?」
「うん!」
「それなら、街は明日にしよう。今日はたっぷり遊んでおいで」
背中を押してあげると、れんちゃんは嬉しそうにディアの元へと駆けていった。あんなに楽しそうなれんちゃんを見るのは久しぶりだ。
ディア、ラッキーと遊び始めるれんちゃんを眺めながら、私はシロをもふもふした。寂しいわけじゃない。ないったら、ない。
壁|w・)2匹目は大きいウルフです。白くてもふもふです。ごろごろーができます。
ごろごろー。
配信要素はもうちょっと待ってほしいです。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。






