配信三十三回目:ペンギンを籠絡した幼女
ところでそのれんちゃんなのですが。
「そうこう話している間に不思議な空間になりました」
『こいつらこんなにいたのかw』
『すげえ……一羽お持ち帰りしたい……』
『同じく』
うん。ばれないような気がするよね。
れんちゃんの周りには、ペンギンの雛がたくさん集まってる。軽く三十羽はいるんじゃないかな。のんびりまったり釣り糸を垂らすれんちゃんの周りに、邪魔をしないように少しだけ離れて見守ってる。よく見ると座ってるれんちゃんの膝の上にも雛がいるし。
こうして見ると、やっぱりかわいいよね。頬がにやけちゃう。
「で、ルルさん。こういうイベントなの?」
『うん。多分、仲良くなるとこのイベントが発生して、釣りに成功すると一部のペンギンがホームにお引っ越ししてくれる』
「…………。仲良くなると?」
『普通は最初から懐かれるなんてないから』
ですよね。知ってた。
お、れんちゃんの竿が動いた。れんちゃんが慌てて釣り上げようと……。
「お、おねえちゃん! 助けて!」
「れんちゃん。その釣り竿には自動機能があるよ。釣り竿を叩いたらメニューが出てくるから、自動をタッチして」
「えっと……。こうかな?」
れんちゃんが釣り竿を軽く叩く。あ、とれんちゃんが声を上げたので、ちゃんと出てきたんだろう。すぐその後に、魚を釣り上げていた。
「ちなみに川の主とかそんな大物になると使えない機能らしいから、あまり期待しないように」
『今一瞬期待してたw』
『最高レアじゃないし課金してでも、と思ったけど、そうかだめか……』
『さすがにそこまで甘くないわな』
れんちゃんが釣り上げた魚をえっちらおっちら側に下ろす。不慣れだと一目で分かる手つきだけど、そこはゲーム、釣り上げたという成果が出てるので、逃げられることはない。
私もペンギンの雛の間を通って釣果を見に行く。お、穴に通るぎりぎりの、大きな魚だ。
『なんでやねん』
『お、どうした。何の魚か分かるのか?』
『鮭。キングサーモン。池じゃないだろうお前は』
『草www』
『草に草を生やすな』
『多分、あれだ。池の底で海と繋がってるんだよ!』
そ、そうかもしれないね。うん。きっとそうだ。
ちなみに鮭はゲーム内でまだ見つかってなかったはず。もしかしたら、昨日の時点で釣果として報告されてるかもだけど。
れんちゃんは自分一人で釣った鮭を見て、すごく嬉しそうだ。こう、すごく堪えた笑顔。にまにましてる。かわいい。
満足したのか、れんちゃんは改めて周りを見回して、
「わあ!? たくさんいる!」
あ、気付いてなかったのかこの子。
「え、と。どうしよう。一匹じゃ足りないよね……。もうちょっと待ってね」
れんちゃん、釣りを再開。どうやらみんなに行き渡るように釣りたいらしい。良い子だなあ……。でもさすがに時間がかかりそうなので、私も手伝うとします。
釣り竿を出して、れんちゃんと同じ穴に糸を垂らす。リアルでこれをやると糸が絡んだりするだろうけど、ゲーム内では大丈夫。のはず。
「れんちゃん、その子にすごく懐かれてるね」
膝にいる雛を見ながら言うと、れんちゃんは嬉しそうに頷いた。
「うん。すっごくかわいいよ。すごく人懐っこくて、もふもふしてるの。ぎゅっとしても、嫌がらないよ」
れんちゃんが雛を抱きしめる。雛は目の前のれんちゃんの腕にすり寄っていた。なるほど、これは、かわいい。
『俺、絶対テイム覚える。九尾テイムして、ペンギンさんと会う』
『九尾をテイムするだけならそんなに難しくないらしいしな』
『俺もがんばるかな……』
ペンギンの魅力にやられた人は結構多いみたいだ。
その後、私が一匹、れんちゃんが二匹釣り上げて。計四匹になった。これで足りるかな?
『しれっと流してるけど、れんちゃん合計三匹で、ミレイは一匹のみです』
『ミレイ……』
「言いたいことがあるなら早く言えばいいと思うよ? うん?」
『すみませんでした』
私だって実はちょっと凹んでるから、触れないでほしい。
れんちゃんが鮭を地面、と言えばいいのか氷の上と言えばいいのか。とにかく並べると、ペンギンの雛たちが集まってきた。みんなでつんつんつついて食べ始める。れんちゃんはそれを、にこにこと見つめていた。
『ああ……。三匹以上、釣っちゃったのね』
「ん? どういうこと?」
『三匹以上の釣果で次のイベントが発生、ボス戦というか、なんというか……』
「ん……?」
なんだろう。ちょっと煮え切らない返事だ。ボス戦? ペンギンはモンスターじゃないのに?
「おねえちゃんおねえちゃん!」
どういうことかなと考えていたら、れんちゃんに呼ばれてしまった。はいはい今行きますよっと。
「こんなの出たよ!」
れんちゃんが出てきていたメッセージを見せてくれる。えっと、なになに? 引っ越しを希望しているペンギンがいます。招待しますか。おお、目的達成だ。
「やったねれんちゃん。はいを選択してね」
「うん!」
れんちゃんははいをタッチすると、何匹かのペンギンが前に出てきた。ペンギンが六羽と、雛が三羽。えっと、三家族かな? この子たちがれんちゃんの雪山に来てくれるらしい。
「うわあ! うわあ!」
れんちゃん大喜び。歓声を上げてペンギンに抱きついた。ペンギンは抵抗とかはせず、されるがままだ。雛もれんちゃんの周りに甘えるように集まってる。
いいね。これが見たかった。写真写真。
「タイトルは、そうだね。……ペンギンを籠絡した幼女」
『籠絡www』
『れんちゃんに怒られるぞw』
『けど間違ってはないと思ってしまう……』
「冗談だよ、冗談」
さすがに本人に言うつもりはないよ。嫌われたくはないしね。
ん? あれ、ホームに来てくれる予定のペンギンたちが歩き始めた。えっちらおっちら、時々れんちゃんへと振り返って。
「これが次のイベント?」
『うん。そう』
ふむ。じゃあ、とりあえずついていこう。ボスということは、大きなペンギンかもしれない。
壁|w・)平和的な籠絡。……平和的とは。
次回は、ボス。ペンギンじゃないです。
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ではでは!






