配信三十三回目:難易度の高いもふもふ
ちょっとだけペンギンの雛に呆れていたら、親ペンギンかな? 大きなペンギンがこちらにえっちらおっちら歩いてきた。私たちを見て、けれど特に何もしない。そのまま視線が雛の方へ。
雛は親ペンギンに気付くと、親の方にぺたぺた歩いて行った。そのまま、親の足下に入り込む。あれってどうなってるのかな。
「わ……入っちゃった……」
れんちゃんも驚いてるみたいだ。きらきらした目でペンギンを見てる。
「あの! こんにちは!」
ぺこりとれんちゃんが挨拶。親ペンギンはきゅ、と独特な鳴き声を上げて、そしておもむろに頭を下げた。
「礼儀正しいペンギンだね……。君たち見てる? ペンギンに負けてるよ?」
『おまいう』
『うるせえよ』
『いや待て、これはまさか!』
なんだろう、一部のコメントが少し慌ててるような。私が首を傾げる前で、ペンギンは口の中からぼとりと何かを吐き出した。
何か、というか、魚だ。微妙に溶けてる気がする。
そしてその魚を、こちらに差し出してくる。
「これは、あれかな。子供の面倒を見てくれてありがとう、てことかな」
『そう、だろう、けど……』
『絵面がひどすぎるw』
『れんちゃんまで引いてるぞw』
おお、ほんとだ。珍しいことにれんちゃんの頬が引きつってる。さすがにれんちゃんも、吐き出されたものは受け取りたくないらしい。気持ちは分かる、とても分かる。
それでもれんちゃんは、動いた。お魚を手に取り、ペンギンに笑いかける。引きつってるような気がするけど、気にしない。
「ありがとう、もらうね」
れんちゃんの言葉に、ペンギンは嬉しそうに羽をぱたぱたさせた。かわいいけど、なんだろう、さっきの光景のせいで、どうしてももふろうと思えない……!
『これは難易度の高いもふもふ』
『おかしいな、さっきまで微笑ましかったのに……』
『運営か開発か知らんけど、そこまでリアルにするなと言いたい』
本当に。れんちゃんが引くってよっぽどだからね?
さて、他のペンギンを、と考えたところで、ペンギンの親子はまだこちらを見ていた。正確には、れんちゃんを。雛も下から顔を出してて、とても愛らしい。
「えっと……。何かしてほしいことがあるの?」
『さすがれんちゃん、もふもふに優しい』
『俺なら絶対魚の一件で帰るわw』
私も正直帰りたい気持ちの方が強いんだけど、れんちゃんが残るならそういうわけにもいかないからね。大丈夫、私は見守るだけ。そう、見守るだけなのだ。
『ミレイの目が死にかけてるんだけど』
『気持ちはよう分かる』
『がんばれミレイ。今回ばかりは素直に応援してやるから』
「あはは……。ありがと……」
歩き出したペンギンにれんちゃんがついていく。どこに行くのかな。
ペンギンが案内してくれたのは、凍り付いた池にある小さい穴だった。魚なら通れるけど、ペンギンは入れない程度の穴だ。そこにいる魚が欲しいのかな?
れんちゃんも同じことを思ったみたいで、私の方に振り向いてきた。
「おねえちゃん、釣り竿ってある?」
「もちろん」
『何がもちろんなんですかねえ……』
『普通はそんなもん持ち歩かないんだよなあ……』
『何言ってんだお前ら。れんちゃんが釣りをやってただろ。あれで興味を持ってやるかもしれない。釣り竿を持つ理由なんてそれで十分だろうが』
『お、おう』
『もちろんミレイの思考な。ぶっ飛んでる』
「うるさいよ」
綺麗に言い当てられたと思ったら、まさかそんな予想を立てられてるとは思わなかった。いや、いいけどさ。
インベントリから釣り竿を実体化させて、れんちゃんに渡してあげる。銀色の、ちょっと近代的な釣り竿だ。
「ありがとうおねえちゃん!」
「いえいえ」
がんばってね、とれんちゃんを撫でてあげたら、嬉しそうに頷いて駆けていった。
「あの笑顔だけで私は満足です」
『ミレイは平常運転だな』
『お、そうだな。平常が平常じゃないけどな』
『平常とは』
喧嘩売ってるのかなこいつら。
「でもあの釣り竿は世界観考えろと言いたい」
『それなw』
『リアルにありそうな釣り竿だからなw』
『さすがはガチャ産やで……』
そう。あの釣り竿は時折みんなとやってるガチャで出てきたものだ。比較的レアリティは高い方だけど、最高レアじゃないので実は複数所持してる。
「あ、そうだ。昨日れんちゃんと釣りをしてくれた人、今見てる?」
『あ、俺だ。何かあった?』
「いや、昨日のお礼に、あの釣り竿送ろうかなって。ていうか送るから。名前もちゃんと控えてるし。配信終了後に送るからね」
『ちょ、ま、いやそれは、有り難いけど!』
『てめえ……れんちゃんと会っただけじゃなくて、釣り竿までもらうだと……?』
『これは絶許案件』
『処す? うん、処す』
『ヒェッ』
うん。なんか騒がしいけど、私は気にしない。
「みんなはれんちゃんに会えただけで十分とか嬉しいこと言ってくれるけど、それはまた話が違うと思うよ。お礼はちゃんとしないといけないと思います」
『うん。……うん? あれ? まともなこと言ってる?』
『ばかな、ミレイがまともだと!?』
『どうしたミレイ、体調悪いのか!?』
「君ら全員追放するぞこの野郎」
『ごめんなさい』
『すみませんでした』
『許して』
「まったく……」
こいつらは私をなんだと思ってるのかな。常識ぐらいあるよ。あると思う。いや、れんちゃんが関わると、ぶっ飛ぶ自覚はあるけどね。
壁|w・)ある意味最大の敵かもしれない。
なお、補足として。
本来のペンギンさんはお魚を胃の中にためて、半消化状態のものをヒナに与えます。
ゲーム中のペンギンさんはその点を分かりやすくしようとした結果、こうなりました。
ほら、餌場近いし。ヒナ近くにいるし。ね?
さらっと調べた程度の知識なので、鵜呑みにはしないでくださいね。
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ではでは!






