配信三十三回目:ペンギンさんを探して雪山へ
雪山のクエスト。何度もできるクエストだと思ってたけど、九尾がテイムできるまで、という条件付きだったらしい。れんちゃんと一緒に訪れた村には、もう誰もいなかった。
「こうなると、ちょっと寂しいね」
「うん……」
もこもこれんちゃんと一緒に、村を見て回る。本当に、何もない。ルル曰く、村に残された本に氷の洞窟について書かれてたらしい。まあそれは何かしらのフラグになるわけでもないみたいで、見なくても場所さえ知っていれば入れるらしいけど。
村を出て、頂上へ。キツネももういないみたいで、本当に寂しい山になってしまった。多分、こんな状態になっちゃったから誰も調べなかったんだと思う。だからこそ、今まで見つからなかったんだろうね。
頂上は、大きな岩があるエリアだ。この大きな岩に九尾が立っていて、近づいてきたプレイヤーに襲いかかってくる、というのが私が経験したクエストの流れ。
あの威風堂々とした九尾はとても格好よかった。あの姿を見るために、何の報酬もないのに雪山に来るプレイヤーがいるほどだ。
その大きな岩の陰に、その大穴はあった。
「この穴が洞窟かな。まさかこんなところに、穴があるなんてね……」
九尾をテイムしないといけないらしいから、私じゃもともと見つけられなかったとは思うけど。一応私もテイマーだけど、シロで十分であまり他をテイムしようと思わなかったし。
「さてさて。では、ぽちっとな」
配信開始をぽちっと。すぐに光球が出てきて、コメントも流れ始めた。
『お、はじまた』
『ペンギンか! ペンギンなのか!』
『ん? どこだここ?』
「どもども。ただいま、例の雪山に来ています。前情報通り、九尾がいなくて岩の側に大穴があったよ」
光球を動かして穴を見せる。おお、とコメントが流れていく。なかなかの大きさの大穴だからね。ディアぐらいの大きさなら通れると思う。
「それじゃあ、れんちゃん。まずは私が様子を見てくるから……」
「あ」
説明しようとしたところで、れんちゃんが短い声を上げた。何が、と思う間もなく、見知った白い影が穴に飛び込んでいった。
見知った、というか、ラッキーが。
「ら、ラッキー! 待って!」
慌ててれんちゃんも飛び込んでしまう。取り残されるのは私です。
「ちょ、れんちゃん待ってー!」
段取りも何もない! いや、れんちゃんはもちろん悪くないけどさ!
私も慌ててれんちゃんを追って、穴に飛び込んだ。
『いきなりぐだぐだだなw』
『まあ生配信の醍醐味だ』
五秒ほどの自由落下の後、さすがはゲームと言うべきか、特に衝撃もなく地面に降り立った。すぐに顔を上げて、それを見て。うん。なにやってるのあの子。
「ちっちゃい……かわいい……」
ちっちゃいペンギン……雛かな? なでなでしてる。おまかわ。
特に危険はないみたいだし、とりあえず周囲の確認かな。
洞窟はドームのような部屋になってて、私たちが落ちてきたのはど真ん中。真上に小さな丸い光が見える。多分、あそこから落ちてきた……という設定だと思う。
落ちたこの場所は、ちゃんとした土の地面。ただ、凍り付いていて、とても滑りやすそう。
「スケートとかしたら楽しそうだね」
『ここでスケートは死ねると思う』
「ですよねー」
うん。分かってたよ。ほんとだよ?
周囲は水。というか、氷? 多分、池になっていて、ここはその池にある小島みたいなものだと思う。池は全部凍り付いているんじゃなくて、所々穴があるみたいだ。……あ、穴からペンギンが出てきた。あそこから魚を探してるのかな。
『おお、ほんとにペンギンだな』
『よちよち歩きがかわいい』
『ペンギンの雛が特にかわいいな。ふわもこじゃないか』
れんちゃんが撫でてる雛を見ると、なるほど確かにふわもこだ。れんちゃんもにっこりだね。でも、どう見ても最初から仲良くしてるんだけど……。
『まあれんちゃんだしな!』
『仲良くなる天才……っ!』
『実際のところ、敵意とかに反応してんじゃねえの? 捕まえたいとか思っても敵意判定だろ?』
「なるほど確かに。その辺りどうですかルルさん」
『否定はできない、とだけ。ペンギンがいるって知って来たら、やっぱりホームに連れて行きたいって思ってるだろうから』
『確かめる手段がないのがなあ』
こればっかりは運営さんしか知り得ないだろうからね。私たちは推測するしかないわけで。
まあ、それも含めて楽しむのがゲームか。
さてさてれんちゃんは、と。
「わ、わ、けんかしちゃだめ……!」
なんか、ラッキーとペンギンの雛がれんちゃんの前で睨み合ってる。なんだろう、視線で火花が散ってる光景が見える、気がする。
『なんだ、何があった?』
『幼獣決戦』
『慌てるれんちゃんもかわいいけど、助けてやれよ』
いや、助けたいのは山々なんだけど、経緯がまったく分からなくて……。
うん。とりあえず、引き離せばいっか。
二匹に近づいて、首根っこを掴む。ぷらんとぶら下げた。ラッキーがわんわん、ペンギンがきゅうきゅう鳴いてる……怒ってる? けど、れんちゃん最優先です。
そのれんちゃんは、あからさまにほっとしていた。
「で、どうしたのれんちゃん」
「あのね……。どっちが頭にのるかで、喧嘩してたの」
「あ、うん……。そっか……」
うん。うん。そっかそっか。
「平和だなあ……」
『ミレイwww』
『いやまあ、思ったよりほのぼのとした理由だったけどw』
『ただの場所の取り合いw』
『しかもれんちゃんの頭の上w』
焦った自分が馬鹿みたいだよ。
ラッキーを頭の上に、ペンギンを地面に。悪いけど、れんちゃんの頭の上はラッキーの特等席だ。たまになら他の子に譲るみたいだけど、テイムもされてない子に譲るわけがない。
ペンギンはちょっぴりしょんぼりした様子だった。そ、そんな顔をしても、無駄だからね!
『ペンギンの目がうるうるしてる』
『そんなにのりたかったのかw』
『何がそこまでさせるのだろうか……』
いや本当に。れんちゃんの頭の上に何かあるの?
壁|w・)れんちゃんの頭の上はほっと安心する場所?
次回は、難易度の高いもふもふです。
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ではでは!






