配信三十二回目:猫と釣りをする人
猫の元へは、なんと犬が案内してくれるみたいです。多分。気が付いたら、ついてこい、とでも言いたげな様子でれんの前を歩いていました。そんなわけで、れんは今、犬の後ろを歩いています。
『なんだこの不思議パーティ』
『犬に幼女に狼にキツネ。謎パーティすぎるだろ』
「え? キツネ?」
『キツネ!?』
慌てて振り返ります。コメントさんの言う通り、キツネさんがシロの後ろを歩いていました。真っ黒なキツネさんです。
「あ、クロ!」
『クロ?』
『黒色だからクロ?』
『いつの間に名付けを……』
『まって。そのネーミングセンスってまさか……』
『あっはっはっは』
黒いキツネのクロを抱き上げます。クロは特に抵抗することなく、大人しく抱かれてくれました。嬉しそうにれんのほっぺたを舐めてきます。とても可愛らしいです。れんはクロをこちょこちょ撫でました。
「この子はおねえちゃんのテイムモンスターだよ。雪山に行った時に、偶然テイムしてたんだって」
『なるほどあの時』
『報告ぐらいしろよ』
『すみませ……いやそんな義務ないよね?』
頭はラッキーがすぴすぴ眠っているので、肩にのせます。きゅ、と小さく鳴きました。とてもかわいいです。
さて。犬に案内されたのは、ファトスにある池でした。大きな池で、釣りをする人のために桟橋がたくさんあります。でも、今日は一人だけです。
『寂しいところだな。釣りって不人気?』
『いや、それなりにやる人は多いぞ。ただやっぱり街中よりも、フィールドの川や池の方が釣果はいいんだ』
『ほーん。だからこんなに人がいないのか』
『そしてそれ以前に、ファトスにいるプレイヤーはここの視聴者がとても多い』
『なるほど!』
ということは、つまり普段はここにも人がいるということでしょうか。それならいいのかもしれませんが、れんとしてはちょっぴり寂しく感じます。
『ここに来るなら待機してたのに!』
『れんちゃんに会える機会があああ!』
『おーおー、釣り師どもの嘆きが聞こえてくるぞ』
『愉快ですなあ』
なんだかコメントさんたちが騒がしいですが、れんは気にせず桟橋をきょろきょろします。犬が案内してくれたということは、ここに猫がいるはず。
そしてすぐに見つけました。一人だけで釣りをしている人の側に、三匹ほど。大きな猫と、多分子猫が二匹。二匹はじゃれあってます。
「かわいい……」
ふわふわ子猫たちが遊んでいるのは、とっても、かわいい。
『れんちゃんが引き寄せられてるw』
『かわいいからね、仕方ないね!』
『桟橋にくる猫は人懐っこいから好き』
気付けば、釣りをしている人の側に来てしまっていました。猫三匹もこちらを見上げています。もふもふしたいところですが、やっぱり声を掛けた方がいいでしょうか。
「あ、あの……」
れんが声を掛けると、んー? という間延びした声でその人が振り返りました。そして、れんを見て、何故か固まりました。
「あの……?」
「え? え? れ、れんちゃん……?」
「れんです」
ぱくぱくと、お魚さんみたいに口を開け閉めしてます。どうしたのかな?
釣りをしていた人は、男の人でした。側に小さなバケツがあって、ちらりとのぞき込むとお魚が三匹ほど泳いでいます。かわいいですけど、食べちゃうのかな……?
男の人はれんを、というよりも、光球を見て口をあんぐり開けました。
「配信中……?」
「うん」
「えっと……。今何時?」
「え? んと……。夜の七時過ぎ!」
れんが答えた瞬間、男の人が頭を抱えて叫びました。
「やらかしたあああ!」
「うひゃ」
ちょっとびっくりしちゃいました。シロとクロがれんの前に出てきます。多分大丈夫なので、シロをもふもふしましょう。もふもふ。
「ぼけっとしすぎた……! 配信見逃した……! ああ、くそ、何やってんだよお……!」
うん。悪い人じゃなさそうです。
『釣りは暇つぶしがてらのんびりするのに丁度いいからなあ』
『のんびりし過ぎて忘れてたのかw』
『いやでも、こいつ運が良いだろう。それでれんちゃんとお話ししてるんだぞ』
『確かに。判定は?』
『ギルティ』
『ぶっ殺す』
『過激すぎだろこいつらw』
コメントさんたちがちょっと荒れています。男の人もそれを見て、ひぇ、と顔を青ざめさせました。
「怖いこと言う人はいちゃだめ。帰ってね」
『ごめんなさい!』
『もう言いません追放はやめて!』
『許して……許して……』
「もう。仕方ないなあ」
許してあげます。れんは心が広いのです。えっへん。
「猫さん、撫でてもいいですか!」
れんが聞くと、男の人は頷きました。
壁|w・)実はちゃんと黒いキツネはミレイがテイムしてましたよ、というお話。
ミレイのテイムモンスは、シロが戦闘、クロが癒やし担当です。
次回は、釣りをしてみましょう。
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ではでは!






