配信三十一回目:うみょーん、山盛りどん!
エドガーさんもゆっくりキツネの隙間を縫って椅子に座った。この人、ここに来て一番体力使ってるんじゃないのかな。もしくは気力。キツネを蹴飛ばすと間違い無くれんちゃんから嫌われるから、気を遣うのも分かるけど。
「みんな、ちょっと下りてね。足下ならいいからね?」
れんちゃんがそう言うと、キツネたちはするするとれんちゃんから下りていった。白いキツネはれんちゃんの首にいるままだけど、この子は特別枠みたいだ。
さて。おもちである。雪の上、かまくらの中、あったかいおもちを食べる。
「なんかこう、風情があるよね。冬って感じがする」
『わかる』
『冬と言えば雪、雪と言えばかまくら』
『お餅も冬って感じだよな』
「まあ今はぎりぎり五月なわけですが」
『草』
『それを言うなw』
『季節感も何もないなw』
ログアウトしたら夏の入りを感じ始める気温だからね! 暑いわけじゃないけど、寒いとも言えないほどよい気温。まあ最近は春なんてほとんど感じられないぐらいに短いから、すぐに暑くなるだろうけど。
「ミレイちゃん。れんちゃんはお餅は大丈夫だよね?」
「ああ、うん。病院ではあまり出ないから、私がたまにスーパーでやわらかいお餅を買って持って行ってる」
れんちゃんからお餅が出たとは聞いたことがないから、あの病院ではお餅を出してないのかもしれない。私が入院してるわけじゃないから、そこまでは分からないけど。れんちゃんが甘えんぼモードになって泊まることになっても、コンビニでお弁当買ってくるし。
「れんちゃん、お餅はお醤油をつけたやつでいいかな?」
「うん!」
アリスからお皿に入ったお餅がれんちゃんに渡される。れんちゃんは見るからにうずうずしていた。お餅をぱくりとかじって、
「うみょーん」
『うみょーん』
『かわいい』
『よくのびるお餅だなw』
ほんとにね。のばしたお餅を噛み千切れなくて、結局そのままもぐもぐしてるし。
気に入ったのは気に入ったみたいで、嬉しそうな笑顔でもぐもぐしてる。かわいいなあ。
キツネたちはそんなれんちゃんの様子を、どことなく羨ましそうな顔で見てる。もしかして、食べたいのかな? でもさすがにこれだけのキツネの分は持ってないだろうし……。
アリスを見てみると、引きつった笑顔で首を振られた。そりゃそうだ。
私もお餅をかじる。うみょーん。……漫画でもここまでのびないと思う……。キツネに上げたくなるけど、不公平になるだろうしなあ……。悩ましい。
そう考えていたら、先に食べ終わったれんちゃんが、ごちそうさまでしたと手を合わせた。
「あ、そうだった。キツネさんにもあるんだった」
「え、なにが?」
れんちゃんがインベントリからテーブルの上に出したのは。
『うおお……』
『圧巻の一言』
『山盛りのお揚げ様じゃあ!』
うずたかく積まれた油揚げ。なにこれすごい。
れんちゃんは油揚げを一枚手にとって、少し持ち上げてぷらぷらする。キツネたちの視線がそれを追ってふらふらと。ゆらゆらと。なにこれかわいい!
れんちゃんはくすくすと小さく笑って、はい、と近くのキツネに渡した。キツネが嬉しそうに油揚げをくわえて、外に出て行く。その後は山盛りの油揚げに群がる、なんてこともなく、みんなお行儀良くれんちゃんからもらうのを待っていた。
たくさんのもふもふが、じっとれんちゃんを見上げて待ってる様子は、なんだかとっても微笑ましい。一匹ずつもらって、嬉しそうに走り去っていく。
でもさすがに油揚げが足りないのでは、と思ってたけど、なんと追加があった。山盛りどん!
『れんちゃんいくつ用意したの……?』
『山盛りおかわりはさすがに草』
「んー……。百個セットが百個!」
『どこかで聞いたことのあるセリフ』
『つまり千個かwww』
『やめろお! 俺の古傷をえぐるなあ!』
うん? 何の話かな。視聴者さんたちの間で何かあったみたいだけど。
それにしてもれんちゃん、いつの間にこんなに用意したのかな……。あまり一人で出歩いてほしくないっていうのは、過保護すぎかな? ちょっと困るところだ。
お餅を食べ終えて、かまくらを出る。風情はあるけど、特に何かをするわけでもなかったから、早々に飽きちゃった。次は何か持ち込まないといけないかな。
外に出た私たちを待ってたのは、雪像だった。大きな犬と虎にキツネ。それぞれウルフと猫又、キツネたちがどや、とばかりにふんぞり返ってる。
えっと……。雪だるまの代わり……?
「どう見ても雪だるまじゃなくて雪像です」
いや、まあ、れんちゃんが喜んでるからいいか。
「すごーい! おっきーい!」
楽しそうに走り回るれんちゃんと、その後ろに続くモンスたち。なんだかすごい光景だ。
「あれって、モンスターたちが作ったのか?」
「そうじゃないかな」
エドガーさんの問いに頷いておく。それしか考えられないし。れんちゃんの要望を聞いて、考えて行動したのかもしれない。AIって、すごい。
「いや、これは逸脱してるような……。まあ、いいけど……」
ふむ。エドガーさんが何かを気にしてるけど、まあ、うん。大丈夫でしょう。
のんびりと、モンスたちを追いかけっこするれんちゃんを眺める。たまにはこうしてゆっくりする日も悪くないね。そう思いました。
「ゆっくり……?」
『どう見てもハードな一日でした』
『ゆっくりとは』
『感覚狂ってきてるなw』
うるさいよ。
壁|w・)雪だるまも作ろうと思ったのですが、力尽きました……。
雪遊びは総じて難産でした。もっと……もっともふもふが欲しい……。
というわけで? 次は街(とされてる村)にもふもふを探しに行きます。
次回は、れんちゃん視点のファトス探検。
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ではでは!






