草原ウルフ2
「お姉ちゃん、私もわんちゃんがいい!」
「お目が高いねれんちゃん!」
犬扱いされたシロが少しショックを受けてるけど、気にしちゃいけない。シロが抗議の視線を送ってくるけど、気にしちゃいけない! あとでご飯をあげてご機嫌を取ろう……。
「それじゃあ、れんちゃん。テイムのやり方を教えるね」
「うん!」
元気よく挨拶をするれんちゃん。挨拶しつつも、シロをもふもふし続けている。シロの毛並みを気に入ったのかもしれない。
「やり方は簡単。テイムしたいモンスターにエサをあげるだけ。モンスターが食べてくれれば、絶対にではないけど友達になってくれるよ」
「それだけでいいの?」
「うん」
正確には、それが最低限の方法、というだけだ。実際は最初に戦闘をして、相手の体力を残りわずかにしてからエサをあげれば仲間になる確率は高くなる。でも、そんなことはれんちゃんに教える必要はないはず。教えても、嫌がるだろうから。
それに、ここのモンスターは全てノンアクティブだ。エサを上げ続けていれば、そのうちどの子か仲間になってくれるはず。
「それじゃあ、手を出して」
素直に両手を差し出してきたれんちゃんに、私が作っておいた魔物のエサを渡してあげた。れんちゃんにあげる、と口に出せば、システム的にも譲渡完了だ。
れんちゃんに渡したのは大きな巾着袋。その中にはお団子みたいなエサが十個ほど入っている。これだけあれば草原ウルフならテイムできるはず。
「それじゃあ、がんばれ、れんちゃん!」
「うん!」
れんちゃんはもう一度シロを抱きしめると、早速駆けだしていった。
最初のテイムは、なんだかんだと特別だ。私もこのシロが初めてテイムしたモンスターだけど、やっぱり他よりもかわいく思える。
まあ、だから、れんちゃんが悩むのも仕方ない。右を見ても左を見ても草原ウルフだらけの中、れんちゃんは考えながら歩いて行く。私は暇だし、というよりもれんちゃんのためにいるようなものだし、のんびりと付き合ってあげよう。
れんちゃんはたまにこちらに戻ってくると、シロをもふもふなでなでしていく。よほど気に入ったみたいで、シロも喜んで受け入れていた。なんだろう、見ていてとっても和む。
「ごめんね、お姉ちゃん。時間かかっちゃって」
「いいよいいよ。気にせずゆっくりしてね。シロとのんびり待ってるからさ」
ありがと、とれんちゃんが頷いた直後、シロがぴくりと鼻を動かして、耳を動かして、そして少しだけ首を動かして視線を固定させた。なんだろう?
「何かあるの?」
れんちゃんも気付いてそっちに視線をやれば、
「あ」
「へえ……」
視線の先、少し遠い場所に、白いウルフが出現していた。しかも、小さい。かなり小さい真っ白な狼。
珍しいものを見た。あれはこのフィールドに低確率で出現するレアモンスターだ。シロみたいな白い草原ウルフよりもさらに稀少。噂では、一日に一回、こっそりと出てきて、そしてすぐに消えてしまう、なんてことも言われてる。
見られただけでも運がいい、と思ったけど。
「シロ。もしかしてシロって、あの小さいウルフを見つけられるの?」
シロがこちらを見る。何を今更、みたいな顔、の気がする。そういうことなんだろうなあ……。
「かわいい!」
れんちゃんが真っ直ぐに駆けだしていった。
「あ、れんちゃん、その子は……!」
あの子が稀少と言われる理由は、出現頻度もそうだけど、何よりもその逃げ足にある。プレイヤーを見つけると、あっという間に逃げ出して見えなくなってしまうのだ。高レベルのAGI極振りプレイヤーですら追えないほどの速さで。だから、こうして、見守ることしか……。
「あれ?」
驚いたことに、小さいウルフは逃げなかった。なんとれんちゃんは無事にたどり着いて、小さいウルフを撫で始めている。
「うわあ……。ふわふわもこもこ……」
「お、おお……」
どうしよう。すごく気になる。すごく! 気になる! でも私が行くと、今度こそ逃げられちゃいそう! いいなあれんちゃん! 私も撫でたい!
結構な時間、れんちゃんはその子をもふもふしていたけど、思い出したみたいにエサを上げた。うんうん。せっかくのチャンスなんだから、ちゃんとチャレンジしないとね。さすがに一個じゃ無理だろうけど、あの様子なら何回かチャンスが……。
うん。うん。なんで一回で成功してるの? なんで嬉しそうにれんちゃんの足下を走り回ってるの? え、いや、え? はい? なんで?
つんつん、とシロが足をつついてくる。そちらを見やれば、シロは何やってるんだお前、みたいな顔をして、れんちゃんの方へと歩いて行ってしまった。なんだろう、とても、負けた気がする。シロに負けた気がする! 悔しい!
シロに続いてれんちゃんの元へと向かえば、れんちゃんは小さいウルフを腕に抱えてもふもふしていた。なんだこれ。かわいい。かわいいとかわいいがまざりあって最強だ。
改めて見ると、本当にこのウルフは小さい。子犬程度の大きさしかない。本当に子供だったりするのかな。
「れんちゃん、テイムできた?」
「うん。えっと、ともだちになれました、て出てきたよ」
「その表示もれんちゃん専用なんだね……」
ちなみに普通は、テイムに成功しました、だ。すごく特別扱いされてないかなこの子。
「ステータス見せてもらってもいい?」
「えっと……。こう、かな」
れんちゃんが表示してくれたステータスを後ろから見てみる。
このウルフは、ラッキーウルフ、というらしい。そのまんまかい。
種族の説明には、草原ウルフの上位種、白いウルフに守られているウルフのお姫様、とあった。戦闘能力は高くないけど、連れて歩けばいろいろな恩恵があるらしい。
説明文を読み上げてあげれば、へえ、と気のない返事。そっちには興味がないらしい。れんちゃんらしい。
「れんちゃん。名前を考えてあげないと」
「名前!」
ふわふわもこもこウルフを抱いていたれんちゃんがむむ、と唸る。いい名前をつけてあげてね。
「らっきー!」
「まって。いやほんとに待って。え、え? それでいいの?」
首を傾げるれんちゃん。その仕草もかわいいね! でもね、本当にそれでいいの!?
ラッキーって、そのまんますぎるよ! それに確かに犬の名前にラッキーって使われる時もあるけど、その子、狼だからね!?
壁|w・)一匹目はふわふわもこもこの白いちっちゃなウルフです。
狼とは。
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ではでは。






