配信三十一回目:ぬいぐるみ自慢と歓迎がおー
「さてさてれんちゃん。そろそろ終わるけど、紹介しておきたいところとか、ある?」
「ある! あるよ!」
「お、なにかな?」
正直、ちょっと意外だった。何かあったかなと考えていると、れんちゃんはすぐ隣の棚に移動した。
うん。察した。
「ぬいぐるみ!」
「…………。これ、長くなるやつ」
『わかる』
『さすがに俺らも覚えた』
『リアルでも変わらず始まるもふもふ自慢』
小声での呟きに視聴者さんたちも反応する。れんちゃんのもふもふ自慢は今に始まったことじゃないからね。ここでもそれは変わらないってことだ。
「えっとね。まずこのキツネさんがあのキツネさん。ちょこんって座ってるのがかわいいの。あとね、あの白い犬が……」
れんちゃんの自慢はひたすらに続く!
「正直好きなものを自慢するかわいいれんちゃんを見せるのは私としては不満だけど、特別にそのまま視聴を許してあげましょう」
『ありがとうございます!』
『ものすごく楽しそうなれんちゃんがとてもかわいい』
『好きなものの自慢って楽しいよね』
まったりスマホを構えて、れんちゃんのもふもふ自慢を眺め続けるのでした。
いやでも、さすがに一時間も話し続けるとは思わなかったよ。かわいかったけどさ。
「いやあ、ぬいぐるみ自慢するれんちゃんはかわいかったね!」
れんちゃんのホームに来て、配信をさっさと始めてそう言った。
『挨拶ぐらいしろよw』
『でも全面的に同意する』
『え、なに? 何があったんだよ』
病室での配信を見てなかった人もいるみたいだね。告知もせずにいきなり始めたから、当然だとは思うけど。
『もったいないな。夕方にリアル配信あったんだぞ』
『れんちゃんの病室配信だ』
『ぬいぐるみを自慢するれんちゃんはとてもかわいかった』
『なにそれ!? うわ、くそ、まだ仕事中だよその時間!』
ああ、なるほど。夕方だとお仕事もあるし、学校で部活してる人もいるよね。そう言えば、視聴者数もいつもより少なかったし……。
でもこればかりは許してほしい。だって面会時間が決まってるから。
「見逃した人は後で見てください。過去の配信って見れたよね?」
『問題ない。見れる』
『むしろ毎日過去放送見てます』
『同じく。お気に入りはれんちゃんのソロ配信』
『いたずら失敗配信かw』
ああ、最初の方のやつか。私としては、ちょっぴり苦い記憶でもある。まあ、見守るのも楽しかったけど。
『で、れんちゃんは?』
「アリスたちを待ってるよ。待機中」
光球をお家の前、柵の中に向ける。いつものようにラッキーを頭にのせて、さらに両手で子犬を抱えたれんちゃんが、見て分かるほどにわくわくした様子で待っている。
誰かを招くのは初めてだから楽しみなんだって。少しだけ、ちょっぴり、緊張もしてるみたいだけど。来るのはアリスとエドガーさんだから、大丈夫でしょ。
アリスからは準備ができたらすぐに行くと連絡がきてる。なのでのんびりアリスを待ってるところだ。
「アリスが来るまでは子犬を抱えてたまに頬ずりするれんちゃんをお楽しみください」
『どういうことなの』
『いや、普通に言葉通りの意味だろ』
『ほんとだ。たまに頬ずりしてる』
待ってるだけだと退屈なのか、れんちゃんは時折子犬をぎゅっと抱きしめたり、頬ずりしたりと楽しそうだ。頬もにやけてる。かわいい。
そんな風に視聴者さんたちとれんちゃんを見守っていたら、不意にメニュー画面が開いた。内容は、プレイヤーアリスがれんのホームへの訪問を希望しています、というもの。許可しますかと出てきてるから、はいを選択すればアリスがこのホームに入ってくることになる。
れんちゃんがこっちを見つめていたので、とりあえず報告しよう。
「アリスが来れそうだけど、許可していい?」
「うん!」
元気なお返事。ではでは、早速。
ぽちっとな。
すぐにアリスとエドガーさんが転移してきた。人の転移の瞬間ってあまり見る機会がないんだけど、こうして見るとちょっと拍子抜けというかなんというか。突然出てくるから驚くけど、その程度。
アリスはきょろきょろと周囲を見て、れんちゃんを見つけて声を上げた。
「れんちゃん!」
「アリスさんいらっしゃーい!」
『ぴょんぴょん飛び跳ねるれんちゃんかわいい』
『それ以上にやっぱりくっそ羨ましいんだけど!』
『いいなあ行きたいなあ!』
れんちゃんが大人気で私としても嬉しいけど、ここはれんちゃんの聖域だからね。さすがにだめです。
そして、れんちゃんはと言えば。
「アリスさんエドガーさん!」
「うん?」
「なにかなれんちゃん」
二人がれんちゃんを見る。私はそっと耳を押さえた。何をしようとしてるのか、知ってるから。
「がおー!」
れんちゃんのがおーと同時に、咆哮を上げるテイムモンスたち。レジェはもちろん、オルちゃんたちもディアたちも、同時咆哮。
「うひゃ!」
「うお……!」
二人とも驚いてる。目をまん丸にしてる。やると知ってる私でも驚くからね。当然の反応だ。いや、ほんと、レジェ単独の咆哮なら私も慣れてきたけど、まとめての咆哮は本当に怖い。分かってても身構える。それぐらい怖い。
「みんなありがとー!」
そんな怖いモンスたちは、れんちゃんにお礼を言われるとそれはもう嬉しそうにぶんぶん尻尾を振っていた。本当にこの子たち、れんちゃんのことが好きだよね。
コメントを見る。咆哮で阿鼻叫喚の騒ぎだけど、まあ、うん。そのうち落ち着くでしょう。
壁|w・)みんなでがおーをするのがれんちゃんの楽しみ。
雪に触れることすらなかったよ……。
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ではでは!






