配信三十回目:しょんぼり九尾
「いたっ」
れんちゃんの、小さな悲鳴。
このゲームは、ダメージを受けると少しだけその部分がしびれてしまう。痛いってほどじゃないけど、何も知らなかったらびっくりする程度だ。れんちゃんも、痛がってるわけじゃなくて、戸惑ってる方だった。
でも。けれど。敵意は、向いた。
思わず動きそうになった私じゃなくて。狐火を出した九尾でもなくて。もちろん不思議そうにしてるれんちゃんでもない。
れんちゃんの周囲にいたキツネたちが、漏れなく自分よりも体の大きな九尾を睨み付けていた。
うん。なにこれ。ちょっと怖い。キツネたちがれんちゃんを守るように前に立って、そして漏れなく全てのキツネが九尾を睨み付けてる。なんだこれ。
『れんちゃん、実は全部テイムしてたのか……?』
『いやいやさすがにそれは……。ええ……』
『数が多いからか圧がすげえw これは怖いw』
本当に。殺気だったキツネの集団って、なかなか怖い。九尾もまさか仲間たちからそんな敵意を向けられるなんて思わなかったのか、見て分かるほどに狼狽してる。
後退る九尾。ゆっくり近づくキツネたち。
そして、小さな動物たちの頂上戦争が始まろうと……!
「喧嘩、だめだよ?」
れんちゃんのその一言で敵意が霧散した。
「みんな仲良くしないと、だめ。ね? でないと、えっと……。おこっちゃうぞ!」
がおー、のポーズで言うれんちゃん。かわいい。
でもキツネたちには効果はあったみたいで、見て分かるほどに慌て始めた。キツネたちが我先にとれんちゃんに集まっていく。ごめんね、と謝ってるのかな。
「なんだろう。さっきまで剣呑だったのに、今はすごくほのぼのしてる」
『かわええのう』
『たくさんのキツネと戯れる幼女……』
『いい……』
『いやお前ら、あそこで立ち尽くしてる九尾にも反応してやれよw』
九尾の方へと目をやれば、呆然と突っ立ってた。なんだかちょっぴり悲しそう。哀愁が漂ってる気がする。
そんな九尾にれんちゃんは近づいて行って、にっこり笑って手を差し出した。
「なかなおり!」
九尾は、逡巡してたみたいだったけど、そっとその手に顔を寄せた。
『イイハナシダナー』
『なんだろう、この……。なんだこれ』
『それでいいのか九尾のキツネw』
うん。まあ、いいんじゃない、かな……?
私はそれよりも、ボスを倒さずにクエストクリアしたことに驚きだよ。村で受けたクエストは討伐だったはずなのに、すでにクリア扱いだ。どういうことなのやら。
れんちゃんと一緒に村に戻る。後ろにたくさんのキツネと、さらには九尾を引き連れて。
うん。その。どうしてこうなった。
『これはまさか!』
『知っているのかコメント!』
『百鬼夜行ならぬ、もふも夜行!』
『三点』
『そんなー』
仲いいなあ、この人たち。
れんちゃんは比較的大きなキツネさんの背中にいる。れんちゃんの頭の上にはらっきーがいて、肩の上には白いキツネ。尻尾ふりふりがかわいらしい。
れんちゃんもそれはもう楽しそうに鼻歌なんて歌っちゃって。とても機嫌がよさそうだ。すごく楽しそうな雰囲気。いいね、こういうの。
そんな私たちを出迎えたのは、なんと村人全員だった。なにこれ。こんなイベント知らないんだけど。
ざっくりと、簡単に説明しようと思う。
私が知ってるイベントの流れは、ボスを倒して村に戻ると、村そのものがなくなってる、という終わり方だった。この理由はずっと不明のまま。報酬も当然もらえない、本当によく分からないクエストだったのだ。
これでボスが強かったら苦情も多かっただろうけど、幸いと言うべきか、ボスが弱いから特に問題なくクリアできるクエストなので、そういうイベントなんだろうと一応は納得できた。
ただ、人によっては、村は残ったままだったとか、そんな報告もあったみたいなんだけど……。
で、今回、村人さんたちから話を聞いて、その理由も分かった。
とても、とても、単純な理由。九尾と村がグルだった。九尾が倒されてしまったから村人たちは逃げ出した、というのが真相だったみたいだね。
九尾がれんちゃんにテイムされちゃったので、村人さんたちはれんちゃんと共に来るらしい。いやいやさすがに人はと思ったけど、全員キツネだった。うん。なんか途中からそんな気がしてたよ。
というわけで、れんちゃんのホームに九尾とキツネ百匹超が新たに増えました。魔境かな?
「雪山が増えてる」
「ゆきやま!」
そんなクエストを終えてれんちゃんのホームに戻ってきた私たち。森の他に雪山が増えてた。キツネがたくさんいる雪山だ。なんか、ウルフの何匹かが遊びに行ってる。ウルフとキツネが遊んでる。かわいい。
「おねえちゃん! ゆき! ゆきがある! ゆきー!」
「あはは。だねえ。いつでも遊べるね」
うん。これなら、みんなでいつでも雪遊びができるかも。
『雪山とか、初めて知ったぞ』
『テイマー板で聞いてきた。実はわりと知られてたらしい。検証勢役立たず説を提唱したい』
『やめてさしあげろw』
『まあ実のところ、検証勢に生粋のテイマーが少ないってのが理由だろうなあ』
テイマーさん曰く、ここはテイムに慣れた人が、手軽にある程度強いモンス、つまり九尾をテイムできるところなんだって。雪山は、自動でホームが拡張されるサービスを購入していたら追加されるのだとか。
「んー……。リサーチ不足でした。悔しい」
『どんまい』
『まあこれは仕方ない』
『テイマーさんも知らない人多いみたいだったしな』
もう少し、特にテイマーさんには話を聞かないといけないね。
それはともかく、ですよ。
「アリスとエドガーさん!」
『はいはい! なにかなミレイちゃん!』
『どうかした?』
おお、さすが! ちゃんと見てくれてる!
「れんちゃんが雪遊びをやりたがっています。というわけで明日の配信は雪遊びです。一緒にやらない?」
『よろこんでー!』
『俺でいいなら、是非』
『くっそ羨ましいんだけど』
『せめて配信を、ぜひに……!』
「はいはい、もちろんやりますよっと」
れんちゃんを見る。いつの間にか雪山でごろごろしてた。真似して白いキツネもごろごろしてた。写真写真。
「キツネさんとも無事にお友達になったので、明日は雪遊びをするよー」
『楽しみ』
『ゆきともふもふのこらぼれいしょん』
『ゆきもふまつりじゃ!』
うん。明日も楽しくなりそうだ。
壁|w・)キツネさんに向けられるキツネさんの敵意。
れんちゃんの鶴の一声でみんな仲良しです。
そしてホームに雪山が追加されたので、次回は雪遊び……。
と見せかけて、配信前に病室にお邪魔します。
というわけで、次回は病室からの配信です。
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ではでは!






