配信二十九回目:キツネさんもふもふ
「わあ……」
れんちゃんの目がきらきらしてる。すごくわくわくしてる。こっちを先にして正解だったかな。
村そのものは何の変哲もない村だ。木造の家がいくつかあって、雪に覆われた畑らしきものもある。池は凍り付いていて、道具さえあればスケートもできるかもしれない。
そんな村に、キツネはいる。テイマーの村なのかと思ってしまうほどで、それぞれの家にキツネが必ず一匹いるのだ。外に出て遊んでいる子もいるけど、ほとんどは家の中で丸まってるんだけどね。
れんちゃんはそれはもううずうずしていた。分かる。とても、分かる。すごくもふもふだからね、ここのキツネ。
『すげえ。なんだこのキツネ』
『遠目でも分かるもふもふ感!』
『はやく近くで見たい!』
ここのキツネを知らない視聴者さんもいるみたいだね。キツネがすごく楽しみらしい。
それじゃあ、行くとしましょうか。
「れんちゃん。まずは村長の家に行くよ」
「き、キツネさんは? キツネさんはまだ?」
「んー……。気持ちは分かるけど、先にクエストだけ発生させておこうね。明日のお楽しみで。ね?」
「うう……。わかった……」
すごいしょんぼりしてる。そのしょんぼりした姿を見てもほっこりしちゃう。コメントも微笑ましいといったものばかりだ。
村長の家は村の中央にある大きな家だ。大きな家といっても、木造二階建ての家だけど。ちなみに他の家に二階はないのでこれでも一番大きい。
村長の家の扉を叩くと、すぐに扉が開かれた。
「おや、いらっしゃい。旅の人かな?」
初老の男の人。おひげたっぷり。いかにも、
「ザ・村長って感じだよね」
『わかる』
『でも今言うことじゃないw』
『村長が困惑しておられるぞ』
「おっとすみません。はい旅人です。疲れたので泊めてください」
『ストレート過ぎるw』
『ちなみに本来はもう少し会話があります』
『こいつ面倒だからってすっ飛ばしたな』
だってショートカットできるんだし、いいかなって。私はこのクエスト、終わってるしね。
このクエストは何度でもクリアできるのだ。だからこうしてれんちゃんと一緒に受けることもできる。まあ、だからこそ、何かあるのではとか思われてるわけだけど。
「うむ。小さい村ゆえ、宿がないからな。泊まっていきなさい」
村長が中に入れてくれるので、れんちゃんと一緒に入る。
村長の家は中央に囲炉裏がある。ちなみに煙は空中でどこかに消える不思議仕様です。絶対開発の人面倒になったな。
囲炉裏の上にはお鍋があって、くつくつと何かが煮込まれている。晩ご飯で食べさせてもらえます。
どうぞ、と座布団を出してくれたので、座らせてもらった。
「あ」
れんちゃんも座ろうとして、部屋の隅にいるキツネに気が付いた。私は知らなかった。あんなところにいたのか。
「あ、あの! キツネさん! キツネさん!」
「ん? ああ、儂がテイムしているモンスターだよ。遊んでやってくれ」
「わーい!」
れんちゃんが嬉しそうにキツネさんの元に向かっていく。村長は柔らかい笑顔でそれを見ていた。これがNPCなんだから、本当にすごい。
れんちゃんはキツネと見つめ合って、ゆっくりと手を伸ばした。キツネはしばらくれんちゃんを見つめていたけど、その指を舐める。おお、れんちゃんの顔が輝いた。
れんちゃんが両手を広げて、キツネがそこに飛び込んで。
「えへへ……ふわふわだあ……」
丁寧にキツネの背中を撫でるれんちゃん。キツネは身を委ねていて、気持ち良さそう。いいなあ、まざりたい。
「ということであります。引き受けてくださりますか?」
「いいですよ引き受けます」
『おおおい!? 話全然聞けてないんだけど!』
『俺も。れんちゃんに意識いってたw』
『ミレイも完全無視してたしなw』
「いやだって、一度聞いたし……」
このクエスト、別に特別なストーリーがあるわけじゃないのだ。むしろ内容としてはとてもありきたりなもの。近くにモンスターの親玉が棲み着いたのか畑を荒らされてしまうので討伐してほしい、という内容だ。
「そんな話を聞くぐらいなら、私はれんちゃんを愛でる!」
『わかる』
『全面的に支持しよう』
『そしてさりげなくれんちゃんを捕獲するなw』
キツネを抱き上げていたれんちゃんをさらに私が抱き上げて、膝の上に載せる。後ろから抱きしめると、れんちゃんが不思議そうにこちらを見つめてきた。
「おねえちゃん?」
「なんでもないよ」
「そっかー」
れんちゃんは再びキツネのもふもふに戻った。
「尻尾おっきいねえ……。ふわふわしてる……」
れんちゃんがそんなことを言うと、キツネが尻尾でれんちゃんの顔をくすぐった。嬉しそうに笑いながらキツネを抱きしめて……。ほんわかしてきた。
「キツネの尻尾ってすごく気になるよね。抱きしめて寝たい」
『キツネの尻尾抱き枕ってのが昔あったなあ』
『え、なにその魅惑的なもの』
『普通に欲しい』
「おなじく。何か情報あったらよろしく」
調べてくれるらしいので、視聴者さんにそのあたりはお任せしよう。
キツネをもふもふするれんちゃんを、さらにもふもふする私。もこもこれんちゃんなので抱き心地が抜群だ。やわらかもこもこれんちゃんだ。とりあえずのどをこちょこちょ。
「んう……」
くすぐったそうにしながら、私に体重を預けてくる。それでもキツネもふもふはやめないあたり、さすがれんちゃんだ。
なんとなく幸せな気分に浸っていたら、耳にアラーム音が聞こえてきた。私にしか聞こえないアラーム音。時間を確認すると、夜の八時五分前。れんちゃんのログアウトの時間だ。
「れんちゃんれんちゃん。時間だよ」
「えー……」
「気持ちは分かるけど、ログアウトしましょう。明日から制限されちゃうよ」
それはやだ、とれんちゃんは残念そうにしながらキツネを床に下ろす。キツネもお別れの時間だと分かったのか、尻尾をふりふりしてれんちゃんに挨拶していた。なんだこのかわいい毛玉。
「キツネさん、また明日ね」
れんちゃんが撫でながら言うと、キツネは小さく一鳴きした。
壁|w・)村に到着、キツネさんもふもふ、で終了でした。
次回は村のクエストをクリアするために山の奥にもふもふしに行きます。
……といきたいところですが、次回は掲示板回です。
最終ダンジョンの前。最終ダンジョンの掲示板はもうちょっと待ってね。
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ではでは!






