配信二十一回目:まっしろでもふもふのかっこいいドラゴン
楽しそうにじゃれ合うれんちゃんたちに声をかけて、次の部屋に向かう。小さい女の子が巨大なモンスターと遊ぶ光景はなかなかシュールだ。システム的にあり得ないと分かっていても、食べられちゃいそうで見ていて怖い。
「あの四匹がいれば、ドラゴンも余裕そうだね」
そうアリスに言ってみると、意外なことにアリスは無理、と首を振った。
「え、どうして?」
「うん……。今のレベルの上限、知ってる?」
「百だよね。今のところは」
レベル上限の解放は定期的に行われてるから、またすぐに上がるだろうけど、今のところは百までだ。ちなみに私は五十三。高くもなく低くもなく、過半数のプレイヤーがこのあたり。
れんちゃんは確か十だったかな。戦闘せずのんびりもふもふしたり、ラッキーと一緒に釣りをしたりしているだけだから、妥当だと思う。
「ドラゴンのレベルは千だよ」
「なんて?」
「千」
「いや無理ゲーすぎるでしょ」
一とか二そこらで大きく変わるわけじゃないけど、さすがに十の差があれば大きく変わってくる。百の差があるならまずダメージなんて通らないだろうし、九百以上の差とかどう考えても勝てるわけがない。
「うん。だから特殊なバフが山盛りにかけられるんだよ。そこから耐久しながらストーリーが進むのを待って、全てのNPCが揃ったら最終決戦、みたいな流れ」
「王道だね。もしかして実質的なラスボスって……」
「ジェガだね!」
「ごめんなさい!」
そっか、あれラスボスだったのか……! つまりこの先のドラゴンは、本来はイベントありきの戦闘で、生き残ることを考えればいいってことか。
「ある程度HPを削らないと進行しないから、逃げ続けていいわけでもないけど」
「それでも楽は楽だね」
まあどっちみち、私たちはれんちゃんを見守るだけなんだけど。アリスも今回でクリアできなくてもいいらしいし。アリスが言うには、一度クリアした部屋は再挑戦の時に素通りできるらしい。とても優しい仕様だと思います。
さてさて。最後の部屋にたどり着きました。重厚な扉が道を塞いでいます。
「ドラゴン! ドラゴン! わくわく!」
「かわいいなあ」
「かわいいねえ」
期待に目を輝かせるれんちゃんがとてもかわいい。アリスと頷き合って、小さく言う。来て良かった、と。
「オルちゃん、ヒューちゃん、ケルちゃん、キーちゃん、大人しくしててね!」
呼ばれた四匹が頷いた。名前、にはなってないのかな。あくまで愛称扱い? それとも名付けしちゃったのかな。あとで聞いておこう。
「おねえちゃん、入っていい!?」
「いいよー」
私が頷くと、れんちゃんは嬉しそうに扉を押し始めた。ゆっくり開いていき、やがて全開になる。
扉の先は、ただただ広い空間だった。壁は見えないし、空は夕焼けから変化がないみたい。多分、異空間、みたいな設定なんだと思う。ここに封印でもされてるのかな?
そして目の前には、そのドラゴンがいた。
白い大きなドラゴン。いわゆる西洋のドラゴンに近いと思う。真っ白な羽毛のようなものに覆われていて、見ているだけで神々しい。ぞくりと、背中が冷たくなる。これは、穢しちゃいけないものだ、と本能的に思ってしまった。
名前を見てみると、始祖龍オリジン、とあった。
「あはは……。実際に生で見ると、すごいね……。怖いとはまた違うけど……。うん。すごい」
「だね……」
アリスの呟きに頷く。これと正面から戦うプレイヤーは素直にすごいと思う。
さてさて、我らが妹は。
「もふもふのかっこいいドラゴンだ!」
大興奮である。なんか、目が怖い。れんちゃんの目が怖い。れんちゃんは一切躊躇なんてせずにドラゴンに向かって走って行った。
「うええ!? いいのあれ!? 大丈夫なのあれ!?」
「だ、大丈夫じゃないかな……?」
アリスの歯切れが悪い。いや、仕方ないとは思うけど。誰も攻撃するわけでもなく突っ込むようなことはしたことがないだろうし。
私たちの心配とは裏腹に、れんちゃんはドラゴンにたどり着いた。恐る恐るとその大きな体に触れて、そしてドラゴンが目を開いた。
「……!」
これはさすがにまずいかもしれない。アリスと頷き合って、れんちゃんを助けるために駆け出そうとして、
「すっごいもふもふだね……。えへへ、ふわふわ……」
「…………」
ドラゴンは何もしなかった。むしろどう見ても困惑してる。なんだろうこの子、みたいな顔、と思う。あれ? もしかしてこのドラゴン、かわいい?
「あ、起きたの? 起こしちゃってごめんね。もうちょっと触っていい?」
遠慮無くそんなことを聞くれんちゃんに、ドラゴンは引き気味に頷いていた。れんちゃんが強すぎる……。
どうやらこのドラゴンも、ちゃんとモンスターの枠組みに入るみたいだ。アクティブだけど敵意がなければ攻撃してこない。だかられんちゃんはこうしてもふもふを堪能できると。
「長くなりそう、かな?」
「ふふ。そうだね」
この後どうなるかは分からないけど、すぐにどうにかなるわけでもないみたいだし、のんびりとすることにしましょう。
「ミレイちゃんミレイちゃん」
「なにかなアリス」
「そろそろもふもふし始めて一時間だけど」
「そうだねえ」
「よく飽きないね……」
「ほんとにね……」
この部屋に来て一時間。れんちゃんは変わらずドラゴンをもふもふしてる。変わらずといっても、いつの間に仲良くなったのか、れんちゃんはドラゴンの鼻に触れて喜んでる。ドラゴンもふんふん息を吐き出していて、なんだかちょっと楽しそうだ。
おやつがわりに上げてるのか、エサもばんばんあげてるみたい。体に合わせてか、一気にたくさん上げてる。なんか、すごい。
ちなみにこの間オルちゃんたちは気ままに毛繕いをしていた。それでいいのかボスモンスター。
でもそろそろ時間がまずいかも、と思っていると。
「ええ!?」
アリスが大声を上げた。どうしたのかな。
「アリス?」
「いや、ええ……。和解って、こんなのあるの……?」
「へ……? あ、いや、まさか」
多分、アリスは何かしらのイベントが始まったのかもしれない。……あ、アリスが消えた。
れんちゃんを見る。れんちゃんはドラゴンを撫でながら、叫んだ。
「じゃ、えっとね、君の名前はレジェ!」
名付けしちゃった……? いや、待って。え、うそ。それってつまり……。
「おねえちゃーん! お友達になったよー!」
「まじかよ……」
嘘みたいなほんとの話って、あるんだね……。
れんちゃんの方へと歩いて行く。レジェと名付けられたドラゴンは、今もれんちゃんに鼻を触らせてあげてる。気持ちいいのかな?
大きいドラゴンだけど、こうして見るとかわいいかもしれない。……いや、それはない。大きすぎて恐怖心の方が先にくるよこれ。
「れんちゃん」
「なあに?」
わあ。すごく機嫌のいい声だ。まあ、うん。念願のドラゴンだもんね。嬉しくもなるよね。
「ステータス、見せてもらってもいい?」
「はあい」
ささっとれんちゃんがレジェのステータスを見せてくれる。レベル表記を見てみると、千のままだった。いやいや、正気なの? いいのこれ? やばくないかなこれ!?
どうしよう。山下さん呼ぶべきかな。ここで? 今? それはそれで、問題起きそうな。え、ほんとにどうしたらいいの?
「えへへ……。もふもふ、かわいい……」
かわいいかなそれ!? いや、うん。れんちゃんが幸せそうならいいや……。
その後は時間いっぱいまで、れんちゃんがレジェを撫で回すのを眺めることになってしまった。いや、本当に、どうしようかな……。
壁|w・)一応言っておきますが、ドラゴンによる無双はありません。
まっしろでもふもふふわふわのかっこいいどらごん と友達になりました。
なお、おっきいです。オルちゃんたち四匹も余裕で背中に乗れます。
次回は山下さんとのお話と、運営さんからの依頼です。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。






