配信二十一回目:最初で最後の戦闘回
ということで、れんちゃんと一緒にオルちゃんをなでもふしていたら、アリスが戻ってきた。心なしか涙ぐんでいるような……。
「ど、どうしたの?」
「ストーリーがね……良かったの……」
「そ、そっか。えっと、待とうか?」
「いや別に?」
あ、涙がひっこんだ。切り替え早くないかな!? アリスの視線はオルちゃんの肉球をもにもにしているれんちゃんに注がれてる。によによ笑い始めた。ちょっと、気持ち悪い。
「れんちゃん最優先だよもちろん。ドラゴンを見た時の反応が楽しみだね!」
「それはまあ、うん。分かる」
れんちゃんに声をかけて、先に進む。また長い通路を歩いていく。さてさて、本当にこの先もテイムできるのかな?
三部屋目、九つの首があるヒュドラ。れんちゃん曰く、かわいいらしい。時折この子の趣味が分からなくなるよ……。ヒュドラに触ったれんちゃんの感想は、すべすべで気持ちいいそう。この子の上でお昼寝したい、なんて言われた。反応に困る。
当然のようにテイムしてました。緊張感も何もない。
五部屋目。三つ首のケルベロス。わんこの首が増えたところでれんちゃんが怖がるはずもなく、もふもふしまくってた。肉球ぷにぷにしてた。オルちゃんより一回り大きかったけど、そんなのは関係ないらしい。ちょっとぐらい怖がってもいいんだよ……?
当然のように以下略。
七部屋目。キマイラ。獅子の頭に山羊の体、そして尻尾は蛇。すごいのが出てきた。さすがにこれはれんちゃんもどん引きなのでは、なんて思ったんだけど。
「もふもふとすべすべが合体した!」
まじかよ。それでいいのれんちゃん!? なんかこう、気持ち悪くないかな!? さすがのアリスもその反応にびっくりしてるよ! 私もびっくりだよ!
「え……? おねえちゃん、この子かわいくないかな……?」
「かわいいと思うよ!」
「ミレイちゃん……」
なにかなその目は。れんちゃんが大正義だ。れんちゃんが白と言えば灰色も白になるのだ。黒を白と言ったらさすがに注意するけど。
当然以下略!
そして、九部屋目。
「ストップ」
九部屋目に入る前にアリスが止めてきた。不思議に思いながらも立ち止まる。れんちゃんたちも止まった。うん。さすがにこう、大きなモンスターが四匹もいると、圧迫感がやばい。
「九部屋目のボスはストーリーの黒幕みたいな敵だよ」
「へえ……。それもテイム……」
「できないと思う」
「そうなの?」
「うん。だって相手、人間タイプだから」
なるほど、と納得できた。ゲームマスターの山下さん曰く、全てのモンスターがテイムできるらしい。それは逆に言えば、モンスターでなければテイムできないってことだと思う。
まあ、当然だろうとは思う。スケルトンとかならともかく、さすがにNPCと同じような人をテイムしてたら普通に引く。
「しかもそのキマイラとかより強いらしいから、れんちゃんには待機してもらった方がいいんじゃないかな?」
ということは、私とアリスの二人で戦うことになるのかな。正直自信はないけど、それを倒せばれんちゃん念願のドラゴンだ。今こそ限界を超える時!
「ねえねえアリスさん」
「どうしたの? れんちゃん」
「あのね。あのね。それって、悪い人? すっごく悪い人?」
「うん。すっごーく、悪い人」
「そっか!」
れんちゃんが嬉しそうに笑う。あれ、待って、なんだか、すごく、嫌な予感がするのですが。気付けばアリスも、微妙に笑顔が引きつっている。
「ミレイちゃん。とてもすごく嫌な予感がするの。気のせいかな?」
「奇遇だね、アリス。私もすごく、そんな気がする」
二人で顔を見合わせて、笑う。はははまさかねははは。
「れんちゃんは外で待機だよ? いい?」
「うん!」
あれ、予想に反していい返事。杞憂だったかな?
アリスと共に、九部屋目に入る。部屋の中央に、黒い甲冑の男がいた。ネームを確かめてみると、赤黒い文字でジェガとある。見ただけで分かる強敵の気配。これは気を引き締めないと……。
私たちが歩いて行くと、ジェガががしゃりと剣を抜いて……抜いて……。
抜こうとして、何故か私たちを、というよりもその奥を見て硬直していた。
「気のせいかなアリス。嫌な予感が現実のものになった気がするよ」
「奇遇だねミレイちゃん。振り返りたくないよ」
でもそうも言ってられないので、二人そろって振り返る。
オルトロスが。ヒュドラが。ケルベロスが。キマイラが。ジェガを睨み付けて唸っていた。どう見ても臨戦態勢です。これはひどい。
「みんながんばってー!」
れんちゃんの声援が届くと、四匹が嬉しそうに尻尾を振った。見事に飼い慣らされてる。もう一度言おう。これはひどい。
そして、私たちが呆然としている間に、四匹がジェガに襲いかかった。
結果を言えば、ひどい蹂躙でした。
いや、うん。仕方ないと言えば仕方ない。いくらジェガが四匹よりも高いステータスだったとしても、四匹も直前でボスをしていたモンスターだ。一対一ならともかく、一対四は多勢に無勢というやつだろう。
少しずつ減っていく四匹のHPに対して、目に見えて分かるほどの勢いで減っていくジェガのHP。笑うしかないとはこのことだ。
五分もかからずにジェガは消滅して、四匹は勝ち鬨を上げるかのように吠えていた。
「みんなすごい! 強い! かっこいい!」
れんちゃんの無邪気な歓声に、四匹は嬉しそうに尻尾を振る。キマイラさん、尻尾の蛇がちょっとかわいそうなことになってるよ……?
「ははは……。黒幕が一瞬で……。はは……」
アリスが真っ白になっちゃった。気持ちは分からないでもない。一般のゲームで例えるなら、ラスボスが突然出てきたNPCに勝手に倒されたような感じだと思う。
「アリス、その、ごめんね……?」
「あ、うん。いや、うん。大丈夫、うん。正直私たち二人だと結構微妙だったし、ちょうど良かったよ。……かき集めてきた回復アイテムは無駄になっちゃったけど」
アリスが言うには、このジェガ戦のために、今まで作った服とか可能な限り売って、回復アイテムを用意してくれていたらしい。百回は完全回復できて五十回は蘇生できる程度、だって。とても申し訳ない気持ちでいっぱいです……。
「でも、見ていて面白かったしいいよいいよ! ストーリーですっごくむかつくやつだったからね! すかっとした!」
「それなら良かった……のかな?」
フォローされてるような気もするけど、何も言わないでおこう。あとで、お礼しないとね……。
壁|w・)これは間違いなく戦闘回。
なお、他三匹と友達になる時もちゃんと「がおー!」をしています。
れんちゃん「がおー!」
ボス「…………(困惑)」
すでに墜ちたボス「…………(主様かわいい)」
保護者二人「あの人が実はさ」「ええ、うそ!?」(ただの雑談)
視聴者「なんだこれ」
次回は、ついにドラゴンとご対面です。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。






