配信二十一回目:最終ダンジョンツアー
れんちゃんと一緒にドラゴンに会いに行こう企画は、正直なところ暗礁に乗り上げていた。
「勝てぬ……」
ストーリーは三部構成で、ドラゴンは三部の最終ボス。で、私は二部の最終ボスで躓いています。変な巨人みたいなボスが倒せないです。目からレーザーとか意味わからん。
「というわけで、助けて」
夜の九時。れんちゃんが落ちた後、ストーリーの攻略に挑んでボスに詰まった私は、配信で助けを求めた。あれは無理です勝てません。どうして二部は強制ソロなの……。
『二部のラストって巨人だっけ』
『目からビームというロマン兵器のボス。運営の遊び心が満載だな!』
『殺意の高い遊び心だなw』
ほんとにね。目からビームが一番威力高いからね。予備動作が大きいからそれだけなら避けるのは簡単なんだけど、取り巻き召喚しまくって本当にうっとうしい。
『ちなみに三部はあの巨人が当然のように出てくる』
「ええ……」
なにそれ絶望しかないんだけど。ええ、これまだまだクリアできなさそうなんだけど……!
『このストーリーは一年を目安にじっくり取り組む難易度のはずだからな。そもそも一ヶ月というのが無茶すぎた』
「だよね……。でもれんちゃん、あんなに楽しみにしてるしなあ……」
どうにかして、最終ダンジョンに行けないものかな。
むう、と唸っていると、意外な人から声がかかった。
『やっほー、ミレイちゃん。アリスだよ。苦労してるみたいだね』
『アリスきた!』
『新衣装か新しい服なのか!?』
『うるさい。今はミレイちゃんとお話ししたいの』
それはちょっと横暴すぎやしないだろうか。苦笑しつつ、用件を聞いてみる。なんだか、服の用事ではなさそうだけど。
『ミレイちゃんは、別にストーリーをクリアしたいってわけじゃないんだよね?』
「だね。最終ボスのドラゴンに会いたいってだけだから」
『うん。じゃあ丁度いいかな。明日で良ければ行かない?』
「え」
それは。それはつまり、アリスは最終ダンジョンに挑むということだろうか。それは、でも、えっと、いいのかな?
「アリス。あのね、れんちゃんがいるから……」
『だいじょぶ。分かってる。戦闘は一切なし、れんちゃんのテイムをまったり眺める。それでいいよ』
「多分、時間かかるよ?」
『いいよいいよー。れんちゃんを見て和んでおくから!』
それはそれで、保護者として許可していいのか分からなくなるんだけど。いや、気持ちは分かるけどね。ふむう。
『ミレイ。是非とも付き合ってやってくれよ』
「ん? アリスのお知り合い?」
『おう。一緒にストーリーやってた。こっちの方が早ければミレイちゃんとれんちゃんを誘うんだって張り切ってたんだ』
『なに言っちゃってるのかなあああ!?』
『これは恥ずかしいw』
『アリス、いいところあるな……』
『ちなみに三日前にいつでも行けるようになったのに、恥ずかしくてなかなか言えなかったらしい』
『やめろおおおおお!』
『草』
『かわいいw』
「う、うん。えと。どうしよう反応に困る……」
そ、そういうことなら、お願いしてもいいのかな……? むしろこれで断る方がかわいそうな気もするし……。
うん。ありがたく、お願いしよう。
「お願いします」
私が頭を下げると、一瞬だけ慌てたようなコメントの後に、
『こちらこそ、よろしくお願いします』
そんなアリスのコメントが流れてきた。
「というわけで、やってきました最終ダンジョン!」
現在、私たちがいるのは真っ暗な草原。草も木も何もかもが黒い漆黒の世界。その世界にぽっかり広がる赤い穴。ここが、最終ダンジョンの入口だ。
そして一緒に行くのはもちろんこの二人、れんちゃんとアリスだ。
「わーい!」
「いえーい!」
無駄にテンションが高い。大丈夫かなこれ。
「今回も一応配信していますが、雰囲気を重視してコメントは全てカットです! だから何を言っても私たちは反応しないからそのつもりで!」
ぷかぷか浮かぶ光球にそう告げる。今も誰かが何かを言っているかもしれないけれど、残念ながら私たちにその声が届くことはない。ここに来る前に注意事項として伝えたから大丈夫だとは思うけど。
「ミレイちゃんの本気装備はやっぱり格好いいね。さすがお金のかかる装備……」
「言わないで……」
私の今の装備は赤を基調にした軽鎧で、その、なんというか。ガチャの最高レアです……。
いや、違うの。違うんだよ。少し前の配信でね、れんちゃんと一緒に遠出してみるよって言ったらね、れんちゃんを守るならもっといい装備を、みたいな話の流れになってね……。
あれよあれよとガチャしまくりました。気付けば最高レアの装備一式が揃いました。揃ってから私も視聴者さんたちも正気に戻って、みんなで何やってんだろうと自己嫌悪しちゃったよ。
この装備、強いは強いけど、やっぱり装備で強くなるのはちょっとなあ、と思うわけです。なのでこの、いわゆる本気装備は、れんちゃんと一緒に遠出するための装備になりました。
ちなみに四聖獣の卵はまだ出てない。これが物欲センサー。
「アリスは……弓?」
「そうそう。生産スキルはDEX、つまり器用さがよく上がるんだけどね、弓のダメージに直結するんだよ。生産職の人に弓士が多いのはそれが理由だね」
「なるほどね……」
「まあそもそもとしてあまり戦わないけどね!」
「だよね」
アリスは誰かが素材を持ち込んでくることの方が多いらしくて、あまり戦闘はしないそうだ。だから趣味スキルばっかり覚えているのだとか。それでも最低限として弓は覚えたらしいけど。
そんなアリスの装備はいわゆる弓道着。白い上衣に黒の袴。アリス曰く、馬上袴というものらしい。弓道着というのはうんたらかんたらと十分近く熱く語っていたけど、ごめん、ほとんど聞き流した。
そして本日、というかいつもの主役のれんちゃんは、いつもの着物、とはちょっと違って、袴を膝辺りで切ったもの。こういうの、なんていうんだっけ? アリスがこれもまた熱く語ったような気がするけど、全て聞き流した。いやだって、長いから……。
着物はれんちゃんのお気に入りだけど、もう少し動きやすいようにという要望でこうなった。れんちゃんのホームではいつも通りなんだけどね。
壁|w・)いざ最終ダンジョンへ。自力クリアは諦めました。
次回は中ボス戦。……戦? いや、うん。中ボス戦。うん。
Q.間の十回分は?
A.ガチャをしたりウルフたちにもみくちゃにされたり。いずれ短編集みたいな形で書くかも?
さりげなくプロローグ代わりの一話目も過ぎてます。
申し訳ありません。ちょっと思うところがありまして、更新時間を18時~21時の間にします。
いえ、まあ正直に言いますと、ツイッターで更新報告できないのが寂しいなと。
あと、日々の疲れの癒やしはやっぱり夜かなと……!
明日からいきなり変更だと心配をかけてしまいそうなので、お知らせを兼ねて投稿させていただきました。
よろしくお願いします……!
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。






