配信七回目:ついでに頭を抱えるお姉ちゃん
さて。ゲーム内の保護者である私は今、頭を抱えています。隣には腹を抱えてぷるぷる震えている菫の姿が! おのれ、他人事だと思って!
「佳蓮ちゃんは本当にかわいいわね」
笑いを堪えながら菫が言う。その意見には同意だけど、この後どんな顔をして会えばいいんだろう。
今回、れんちゃんが配信に使ったアカウントは私と共用。そして共用と言っても、ゲーム内での保護者は私、つまりあのアカウントのメインは私なのだ。まあ、うん。れんちゃんが配信を始めた時点で私に連絡が来たんだよね。
菫に事情を話すと、苦笑いしながら一緒に配信を見てくれることになった。喫茶店に入って、軽く食べ物をつまみながらスマホで配信を見る。そしてれんちゃんが白虎をテイムして、れんちゃんのホームに戻ったところで配信は終わった。
何が言いたいかと言うと、私はもうれんちゃんがホームに連れ込んだ子たちを知ってるわけだ。たてがみふさふさの雄ライオンと、雌ライオン二頭とトラ二頭。そして白虎。
知らなかったら驚くけど、知ってたら驚くものでもないわけで。さて私はどうしたらいいんだろうね。実は見てました、と正直に言うべきか、驚いてあげるべきか。
「どうしたられんちゃんが一番喜ぶかな……」
「そうね。今すぐ記憶を抹消して、何も知らないままログインすることね」
「無理難題にもほどがある……」
そんなことができたら苦労しない。できるなら今すぐやりたい。そうしたら、きっとれんちゃんの望み通りの反応ができるのに!
「私は、私はどうすればいいの……?」
私が頭を抱えていると、菫がため息をついて助言をしてくれた。
「あのね、未来。私に相談されても、そのゲームを知らないんだからアドバイスなんてできないわよ」
「うん……。ごめんね、分かってる」
「だからさ。未来にはゲーム内に頼れる相談相手がたくさんいるでしょ。いや、頼れるかは分からないけどさ」
「つまり?」
「ちょっと早めにログインして、相談してみなさい。どうせ暇人ばかりなんだし、少し早めに始めても誰かいるでしょ」
「なるほど!」
言い方は少し気になるけど、それはいい手かもしれない。頼りになるかは本当に分からないけど!
「はい。そうと決まれば、さっさと買い物終わらせましょ」
「だね。ありがとう、菫」
「はいはい」
その後は菫に連れ回される形で、ショッピングを楽しんだ。菫はちょっと買いすぎだと思います。
午後五時半。菫の助言に従い、私は少し早めにログインした。そしてすぐに配信の準備をする。少しの待ち時間の後、すぐに配信できる状態になった。
光球を叩いて、配信開始だ。
『お? またこんな時間?』
『今度はミレイか』
『おい馬鹿お前ら』
『そうだった、忘れてくれミレイ。それでどうしたんだ?』
この人たちは少なくとも、サプライズをしたいれんちゃんに合わせるようだ。いい人たちだな、と思う。私は、なんともいえない表情になってしまった。
「とても簡単に伝えますけど」
『おう』
「私が配信で使ってるアカウント、れんちゃんと共有なんです」
『うん』
『いや、待って。まさか』
お、はやい。もう察してくれた人がいるみたいだ。構わずに、続けて言う。
「私はゲーム内ではれんちゃんの保護者なので、アカウントのメインの権利は私にあるわけですよ」
『あー……』
『おいおいおいおい』
「れんちゃんが配信始めた時点で私に連絡が来まして、私も見ていたんですよね」
『ははは……。つまり?』
「れんちゃんのホームに何がいるか、知ってるんだよ! 私、今からどんな顔してれんちゃんと会えばいいの!?」
『草』
『これはひどいwww』
『れんちゃんが気付くべきだった、というのは小学生には酷か』
当たり前だけど、れんちゃんに責任を求めるつもりなんて毛頭ない。まさかやらないだろうと説明していなかった私が悪いのだ。れんちゃんは何一つ悪くない。
それでも悪いと言うなら、ただただひたすらにタイミングが悪かった。
「というわけで、助けてください。私はどうしたらいいかな。会った瞬間に謝って配信を見てましたって言うべきか、知らない振りをするべきか」
『究極の二択だな』
『素直に伝えるべきじゃね? 黙っていても罪悪感あるだろうし、ばれたら絶対に怒るぞ』
『黙ってようぜ。ばれなきゃいい。それよりもせっかくのれんちゃんのサプライズだぞ! 楽しめよ!』
とまあ、たくさんの意見を頂戴できたわけですが。数えると、ほぼ同数という結果に。これは、本当にどうしようかな。
『今更だけど、もう謝るのは遅くないか?』
「ん……? なんで?」
『いや、だって、謝るなら配信終わった直後じゃないか? 何時間経ってると思ってんの?』
「あ」
『あ』
そうだよ当たり前じゃないか謝るなられんちゃんがログアウトしたタイミングでないと意味がない……! どうして今まで黙ってたのか聞かれたら何も答えられなくなる!
『これは詰んだなw』
『まあ、お前はよくやったよ。骨ぐらいは拾ってやる』
『大草原の中から骨を探してみせるよ!』
「それおもいっきり笑ってやるって言ってるようなもんでしょうが!」
くそう、他人事だと思って! いや、事実彼らにとっては他人事だけどさあ!
ああ、もう時間だ。覚悟を決めるしかない……!
「じゃ、切るから! 行ってくる……!」
『逝ってこい!』
「うるさいよ!」
ああ、もう、なるようになれだ!
壁|w・)実は最初から気づいて見守ってました。保護者なので。
しかしそれ故に頭を抱えることに……。
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ではでは。






