配信七回目:いたずら
暗いいつもの病室で、佳蓮はゲームの準備をしてもらっています。未だ昼過ぎ、つまりは二回目のフルダイブで、本来なら勉強の時間なのですが、今日は日曜日です。いつも勉強を教えてくれる先生はお休みなので、午前はお休みすることを条件にお昼もゲームをさせてもらうことになりました。
それを昨日お姉ちゃんに伝えたのですが、すでに友達と約束してしまっていたらしく、とても後悔していました。友達の約束を断ろうか、なんて言っていたのでさすがにお説教しました。ちゃんと友達は大事にしないといけないのです。
そんなわけで、お昼は一人でログインすることになりました。
いつもの自分のホームに降り立ったれんは、とりあえずラッキーとディア、それに猫たちと遊びました。みんなのブラッシングをして、ごろごろもふもふして。しっかりと満喫してから、れんは思います。
いたずら、してみようかな、と。
れんも子供です。たまにはこんないたずら心も出ちゃうのです。
そんなわけで。れんはうんうん唸りながらメニューを眺めます。
おねえちゃんが教えてくれたことがあります。配信で使っているアカウントはれんと共有していて、れんでも使えるのだと。ただ、あくまでそういうものだという説明をされただけなので、使い方は分かりません。
うんうん唸って唸り続けて、これかな、というものを見つけました。はいしん、というそのままのメニュー。それをタッチすると、またずらっといろんなものが出てきたので、とりあえずそれっぽいものを押してみました。はじめる、を。
すると、何かを書き込む枠が出てきました。これはきっと配信のタイトルのことでしょう。
「えっと……。れん、と」
ですが残念ながられんはそもそもとして、配信にタイトルが付けられていることすら知りません。れんはこれが自分の名前の入力欄だと勘違いしてしまいました。
そして、そのまま始めました。
唐突に出てきた光球と黒い板のようなものにれんは驚きましたが、よくお姉ちゃんが使っているものだと気が付いて一安心です。少しすると、コメントが流れてきました。
『なんだこの放送』
『配信者はミレイの名前だけど……』
「あ、あの、こんにちは」
『れんちゃん!?』
『え、え、一人!?』
『ミレイはどうしたの?』
なんだか皆さんとても慌てているみたいです。不思議ですね。
「えと。今日はわたし一人、です。日曜日なので友達と出かけてます」
『れんちゃん残して遊びに行くなんて』
『いやそう言ってやるなよ。ミレイにも同年代の付き合いがあるだろ』
「うん。わたしが今日はお昼も遊べるって知ったら、お友達にごめんなさいしようとしたから、友達を大事にしなさいってめってした」
『怒ったのかw』
『小学生に怒られる高校生』
『れんちゃんえらい!』
そんなに怒ってはいないですけど、なんだかちょっぴり勘違いされてるような気もします。けれど、他に言い方も分からないので、このままにしておくことにします。間違ってはいないですし。
「それでね。今日はわたし一人です」
『れんちゃんもミレイの妹なんだなあ』
『行動力あるよね』
「こーどーりょく?」
『舌っ足らずかわいい』
なんだか微妙にばかにされた気がします。れんがむう、と頬を膨らませると、多分さっきの人が謝ってきました。れんは心が広いので許してあげます。
「今日は、おねえちゃんにいたずらしようと思います」
『れんちゃん!?』
『急にどうしたれんちゃんwww』
『まさかのいたずら配信w』
『何するの?』
「今から新しいお友達をここに連れてきて、おねえちゃんをびっくりさせます!」
『かわいい』
『かわいらしいいたずらだなあw』
『そういういたずらならいいと思う。応援する』
「ありがとうコメントさん!」
『うん。うん。あれ? 俺らって人として認識されてない?』
『俺らの本体はコメントだった……?』
『私は人……コメント……私とは一体……?』
『お前ら落ち着けwww』
なんだか変なことになっていますが、とりあえずコメントさんたちの賛成は得られたので出発することにしましょう。目的地も、次に仲良くなりたい子ももう決まっています。
「コメントさんたちがいいって言ってくれたから、がんばる」
ふんす、と気合いを入れるれんは、流れるコメントに気が付きません。
『あれ? これってもしかしなくても、共犯にされたっぽい……?』
『お。そうだな。嫌なら帰って、どうぞ』
『ふざけんな。今回神回確定だろ。馬鹿野郎俺は見届けるぞ!』
『ミレイの反応が楽しみすぎるwww』
さてさて、出発です。まず最初に向かうのはセカンです。
このフィールドはいつでも来れるれんのホームです。ここから出るにはメニューを開いて、ファトスに移動をタッチします。すると次の瞬間には、ファトスの転移石の目の前です。
この転移石から、次はセカンに移動。サズも気になりますが、そこに行くとさすがにお姉ちゃんに怒られるような気がします。
セカンについたら、先日お姉ちゃんと一緒に行った草原へ。そこにれんの目的地があるのです。
『れんちゃんれんちゃん。そろそろどこに行くか教えてほしいなって』
そんなコメントが流れてきました。そう言えばまだ言っていませんでした。
「この近くにあるダンジョンだよ。トラとかライオンがいっぱいいるんだって」
『待って』
『それアカンやつ』
『れんちゃんだめだ考え直せ!』
なんだかコメントさんたちが必死です。どうしたのでしょうか。
「むう? よくわかんないけど、だいじょうぶだよ?」
『大丈夫じゃないからあ! 行っちゃだめだあ!』
「……?」
どうしてそこまで言うのでしょう。れんには分かりません。
そしてもう、ダンジョンは目の前です。れんの目の前には、地面にぽっかりと空いた大きな穴があります。ここに飛び込むとダンジョン内部だそうです。
ちなみに、気付かずに転げ落ちた人のために、落ちた先には脱出の魔法陣があるようです。親切ですね。まず穴にするなよとよく言われているらしいですけど。
「行ってきます!」
『ああ! 本当に行っちゃったああ!』
『おいこれ俺らも間違い無くミレイに怒られるぞ!』
『甘んじて怒られよう……。せめて見守ろう……』
壁|w・)いざ、初めてのダンジョンへ!
次回からいよいよれんちゃんの戦闘が、始まらない!
このお話に戦闘描写なんてあり得ないのです。まったりもふもふ。
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ではでは。






