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黒の勇者 ―逆襲のゴーレム使い―  作者: 丸瀬 浩玄
第四章 黒の復讐者
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 先に動いたのはマリンガム――強靭な足腰を見せつけるように突っ込んでくる。

 迎え撃つ蒼汰は、躊躇う事なく銃撃を開始する。

 ガンアクション映画さながらの銃声を響かせ、無数の鉛の弾丸がマリンガムに襲いかかる。

 先ほど直撃を喰らいその威力を知るマリンガムは、何発かその身に受けながらも跳躍して躱すと、勢いそのままに蒼汰に迫り大鎌を振り下ろす。

 対する蒼汰は、マリンガムが跳躍した時点で銃撃を止め、背に背負う天羽々斬を引き抜き、大鎌を振り上げ迫るマリンガムに振り下ろした。

 ぶつかり合う大剣と大鎌――剣戟の音が響き渡り、大量の火花が舞う。

 当然ただの剣戟でこれ程の火花が舞うことはない。高速回転する刃を持つ天羽々斬の特殊性があるからこそ起こる現象だ。

 そんな天羽々斬とまともに打ち合い刃こぼれ一つ見せないマリンガムの大鎌も、それ相応の物なのだろう。


 一旦距離をとった二人だが、すぐに再接近して剣戟を繰り広げる。

 二本の大鎌を巧みに扱い手数で押そうとするマリンガム。それを蒼汰は、大剣一つで見事に捌いてみせる。スピードではマリンガム、パワーでは蒼汰と言ったところか。

 戦いは一進一退に見えた。

 並みの騎士では目で追う事も難しい戦いが続く中、中々主導権が握れない事に焦れてきたマリンガムの攻撃が、わずかにだが大振りになり始める。

 そのわずかな隙を突くように、天羽々斬が横薙ぎに振り抜かれる。

 それをマリンガムは体勢を崩しながらも、二本の大鎌を無理矢理体と天羽々斬の間に割り込ませ何とか防ぐ。

 だが体勢を崩したマリンガムでは、ゴーレムにより強化された蒼汰の膂力に抗いきれず、激しく火花を撒き散らせながら数メートルにわたり弾き飛ばされることになる。


「今の私を吹き飛ばすとは、中々の力ですね」


 すぐに体勢を立て直し着地に成功してみせたマリンガムは、金色の瞳に怒りの感情を浮かべそう口にした。


「しかもかなり速い。下級の死徒では勝負にもならなさそうですね。一年前とまるで別人というわけですか。一体どうやってこの短期間で、そこまで強くなったのでしょうか?」

「知るか」


 それは質問というよりも、頭に浮かんだ疑問が口をついて出ただけのように聞こえた。だからというわけではないだろうが、蒼汰の答えもぶっきら棒で短い。


「連れないですね。それにその剣、魔剣でしょうか? 練磨迷宮での拾い物……いえ、もしかしてそれ、ゴーレムですか?」


 刀身一メートル七十センチ、幅二十センチ、わずかな耳鳴りのような音を響かせる不思議な剣――天羽々斬。

 当初創った物よりも刀身は少し長くなり、【F7】ランクの魔核で強化された為か、刃の動きがより滑らかで高速化し、音も小さくなり耳鳴りに聞こえる程度にまで改善されていた。当然、その攻撃力も以前の物とは段違いに強化されている。


「……」

「沈黙ですか。という事は当たらずとも遠からず、でしょうかね。それよりも――」


 さらに何かを言おうとするマリンガムに、話に付き合うつもりの無い蒼汰は、有無を言わせず一気に間合いを詰め天羽々斬を振り下ろした。


「全く、せっかちですね。まだ話の途中だというのに」


 バックステップでそれを躱しながらも、マリンガムは喋るのを止めようとしない。

 そんなマリンガムに、蒼汰は黙したまま突きを放つ。


「くっ!」


 これは拙いとマリンガムは二本の大鎌をクロスさせて突きをガード、その勢いを利用して一気に距離を取ろうとする。

 だが――そこに鳴り響く銃声。

 蒼汰は放ったのは突き。つまり手首――銃口は前方を向いている。

 ターゲットが至近距離にいる以上、わざわざ狙いを定める必要もない。適当にばら撒けば何発かは当たるのだから。

 アンチマテリアルライフルを超える威力を誇る銃弾が数発、死徒となったマリンガムの体を貫く。


「なっ!? グガアアア!!」


 その衝撃に弾き飛ばされるように体勢を崩すマリンガムだったが、まるで猫のように体を捻り着地を決めると、この距離は不利だとすぐに間合いを詰め蒼汰に接近戦を挑む。


「さっきからバンバンと、何なのですかその攻撃は!?」


 何度となく襲う銃撃に、苛立たしげな表情を隠そうともせず、二本の大鎌で攻撃を仕掛けながら、マリンガムは問いただすように話しかけてきた。


「……」

「またダンマリですか。どうせ魔法なんでしょが少しウザいですね。まあいいです、どうせ魔法特化の勇者でないあなたの魔法では、中級上位の死徒である私の魔法には敵わないはずですからね」


 その言葉を切っ掛けに、接近戦を続けるマリンガムの後方に直径五十センチ程の深緑色をした風の塊が無数に浮かび上がる。


「さあ、そろそろ終わりにしましょう。喰らいなさい!!」


 マリンガムは大きくバックステップすると同時にそれを撃ち放なつ。

 一斉に襲いかかってきたそれは、直撃すると一気に竜巻のように膨れ上がり、一瞬で蒼汰を飲み込んだ。


「フハハハ、どうです、中々の威力でしょう? とは言え、さすがにこれぐらいでは死にそうにはないですかね」


 あまりにも強烈な魔力を放つ魔法に、周囲で見ていた騎士たちには、今ので蒼汰がやられてしまったかのように見えていた。だがマリンガムはそうとは思わず、油断の欠片すら見せていない。それどころか、この後に起こるであろう事を予測すらしていた。

 そして――深緑の風を引きちぎるように黒い影が――顔に幾つもの切り傷を負いながらも、表情一つ変えない蒼汰が、飛び出してきた。

 この時を待っていたマリンガムは、素早く蒼汰の死角に回り込み、その首を刈り取るべく大鎌を振るった。

 死角からの完全なる奇襲。だが蒼汰はそれに気付いていた。魑魅魍魎が跋扈する迷宮の深層から、しかも単独で帰還した蒼汰にと、その程度の事はできて当たり前だった。

 振り下ろされた大鎌に合わせるように、天羽々斬を斬りあげる。

 激しい火花を散らし、ぶつかり合う大剣と大鎌。


 (――軽い!?)


 マリンガムの左腕の大鎌が大きく弾かれる。

 トドメを刺しに来ていた一撃にも関わらず、剣から伝わる手応えがあまりにも貧弱、それを証明するかのように蒼汰の体が勢いを殺しきれず僅かに流れる。

 マリンガムの目が笑った。まるでそれが狙いだったとでも言うように。


「これで終わりです!」


 それは勝利への絶対的な確信。右腕の大鎌で、蒼汰の首を薙ぐ――はずだった。


「なッ!?」


 甲高い金属音が鳴る。――蒼汰の首を薙ぎ払うはずであった大鎌が、蒼汰の首、目前で停止した。


「バカな!!」


 マリンガムの大鎌が止まった理由――それは大鎌と首との間に差し込まれた左腕。蒼汰は体が流れたあの瞬間、天羽々斬から左腕だけ手を離し、一番の弱点であろう鎧を身に付けていない頭部と首をガードしたのだ。

 その結果がマリンガムの信じられないものだった。

 マリンガムは自分の大鎌であれば、鋼鉄の鎧どころか、ミスリルの鎧を纏った騎士ですら一刀両断できる自信があった。だからこそ鋼鉄製にしか見えないガンドレッド程度、ガードした腕諸共、首を刎ねれると思っていた。

 だが蓋を開けてみれば、首は刎ねれずガンドレッドにわずかばかりの傷を付けただけに終わってしまった。

 あまりの予想外の結果に、マリンガムは一瞬動きを止めてしまう。それは瞬き程の時間だった。だがそれは致命的な一瞬となる。

 その瞬間、マリンガムの左肩口から右脇腹に掛け斜めに閃光が走り、左腕が宙を舞い血と臓物が飛び散る。

 そしてマリンガムの上半身は、錐揉みしながら地面を転がった。

 斬りあげ振り上げたままだった天羽々斬が、右腕一本で振り下され、マリンガムを一刀で斬り捨てたのだ。


「ガハッ!」


 左腕を失い、下半身を失い、乱れた呼吸で空を見つめ、血溜まりを作り倒れているマリンガム。まだ状況が飲み込めていないのか、その瞳は虚ろだ。

 蒼汰はそんなマリンガムに近付くと、何の躊躇いも無く、天羽々斬を振り下ろし、残された右腕を斬り落とした。


「うぎゃあアア!!」

「よう、久しぶりだな」


 気付けがわりにマリンガムの右腕を斬り落とした蒼汰は、手にした天羽々斬を無造作に地面に突き立て、悲鳴を上げるマリンガムの胸元に腰を下ろし、そう言って獰猛な笑みを浮かべた。


「うぐっ、夜神、貴様!」


 四肢を失い戦うすべを無くしたマリンガムは、両目に怒りと憎悪を滾らせ蒼汰を睨みつける。


「へぇ、まだそれだけの元気があるとは、さすがは死徒だな。これならしばらくは大丈夫かね」

「貴様、何を言っている!」

「何って決まってるだろうが。なッ!」


 蒼汰はマリンガムの顔を殴りつけた。


「な、何を――ぶッ!」


 有無を言わせずさらに殴る。何発も何発も、獰猛な笑みを浮かべたまま馬乗りになり、無言で両腕を振り下ろし続ける。

 その異常な光景に周りにいる騎士たちは、声をかけるどころか身動き一つ取れないでいた。

 マリンガムの呻き声も小さくなってきた頃、蒼汰の拳がやようやく止まった。


「さてと、そろそろ質問タイムに移るか」

「……」

「単刀直入に聞く。雅人は何処だ?」

「……し、知るか」


 マリンガムは蒼汰の問いにそう答えると、蒼汰顔目掛け血の混じった唾を吐いた。

 顔に付いた唾を蒼汰は拳で拭うと、再びマリンガムの顔を無言で殴り始める。


「で、どうなんだ?」


 しばらく殴り続けた後、マリンガムの襟首を掴み再び問う。


「し……知らん」

「外道の癖に頑張るね。まあいいけど」


 そう言うと蒼汰は、何処からともなく短剣を取り出した。当然この短剣もゴーレムである。仕組みは天羽々斬と同じ、チェーンソーのように刃が高速回転する短剣――それを蒼汰は召喚したのだ。


「そんな物で、私を脅せるとでも?」

「さァな、俺はどっちでも構わんさ」

「そんな――」


 まだ何かを言おうとするマリンガムを無視して、肩口目掛け天羽々斬式の短剣を躊躇なく突き刺した。


「アガガガアアアア!!」


 短剣が突き刺さた傷口から、血と肉片を撒き散らせマリンガムは絶叫する。さらに蒼汰はその短剣を繰り返しマリンガムの体に突き立て始めた。

 そのあまりにも凄惨な光景に騎士たちは皆目を逸らす。そんな中でも蒼汰は一人、底冷えすような薄ら笑いを浮かべていた。


「アガガが、や、止めろ! じょう、情報が、ウガが、く、き、聞けなく、ても、イギギ、いいのか、ギギギ」

「ああ、正直もうどうでもいいわ。他から聞くからよ」


 本当はどうでもいいという訳ではない。情報を引き出す必要が有るとは分かってはいるのだ。だが黒く染まりきった感情が、それを他所に押し退ける。

〝コイツを甚振り嬲り殺す〟――その感情だけに塗り潰され、自分をコントロールできなくなっていたのだ。


「なッ! バ、バカな――」


 そこからの蒼汰は、精神が壊れたかのように高笑いを上げながら、何度も何度も短剣を振り下ろした。

 それはマリンガムの悲鳴が消えても、しばらく止むことはなかったのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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