表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の勇者 ―逆襲のゴーレム使い―  作者: 丸瀬 浩玄
第四章 黒の復讐者
35/42

今回もちょっと短めです。

 ゴーレム鎧を初めて作り出してからすでに十五日が経過していた。

 あれだけ画期的に思えたゴーレム鎧だったが、ある二つの問題点により、今日まで一度も実戦テストにまで至っていなかった。

 その二つの問題点とは――〝レスポンスの悪さと〟〝衝撃吸収力の悪さ〟――であった。


 レスポンスの悪さに関しては、正直当然といえば当然の現象だ。

 何故なら、人は体を動かす際、特に意識しなくても、自分の思うようにすぐに動かす事ができる。

 だがゴーレム鎧は、蒼汰の意思に従い動くとはいえ、あくまでもゴーレムである以上、蒼汰の指示を受け始めて動くのだ。

 もちろん実際に指示を出しているわけではなく、【ゴーレムクリエイター】の力を使い意識をダイレクトに伝え動かしているので、普通の感覚から言えば、それ程反応が鈍いというわけではない。

 だがそれでも、意識しないで動かせるのと、意識して動かすのとでは、レスポンスにどうしてもわずかながら差が生まれる。

 普通に生活する分には、特に問題ないレベルの差でしかないのだが、こと戦闘となれば話は大きく違ってくる。

 戦闘とは刹那の判断の連続であり、極限まで最適化された動きの集合体だ。いや、そうあるべきだと蒼汰は思い、実際にそうなるように自分を鍛えてきた。

 だからこそ、このわずかなレスポンスの差が、命に関わる大きな差になると感じていた。

 だがそれも、少しずつではあるが、解決に向かっている。その解決策は単純――〝慣れ〟ただそれだけである。

 何度も何度も繰り返し操り、意識をゴーレム鎧と同調させていく。それは意識して動かしていたものを、意識しせずにできるようにするということ。まさに〝慣れ〟ということだ。

 理想は全てを無意識にこなせるようになる事。

 蒼汰はまだその域に至ってはいない。だがそれでも、この十五日間の鍛錬でどうにかやうやく、最低限納得できるラインまでには動けるようになったと言えよう。


 続いて二つ目の問題点、衝撃吸収力の悪さに関してだが、これが判明したのは、初めて防御力のテストを行った時だった。

 どの程度の防御力があるのか、武甕雷の攻撃を受けて確認する事にした蒼汰は、武甕雷の武器を殴打系の武器――メイスに変更して、ゴーレム鎧を纏った自分を直接殴らせた。

 結果――悶絶。

 初めということで軽い一撃だった。だがその一撃で蒼汰は、しばらく動けなくなるほどのダメージを受けてしまった。


 原因は、身に付けていたゴーレム鎧と蒼汰の体との間に、まったく隙間が無かった事だった。

 隙間が無いという事は遊びが無いという事。それにより、外的要因で受けた衝撃が、ほとんど緩衝される事なく中にいる蒼汰に伝わってしまったのだ。

 これもある種、仕方のない事だった。

 ゴーレム鎧のレスポンスを向上させる上で最も大切なのは、ゴーレム鎧と意識を同調させること。それに一番適した方法が、ゴーレム鎧と蒼汰の体を隙間なく触れさせることなのだ。


 二律背反とも言うべきか、ゴーレム鎧が抱える二つの問題は、相容れぬ大きな問題のように最初は見えた。

 だが、蒼汰は諦める事なく、トライ&エラーを何度も繰り返して、改良を続けることになる。


 主に行ったのは緩衝層を作ること。具体的には、鎧の中に空気の層を作ることを考えた。

 最初に行ったのは、構想そのままに鎧の中に積みレンガのように互い違いの層を作り、所々に直接衝撃が伝わらないように空気の層を混ぜ込んだ。結果、多少の衝撃軽減には成功した。

 だがあくまでも多少であり、しかも強度が明らかに低下するという欠点まであり、採用することはできなかった。


 続いて行ったのは、気泡の層を作ること。鎧の外殻と直接体に触れる内側の間に、気泡の含んだ層を作ってみたのだ。結果はまったくと言っていい程にダメだった。

 まず、気泡の量が少なければ、緩衝層としての効果がまったく出なかった。逆に気泡を大きくしたり、気泡の量を増やすと、衝撃に緩衝層が耐えきれず、層そのものがへしゃげてしまった。はっきりてやらない方がいいと言ったレベルの結果であった。


 そして最後に行き着いた方法が、現在のゴーレム鎧に採用しているハニカム構造の緩衝層である。

 ハニカム構造とは、正六面形を隙間なく敷き詰めた構造のことを指す。

 イメージとしては〝ミツバチの櫛(ハニカム)〟だけに、蜂の巣のような構造だと言えば分かりやすいだろう。

 このハニカム構造は、強度をあまり損なわず、必要な材料を減らし軽量化できる技術として知られている。

 蒼汰はそれを、昔テレビで見た事で覚えており、緩衝層に使えるかもしれないと試すことにしたのだ。

 ただそれを実現するには、蒼汰の高い魔力制御能力と異常なまでの空間把握能力があって初めて可能とする方法だったため、かなりの苦労を強いられる事になる。

 そして、気泡緩衝層の時と同様にゴーレム鎧の外殻と直接体が触れる内側との間に、そのハニカム構造の緩衝層を設けた。

 結果は上々――想像以上に高い衝撃吸収力を持った上に、強度は殆ど損なわれていなというものだった。

 その後、ハニカム構造の肝である正六角形の大きさを色々と調整して、さらなる機能向上を求めてきた。


 そして今日、その二つの問題にようやく目処が立った蒼汰は、この日初めてティラノもどきに挑むことを決めたのだった。



◆◇◆



 五体の武甕雷を引き連れ、蒼汰は巨大通路に再びやって来た。

 ティラノもどきに挑むのは当然っだが、今回の目的は、蒼汰自身の魔法が、ティラノもどきにどの程度が効果があるか、確かめることである。

 そのため、最初から無理に倒すつもりは全くなく、危険と感じれば即時撤退する事を決めていた。


 巨大通路に出るのは今回でまだ二度目。さらにティラノもどきのような化け物が跋扈する場所であるため、否が応でも緊張感が高まってくる。況してや今からその化け物と対峙するとなれば尚更である。

 これまでも何度か武甕雷を調査に出していたが、探索範囲が狭い事もあり、分かった事は殆どない。

 ほぼ唯一と言っていい分かっ事は、おそらくこの辺りは、ティラノもどきの領域(縄張り)だという事。

 ただし確信を持って言えるものではなく、ティラノもどきを複数体確認しているが、他の魔物が一切確認できていなという事実からの、あくまでも憶測でしかなかった。


 頭部を含め全身をゴーレム鎧で覆い、その上から黒い外套を羽織る蒼汰。その右手には【ゴーレムクリエイター】で作られたクレイモアが握られていた。

 まだまだ満足のいく準備は出来ていない。だが不安や緊張、そして恐怖を、復讐心という黒い感情で塗り潰し、ティラノもどきを求め、蒼汰は巨大通路の奥へと歩みを進め始めるのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

続きを、と思ったら、ブックマークや評価をして頂けると、とても嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ