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「それじゃあ出すぞ!」

「いいから早く出せよ!」


 猪鬼人(オーク)との戦いから早一週間が過ぎた日の夕方、王城敷地内にある屋外訓練場に、蒼汰と武尊の言い合う声が響いた。

 そんな二人のやり取りに、見物人の笑い声が重なるように聞こえてくる。

 この屋外訓練場には現在、蒼汰と武尊以外に三人の見物人がいた。

 一人は水野翔子。夕食時に蒼汰と武尊が新型ゴーレムについて話しているのを聞き、本人立っての希望で新型ゴーレムのお披露目&試運転に参加する事になった。

 残りの二人は、東城雅人と勇者の指導役であるダミアン・マリンガムであった。この二人に関しては、蒼汰の新型ゴーレムをわざわざ見にきたのではなく、雅人がマリンガムから屋外訓練場で魔術の個人指導を受けていたところ、たまたま新型ゴーレムの試運転にやって来た蒼汰たちと鉢合わせとなり、そのまま面白そうだと見物人となったのだ。



 翔子たち見物人が見守る中、蒼汰は前方に手のひらを突き出し、魔力を集中させた。

 そしてそれは、唐突に現れた。

 現れたのは、身の丈二メートルを超える巨躯の騎士。

 ただそのゴーレムは、羅刹のような無骨な鎧を纏った姿ではなく、洗練された美しさと、どこか凶暴さを併せ持った独特なフォルムの鎧を纏っていた。

 そのゴーレムは、暗灰色をした石材で創られた体を持ち、右手には刃渡り一メートル半ほどの肉厚な大剣、左手には頑強そうなタワーシールドを握り、まさに威風堂々たる騎士の気配を放ち静かに立っていた。


「へー、これが〝セカンドブレイク〟した能力で創ったゴーレムか……」

 独特な存在感を放つそのゴーレムを見た武尊は、驚きの表情で感心するように呟いた。


 ――セカンドブレイク――

 猪鬼人(オーク)討伐から帰った日の夜、それは、蒼汰たち勇者全員に突如として起こった。

 勇技(ブレイブスキル)二段目の覚醒。

 突然、忘れていたものを思い出したかのように、新たな知識が頭の中に溢れしたのだ。

 それは、新たなる力の解放――勇技(ブレイブスキル)の進化であった。

 そして蒼汰が、勇技(ブレイブスキル)の進化で新たに得た能力で創られたのが、この新型ゴーレムであったのだ。



 新型ゴーレムには、今までのゴーレムとは一つ大きな違いがあった。それは、魔物の心臓とも言える魔核を核として使用している事だ。

 ちなみに魔核は、常に魔力を帯びている特性から、魔道具やポーションなどの素材として用いられている。大きさは魔物のランクによって変わってくるが、小さいものでゴルフボール程度、大きいものでソフトボールをやや超える程度だと言われている。色はランクに関わらず赤黒いが、質が良いもの程黒味が増す。つまり大きく色が黒いものほど強い魔力を帯びた魔核というわけである。

 そして蒼汰が新たに手に入れた能力の一つが、その魔核を用いたゴーレムの創造であった。


 まずこれにより、ゴーレムの稼働時間制限がなくなった。

 これまでのゴーレムは、蒼汰が込めた魔力によって動いていた為、込めた魔力が尽きれば当然土塊(つちくれ)に戻ってしまう。そのため迷宮探索などの際は、こまめに何度も魔力を注入しゴーレム状態を維持続けなければなかった。

 それが魔核を核にする事により、破壊されない限り、半永久的に動くことができるゴーレムを創れるようになったのだ。

 これはゴーレムの稼働時間だけでなく、もう一つ大きな変革をもたらした。それはゴーレムの素材だ。


 これまで蒼汰が創ったゴーレムは、基本土製のものだった。それには如何ともしがたい理由があった。

 その理由とは、製作時間と維持コストである。

 土を材料に羅刹を一体創る場合、製作時間は約三十秒程で済んだ。これを違う材料――たとえば石で創るとなくと、製作時間は一気に延び一時間近くかかるようになる。また、羅刹の稼働時間も、土製のものと比べ五分の一以下と激減する。このことから蒼汰は、実戦では土でゴーレムを創らざる負えなかったのだ。


 それが魔核をゴーレムの核にすることで一気に解消した。つまり維持コストがなくなり、それにより製作時間が多少掛かっても気にする必要がなくなったのである。

 そしてこの魔核を核にすることで、他にも大きな利点が生まれる事になる。その際たるものが、ゴーレムの出力の強化だ。

 魔物の強さは魔核のランクと質に依存する。それは、魔核を使用したゴーレムにも言えることであったのだ。

 よりランクの高い、より質の良い魔核を使用することで、蒼汰の創り出したゴーレムはさらに強くなっていく。これにより【F2】ランク上位の魔物程度の戦闘力でしかなかったゴーレムを、一気に強化できるようになったのだ。


 さらにもう一つ、魔核を使う大きな利点がある。

 それはセカンドブレイクにより新たに得た二つ目の能力によるものだ。

 その能力とは、ゴーレムの格納。

 魔核で創り出したゴーレムに限り、蒼汰の魔力の中に、格納する事ができるようになる能力であった。

 それはいつでも好きな時、好きな場所に、ゴーレムを出し入れ出来るようになったという事。先ほど蒼汰が瞬時に新型ゴーレムを出現させたのも、この能力によるものだ。

 格納できる容量は、蒼汰の最大魔力量に依存しているため、どうしても限度はあるが、それでも現状、人間サイズのゴーレムであれば十体ほど格納できる。――ただし魔力制御能力の所為か、同時に制御できるのは現状三体が限界。

 これによりゴーレムの運用は格段に楽になり、戦い方のバリエーションも増える事になる。それは蒼汰にとって最も望んでいた能力とも言えた。


 そしてさらにもう一つ、蒼汰にはセカンドブレイクにより覚醒した能力があった。それは、ゴーレムの核となく魔核の合成だ。

 言葉通り、二つ以上の魔核を一つに合成する能力なのだが、正確にはメインとなる魔核に他の魔核を吸収させ、質を高める能力であった。

 ただ質を高めると言っても、魔核のランクが上がることはなく、あくまでも同一ランク内で、質を高めるだけにとどまる。もちろんそれにも限度があり、一定以上質が上がるとそれ以上合成はできなくなってしまう。

 多少制限はあるが、それでも蒼汰の新型ゴーレムと相性がいい能力であることは間違いないだろう。


 以上の三つの能力が、蒼汰がセカンドブレイクにより、新たに手に入れた能力であった。

 ちなみにここにいる、武尊たち三人の勇者も、それぞれセカンドブレイクにより新たな力を得ている。


【魔剣士】――武尊の得た能力は、魔法剣の威力強化と魔法剣による遠距離攻撃。そして鎧などの防具にも、魔法を付与することが出来るようになった。

 そんな武尊に「ますます主人公ぽくなりやがって」と蒼汰が文句を言たのも、仕方のない事だろう。


 続いて【インフィニティマナ】――翔子が得た能力は、魔力量と回復力がさらに倍増し、尚且つ魔法の展開速度も倍となるというものだった。これにより、魔法を弾幕のように撃てるようになり、広域殲滅能力がさらに上がたことになる。


 そして【ドレインマスター】――雅人が得た能力は、奪える魔力や体力の量が以前の五割増しとなり、さらに魔法攻撃で与えたダメージからも、魔力と体力を奪えるようになった。これによりさらに圧倒的な継戦能力を手に入れたと言える。

 ちなみに今回、雅人がマリンガムから魔術の個人指導を受けていたのも、この新たに手に入れた能力により、魔法による攻撃の重要性がより高まったからであった。

 



「すごい迫力……」

「本当ですね。素晴らしい……」


 初めて見た新型ゴーレムに、翔子は驚きの声を漏らし、マリンガムもそれに同意するように賞賛の声をあげた。


「これって、DFOの黒騎士様じゃねえか! すげー再現力だな」


 DFO――正式名称ダーク・ファンタジー・オンライン。世界で一〇〇〇万ダウンロードされた、人気MMORPGのゲームタイトルである。その中でも黒騎士とはイベントで度々出てくる宿敵で、その姿の格好良さとクールな性格から、メインキャラ以上に高い人気を誇る敵キャラであった。


「そうだろうそうだろう、我ながら大満足の出来だからな」

「それにしても、ディテールの細かさとか造り込みが半端ねェな。相変わらずと言うかなんと言うか」


 武尊の言葉に蒼汰がドヤ顔で答え、それを聞きながら雅人が呆れ顔で呟いた。


 元々蒼汰は、写実画や彫刻のような図画工作が得意だった。特に見たものを見たままに再現する事や、イメージしたものをそのまま形のする器用さは、ずば抜けて高いものを持っていた。

 その能力が、今回のゴーレム創りに大きく影響しているのは間違いない。

 さらに言えば、蒼汰の異常な精密さの魔法制御能力も、この持って生まれたずば抜けて高い器用さからくるものであった。



「で、名前は羅刹のままか?」


 みんなが新型ゴーレムを感心の目で見つめる中、雅人が興味深げに蒼汰に尋ねた。


「いや、変えるぞ。そいつの名前は武甕雷(タケミカズチ)だ。いい感じの名前だろう?」


 蒼汰は得意げに胸を張る。


「まあお前がいいならいいけど……なんと言うか、厨二臭がな……」


 再びドヤ顔になった蒼汰に、残念なものを見るよな視線を向け武尊は呟いた。


「あ、俺もそれ思った。蒼汰らしいと言えばらしいけどさ」


 と、武尊の意見に雅人も同意する。


「何を言う! 武甕雷は歴とした日本の神様の名前だぞ。どこに厨二臭がするんだよ?」


 心外だと言わんばかりに眉間にシワをよせ、蒼汰は言い返す。


「いやいや、普通にするだろ。まあそれを言うなら羅刹もだけど……」

「そうそう武尊の言うとおりだな。ていうか、そもそも別に全部羅刹でよくね? その方が分かりやしーし」

「よくねーよ。名前大事よ。分かる? 重要だからもう一度言うけど名前大事よ」

「なんだその拘り」


 といった感じで、蒼汰、武尊、雅人の三人が新型ゴーレム――武甕雷の名前について言い合いを始めると、それを止めるようにおずおずと翔子が割って入って来る。


「よく分からないけど、私はカッコいいと思うよ」


 翔子の優しさからくる言葉であった。


「私には何を言い合っているのかよく分かりませんが、良い名前だと思います」


 マリンガムの意見は、厨二の意味を知らないが故のものだった。

 そんな二人の気持ちが分かる蒼汰は、なんとも言えない表情で、がっくりと肩を落とすしかなかった。とは言え、名前を変える気はさらさらないのだが。



 ◆◇◆



「行くぞ!」


 気合の込もった掛け声とともに武尊が走る。

 迎え討つは新型ゴーレム――武甕雷。

 武尊は武甕雷が横薙ぎに振られた剣を、屈み躱して懐に飛び込む。

 一閃――武尊の剣が武甕雷の胴を薙ぐ。

 だが、まるで剣と剣で打ち合ったような音が鳴り響き、武尊の剣がいとも簡単に弾かれた。


「――ッつー! こいつ、めっちゃ硬ッ!」


 手に伝わる痺れにも似た衝撃に、武尊は眉を顰めぼやいた。

 そこに振り下ろされる武甕雷の一刀。


「クッ!」


 武尊はそれを、わずかに呻き声をもらしながらもバックステップで躱して、そのまま武甕雷から一旦距離を取った。



 武尊は今、蒼汰の新型ゴーレム――武甕雷と一対一の模擬戦を行なっていた。

 目的は武甕雷の試運転を兼ねた実力確認である。


「あークソッ! なんだよそいつ、硬すぎだろ!」


 それも当然である。土で創られた羅刹ですら、蒼汰の魔力によってまるで石のように硬くなっていたのだ。石で創られた武甕雷ならば、鋼鉄に匹敵する硬度になるであろうことは想像に難くない。

 事実その耐久力は、先日選抜パーティーが討伐した【F4】ランクの魔物――猪鬼王(オークロード)をも上回っていた。

 だからと言って、武尊の倒せない相手ではないのだが……



 再び対峙して剣を構える武尊と武甕雷。

 わずかな静寂ののち、先に動いたのは武甕雷。

 一足飛びに間合いを詰めると、石材で創られた暗灰色の大剣を武尊目掛け振り下ろす。

 武尊はそれを躱すでもなく、まともに受けとめるでもなく、剣で滑らすように受け流す。

 武甕雷の大剣が地面を穿ち突き刺さるのを横目に、武尊は武甕雷の左手側に回り込み、反撃の一撃を打ち込んだ。

 甲高い金属音が観戦者の鼓膜を鋭く刺激する。それは武甕雷が武尊の剣を盾で受け止めた音。さらに続く剣戟は続く。

 幾度となく打ち込まれる武尊の剣撃を、武甕雷は巨大なタワーシールドを巧み扱い、一歩たりとも引かない。

 戦いは互角――誰もがそう思っていた時、バランスを崩したかのように武甕雷の体勢がわずかに傾く。

 一気に勝負を決める好機に見えた。だが――武尊は何故か咄嗟に身を引く。

 ――ッ!?

 疑問に思うその行動、しかし蒼汰の舌打ちと、タワーシールドの陰から横薙ぎに振り抜かれた武甕雷の一撃が、武尊の行動の正しさを証明した。

 振り抜かれた武甕雷の剣は、武尊の前髪をわずかに撫でた。だが成果はそれだけ。そしてその代償は、無防備に武尊の前に晒されることになった右半身。

 まさに決定的な隙。

 赤い剣閃が閃き暗灰色の腕が宙を舞う。

 武尊の魔力の込もった魔法剣が、大剣を持つ武甕雷の右腕を、付け根から斬り飛ばしたのだ。

 それでも痛みを感じない武甕雷は、追撃を仕掛けようとする武尊に、タワーシールドを振るい押し返しすと、そのままタワーシールドを前面に押し出し構え迎撃体勢をとった。


「ストップ、ストーップ! もう止め止め、終了ー!!」


 と、その時、向かい合う武尊と武甕雷の間に、慌てて蒼汰が割って入って来た。どうやら模擬戦はここまでらしい。


「つーか武尊、試運転なのに壊すなよ、たく……」


 文句を言いながら蒼汰は、不満げな表情で地面に転がる武甕雷の右腕を拾い上げた。


「まだこれぐらいなら、すぐ直せるからいいけどさ。少しは加減してくれよ。はあ……まあいいや、で、戦ってみてどうだったよ?」


 拾い上げた腕の切り口を確認した後、視線を武尊に移し模擬戦の感想を聞く。

 武尊はわずかに苦笑いをしつつも、少し考えてから模擬戦で得た武甕雷の感触を話し出した。


「パワーだけなら【F3】ランクの魔物の中でも上位に入ると思う。耐久力はさすがって感じで、たぶん猪鬼王(オークロード)よりも硬い。体も重く引くことがないから壁役にはぴったりな感じだな。ただその所為でか、動きが若干鈍い感じがする。まあそれでも羅刹よりはかはかなり速いから、特に問題ないとは思うけど」


 武尊の言葉を蒼汰は頻りに頷きながら聞いていた。試運転としては悪くない、といったところだろうか。

 その後ついでだからと、新たに無傷の武甕雷を呼び出し、見物をしていただけの雅人に無理矢理模擬戦をさせてみる。

 今回は武甕雷に、守りに徹した戦いをするように指示を出す。その結果、武甕雷は三十分にも渡り雅人の猛攻を防ぎきることに成功した。もちろん無傷というわけではなかったが、雅人の【ドレインマスター】が武甕雷には、まったく効果を見せないという新発見もでき、蒼汰としては充分に満足できる結果だったと言えるだろう。ただ攻勢に出ると、わずか十分足らずでやられそうになるなど、まだまだ課題は多いようではあるが……



 雅人との模擬戦後、さらに実験とばかりに翔子を中心に、武甕雷を魔法で攻撃してもらうことになった。

 翔子が使える魔法は、闇を除く、光・火・水・風・土の五つの魔法属性。これに闇属性を得意とする雅人に闇魔法を使ってもらうことで、武甕雷の各属性の魔法耐性を調べた。

 結果、どの魔法属性に対しても高い耐性を有しているのが分かった。特に闇、火、土属性に高い耐性を持っているのが分かった。逆に光、水属性の耐性は若干低め。それでも充分に高い耐性を持っているのだが。


 これらの結果から【F3】ランクの魔核でも武甕雷は充分に戦力にとなる事が分かり、蒼汰としては充分に満足のいく試運転となった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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