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第7話 ~学校に暗黒魔族がやってきた!~

 「学校休みたい」って言ったけど、許してもらえなかった。

 母さんには、昨日銀行強盗に巻き込まれたことは言った。でもオレが暗黒魔族を捕まえたことなんて言ってないし、そもそも魔法のことすら知らない。(まりさんは家の中で平気で魔法使ってるけど、母さんはそれが魔法だとは認識してないっぽい)

 だからただのズル休みに思えてしまうのは仕方ないんだけど――


 でも、本当に死にそうなぐらい体が重いんだよぉ……


「ほーら、カナタく~ん。学校行かないと、ダメだゾ~」


 めちゃくちゃ腹立つなー。

 いつも家でのんびりしてる上に、昨日オレを置き去りにして帰ったまりさんに言われるとさー。

 つーか、登校ギリギリまで二度寝するんだから、布団まくり上げてツンツンするなよ。


「じゃあこの疲れ何とかしてよ。まりさんならそのくらいできるでしょ」


「うーん。できないことはないけどぉ~」


「けど?」


「それやると、わたしがこの家から出ていく日が早まっちゃうのよね~」


 ん? それってどういうことなんだろう。

 いつも通り、凄まじく身勝手なことを言ってるのかと思ったけど、よく考えるとよくわからないことを言ってるみたいだ。

 この疲れを取ることと、まりさんの滞在期間に何の因果関係が?


「あ~! 『ん? それってどういうことなんだろう』……って思ってる~」


「もしかして魔法使った?」


「わざわざ使わなくてもわかるわよ~」


「ふーん、そうなんだ。あと、その声マネ似てないからやめてね」


 『わざわざ使わなくても』ってことは、そんな感じの魔法を使うことは出来るのか……。恐ろしすぎる。

 考えてること読まれないように気をつけよっと。


「それで、説明してくれるの?」


「どうしようかナー? ……うん、してあげなーい!」


「あっそ、じゃあいいや」


「ええ~! 仕方ないなー。今日だけサービスだゾ」


 ほんとめんどくさいなー。

 かまってほしいならそう言えばいいのに。


「その疲れはね~……魔力の枯渇が近づいてる兆候なのよ~」


「『枯渇』? じゃあ、無くなっちゃうってこと?」


「そう! 黒魔族なら放っておけば自然回復するけどぉ、カナタくんの魔力はわたしが渡したものが全てだから、そのうち魔法が使えなくなっちゃうわね~」


 なるほどなー。

 じゃあ、俺にとってはいいことしかないわけじゃん。

 魔力や魔法……というより、オレの変身の秘密を隠しながら生きる必要がなくなるんだから。


 それに――


「へえ。じゃあもうすぐ変身もできなくなって、まりさんもこの家にいる必要なくなるんだ」


「そーいうことー。さっさと使い切れば疲れもとれるだろうけど……カナタくんとお別れするの寂しいから、残りの魔力は大切にしてね~」


 そうか。まりさんとも、もうすぐお別れなんだ。

 とてもうっとうしくて、困った人だった。わがままだし、オレの晩飯のおかずは奪うし、何かあるとすぐ魔法でゴリ押しするし……

 でも、もう会うこともなくなるんだなと思うと、少し寂しい気もした。


 ……よく考えたら別にそうでもなかった。

 早く父さんと母さんの洗脳を解いて、今までの平和な生活を返して欲しい。

 それが、嘘偽りのないオレの本音だ。早く出てってほしい。


「良いこと聞いたなー。学校終わったらさっさと使い切ろっと」


「そんな~」


 幸い、今日は終業式――いや、三学期の終わりは修了式だったっけ?

 とにかく半日だから、帰ってきたら部屋の中で変身して、魔力が空になるまで魔法を使おう!

 それでまりさんとはさっさとおさらばして、悠々自適な春休みを迎えてみせるぞ!





 今日は体育館で座ってるだけで終わりだと思ってたから、疲れた体にムチ打って学校まで来たんだ。

 確かに、体育館で座っている。周りに大人たちも立っていて、壇上でスピーチしてる大人もいる。

 ただ、違うところがあるとすれば――


「フフフ……逃げようなどと思うなよ。逃げるそぶりを見せたら、即座に殺すからな」


 その大人たちというのが、全員暗黒魔族であるという点だ。

 本来そのポジションにあるべき先生たちは、オレたちと一緒に座らされてる側であった。

 当然、集会のような厳粛な空気じゃない。周りは明らかにパニックでざわついてて、コソコソ話とすすり泣きが何重にも響き、不安と緊張のオーケストラ状態だ。


「警察に通報しても無駄だ。外には大量の魔獣を放っている。近づけるわけがない」


 結構大声で泣いている子だっているにもかかわらず、意外にも暗黒魔族は寛容だった。

 一体何が目的なんだろうか? やっぱり、生贄か?


 オレは体育座りでじっと身を固め、思案していた。

 この絶望的な状況から脱出するための、手段を。

 だが、未だ答えは見つからない。変身すれば戦えるかもしれないが、学校のみんなを絶対に巻き込んでしまう。


 ――それに、この状況じゃ変身だってできない。

 隠れる場所が無いから、恥ずかしい姿をみんなに見られてしまう!


「お、お、お、おい、どうすんだよ、コレ……! あんな化け物、センセーやオレたちじゃどうにもできねーぞ」


 オレが思い悩んでいると、近くに座っているコウジが話しかけてきた。いつになく慌ててる。

 でも、コウジと話してても何も解決しない。

 それよりも、今は耐え忍んで機会を伺うしかないんだから、黙らせないと。


「そんなのオレに聞かれてもわかるわけないじゃん……! とりあえず大人しくしてろよ!」


「ででで、でもよ。どうにかしないと、オレたちヤバいぜ……!」


「わかってる……! でも、助けが来るまで待つしかできないだろ!」


 そう言って、オレは壇上に倒れている何人かの子供を見た。

 ソイツらは、愚かにもあの暗黒魔族に立ち向かって、ボコボコにされたバカどもだ。

 ドイツもコイツも、見るからにしつけのなってないワルガキといった感じの見た目をしていて、ただの身の程知らずであることは容易に想像できる。


 オレの視線に釣られて、呻き声を上げるバカどもを見たコウジは、一旦は口をつぐんだ。

 でも――


「助けって、こないだのかなたちゃん……だよね?」


「それだよ、ももこちゃん! かなたちゃんなら、コイツら倒せるかも!」


 マズい……

 オレの余計な一言のせいで、無駄な希望を抱かせてしまった。

 しかもコウジのヤツが空気読まずに大声なんか出しちゃったから、もう大変だよ。


「かなたちゃん……?」


「いったい何の話してんだコウジのヤツ……」


「聞いたことあるよ。昨日の銀行強盗をやっつけた女の子の名前が、かなたちゃんだって」


「あたしもあたしも。」


 マズい、マズい、マズいぞ、コレは……!

 実体のない『かなたちゃん』のうわさがどんどん広がって、どことなく希望の光が差し込んだようなムードになってる!

 そんなの、コイツら暗黒魔族が許すわけない! 絶対に無事じゃすまないぞ!


「あぁ? かなたちゃんだぁ?」


 ほらほらほら! 行ったそばから動き出した!

 何人かこっちに近づいてくる!


 考えろ、春川カナタ。

 正直コウジは自業自得だからどうなってもいいけど、オレとももこちゃんだけは目を付けられないようにしないと!


「おい。そのかなたちゃんってのは、なんだ?」


 そうだ、ただの妄想ってことにしよう!

 公園の時はコウジとももこちゃん以外には誰にも見られてないし、銀行強盗は昨日の話だ!

 多分、『かなたちゃん』のことは知らないはず! どうにかごまかすぞ!


「おいおい、コウジー! そんなアニメの話なんか、現実に持ち込むんじゃねーよー! あははははは!」


「あ? アニメってそんなわけ――」


「アニメだよな! アニメだよな! ほんとのことじゃないよなぁ!」


「え、ああ、うん……。わかったから、肘でガンガン突くのやめろよ」


 よーし、黙らせたぞ!

 これで勘弁してくれ! これ以上追及されたら、隠し通せる自信がない!

 すっごい怪訝そうに見られてる! 我ながらかなり怪しいなあ! あはは!


 なんて不安になってたら、予想外の反応があった。

 暗黒魔族のリーダーらしき男は、笑ったんだ。


「ははははは! そうかそうか、アニメの話か!」


「あはははは! そうなんですよー! えへへへ」


 なんだかわからないけど、とりあえずはぐらかすことができたみたいだ。

 よかったよかった。


「そんなわけあるか!」


「ぐえっ!」


 い、痛ってええええっ……! 思いっきり顔を蹴られた……!

 鼻がもげそうなぐらい痛い! きっと鼻血出てるぞ、コレ。

 まさか……嘘ついてるって、バレたのか!


「いったぁ……!」


「カナタくん、大丈夫!? なんでこんなことするの!」


 ももこちゃんが、オレのことを心配してくれてる……!

 でも、わりとそれどころじゃない!

 オレは、暗黒魔族を見上げる。するとヤツは、得意げに話し始めた。


「つまらぬ嘘をつくからだ」


「何で嘘だってわかるの! 本当かもしれないじゃん!」


「かなたとかいう黒魔族のことなら知っている。我らの飼っていた魔獣の一匹を屠り、我らが同胞をも軽く蹴散らしたとな」


 ま、間違ってる! 訂正したい!

 オレは黒魔族じゃないし、暗黒魔族を捕まえるのだって一苦労したんだぞ! ……って叫びたい。

 でも、痛くてそれどころじゃないし、そもそもそれを言うわけにはいかない。


 ……というか、公園の魔獣はコイツらのしもべだったのか。

 アイツ、あんな偉そうにしてたのに。


「そのかなたとかいう少女、それほどまでに強いのですか?」


「おそらくは、我に匹敵するほどにな」


「まさか……! 暗黒魔族六十天皇が一人、ツヨスー・ギル様に敵う者がいるなど……!」


 六十天皇って……

 四人ぐらいに絞ろうよ、そこは。

 側近らしき暗黒魔族さんも、なんかおかしいとは思わないのだろうか。


 でも、コイツ実力者なのか。

 下手に戦っても、オレじゃ勝てないんじゃ……

 やっぱり、何とかしてまりさんに助けてもらうしかないのか!


「我も、相手になるのは花江まりぐらいのものと思っていた。昨日まではな」


 え? コイツらまりさんのこと、知ってるのか?

 いや、オレのことも知ってるぐらいだから、そんなに不思議でもないか。

 いつだかは五十六人も殺してたみたいだし、この人たちからすれば天敵なんだろうな。


「花江まり……! 暗黒魔族の精鋭たる六十天皇を、一夜にして五十六人も屠った、化け物の中の化け物!」


「矮小な黒魔族にあるまじき、強大な魔力の持ち主……恐ろしい女よ」


「だがしかし……此度こたびの儀式さえ成し遂げれば、我らもヤツに匹敵するほどの魔力を得られるのですね!」


「そうだ。そして、儀式を確実に成功させるためには、黒魔族の介入はなんとしても防がねばならない」


 暗黒魔族たちのリーダー――ツヨスー・ギルと呼ばれている男は、コウジの頭を鷲掴みにして、掴み上げる。

 まるで、ゴムまりを持ち上げているかのように軽やかだ。コウジはクラスの中でも背が高くて、体つきもしっかりしてるのに……。

 あの人間離れした、丸太のように太い腕から繰り出される握力は、相当なものなのだろう。


「おい貴様、さっき何か話していたな? もしやこの学校に、かなたという名の少女がいるのか? 正直に答えろ」


「コウジ!」


「コウジくん!」


 コウジが、苦しそうに悲鳴を上げている。

 さっきは自業自得だって思ったけど、この光景を見てるとそんな考えは吹き飛んだ。

 悔しい。何もできないのが、ただただ悔しい……!


「し、知らねーよぉ! オレだって、かなたちゃんとは一回しか会ったことないんだ!」


「本当か?」


「本当だよ! この学校にいるのだって、見たことない!」


 必死に訴えたかいあってか、コウジは解放された。

 手を放されて、ドサりと床に落とされたコウジに、誰も駆け寄ることはしなかった。……オレも含めて。

 ツヨスー・ギルと、その側近らしき男が、睨みを聞かせていたからだ。下手に目を付けられようものなら、コウジと同じ目にあわされるかもしれないからだ。


 ツヨスー・ギルの凶悪な目つきが、オレを捉える。

 顔の痛みも治まらないまま、オレの息づかいは段々と荒くなっていた。

 口の中が、血の味と匂いでいっぱいだ。鼻もつまり気味で、より一層の焦りが募る。


「ならば貴様はどうだ? さっきは必死に隠そうとしていたな。何か知っているのではないか?」


「……知らない! オレだって、一回しか会ったことない!」


 ツヨスー・ギルが口を開くと、オレは必死に叫んだ。


 ……まあ、嘘なんだけど。

 だって、その『かなたちゃん』はオレなわけだし。

 一回会ったことがある設定なのは、公園でコウジたちにそう言ったから。よく覚えてたな、オレ。


 でも、ちょっと歯切れの悪い感じになってしまった。

 もしかするとコイツも、まりさんみたいに人の心を読むことができるんじゃないかって……

 一瞬、そんなことを考えてしまったからだ。


「なら何故誤魔化そうとした! 言え! 死にたくなくば、その腹の内をすべてさらけ出せい!」


「うわあっ!」


 いつの間にか現れた剣が、オレの首元に差し向けられる。

 あと一センチ……いや、一ミリも動かされてしまえば、喉元に突き刺さるほどに、剣先は迫っている。

 汗が頬を伝う。まだ、暑い季節じゃないのに。


「カ、カナタ……!」


「カナタくんっ!」


 遂に名前を呼ばれてしまった!

 心配してくれているのはわかる。ももこちゃんに心配されるのは、素直に嬉しい。

 でも、今はまずい!


「ほう……此奴こやつもカナタというのか」


「くっ……!」


「だが、女ではない……。別人か」


 あ、よかった。全然気づかれてないわ。

 よく考えたら、名前が同じだからって、同一人物だと思うのは無理があるよな……。オレがいなくなって、代わりに同じ名前の人間が出てきたならともかくさ。

 でも、全然問題は解決してない。依然として剣はオレの首を捉えているし、まりさんに連絡する手段だって思いつかないんだから。


 ……そうだ、名前が同じことを利用して、まずはこの場を乗り切ろう!


「そうなんですよー、あはははは! 名前が同じだから、勘違いされちゃ困るなーって! それで、嘘ついちゃったんです!」


 完璧だ! この媚びるような演技に、子どもらしい言い訳! これならきっと、疑われない! 

 ちょっと無理がある気もするけど……オレがまだまだ未熟な小学生であることを考えれば、少しぐらい飛躍した考え方してたって、そこまで不思議じゃない!


「ふむ……なるほど。悪目立ちしたくなかった、と。それなら仕方がないか」


 ツヨスー・ギルは、剣を引っ込めて、魔力に戻して消滅させた。

 どうやら、疑いは晴れたようだ。


「えへへへ……。わかってもらえたみたいでなによりですぅ……」


「だがしかし――」


 背を向けて、離れていく。


 ――かと思った、その瞬間。


「劣等種の分際で、このツヨスー・ギルをたばかろうとした罪はあがなってもらう!」


「……え?」


 急に翻って、こちらに一歩踏み出してきた!

 手には何か長いものが握られていたが、それが何なのか、瞬時に理解することは出来なかった。

 オレはまだ、状況を把握できていない。


「カナタくん、あぶない!」


 ――次の瞬間、誰かがオレの前に割って入った。

 影になっていて、顔は見えない。

 肉を引き裂く音が聞こえると、血しぶきが舞う。


「きゃああああああああああ!」


 そしてその『誰か』は、前のめりにオレにのしかかってきた。

 正体に気が付いたのは、倒れこむその身体を受け止めた、その時になってだった。


「も、ももこちゃん!」


 返事は無い。目を閉じたまま、開く様子もない。

 背中にはパックリと大きな裂け目ができていて、大量の血が噴き出していた。

 多分、見間違いじゃない。あたりからも、悲鳴や嘆き、驚愕の声が上がっている。


 でも何故だ。なんで、こんなケガを……?

 ツヨスー・ギルの方を見てみると、その理由が分かった。


「……ふん、庇ったか」


 ヤツの手には、血に塗れた剣があった。

 魔力で作った武器だから、一瞬で消すことも出すこともできたんだ。

 あれが……ももこちゃんを。


「まあいい。これで我ら暗黒魔族に逆らえばどうなるか、思い知っただろう」


 さっきは納得してる感じだったのに、オレを殺そうとしたのか?

 安心したんだぞ。根本的な解決にはなってないけど、とりあえずは助かったって……そう思ったんだぞ。

 あとは何とかまりさんに連絡が取れれば、それで終わるはずだったんだ。


「な、なんだよコレ……」


「小僧、貴様はまだ生かしておいてやる。その娘に感謝するのだな」


 なんでそんなに偉そうなんだよ。

 人権すら保障されていない、人間未満の畜生の分際で。

 人を生贄にして、わざわざ畜生に成り下がった、下等生物の分際で!


「なんなんだよ、コレ! 何やってるんだよ、お前! おまえ、オマエエエエエエエエエエェッ!」


 魔力が全身からあふれ出て、オレの身体を『変身』させる。

 髪が、服が、身体構造が――奇跡の力によって、生まれ変わる。傷も癒え、血も消えた。

 そしていつもよりも、体が熱い気がする。これは、枯渇寸前の魔力によって発せられるサインなのか、それともただの怒りなのだろうか。


 そんなのどうでもいい。とにかくコイツらだけは、許してはおけない。

 どうなるかなんて……もう知ったことか!

Q.なんで現実ではGW中なのに、舞台が春休み前なんですか?

A.本当は春休み前に投稿したかったからです……

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