表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/9

第5話 ~銀行強盗が現れた!~

 まりさんが家に居ついて、数日が経った。

 その間、特にトラブルとかハプニングとかはなく、単純に居候が一人増えたような感じだった。


 ……ただ、未だに同じ部屋で寝てるのは落ち着かない。

 だってあの人、オレのベッドにもぐりこんでくるし、抱きついてくるんだもん。

 いちいち、あったかいやら柔らかいやら……じゃなくて、暑いし寝苦しいんだよ。


 それでも、学校があるうちはまだよかった。

 流石にあの人も、学校にまでは乗り込んでこないから。

 幸いにも朝は弱いらしく、小学生の起床時間には起きてこない。つまり困るのは家に帰った後だけだから、そこまで頭が痛くなることはなかった。


 でも――


「あるぇ~? カナタくん、今日って平日だよね~?」


「……学校が創立記念日で休みなんだよ」


 休みの日は、どうしてもこの人と一緒なんだよな……

 どこかに出かけようかとも思ったけど、今日はコウジが用事らしく、そのほかの友達も都合が会わなかった。

 一人でどこかへ行くにも、一日も時間をつぶせるところなんてないし、オレには家でダラダラする以外の選択肢はなかったのである。


「なら一緒に銀行行かない~? ちょっと用事があるんだけどぉ、一人で行くのもヤダなーって思っていたところなの~」


「やめとく」


「ええ~? どーせ暇なんでしょ~?」


「行かない」


 この数日でよくわかったことがある。

 この人相手に、あいまいな言い方をしちゃいけない。

 自分に都合よく受け取ることが多いからだ。


 例えばここで「行きたいけど、宿題があるから……。ごめんね」などと言おうものならだ。

 この人は秒で宿題を勝手に終わらせて、「終わったから大丈夫よね~?」とか言い出すのだ。

 方便というものは、基本的に通用しない。


 ……まあ、ハッキリ言ったとしても、この人自分勝手だからそこまで意味はないんだけどね。


「もお~、仕方ないにゃ~」


 ほらこれだ。魔法の指パッチンだ。

 パチン! と音が響いたら、ソファーに寝ころんでいたオレの身体が、磁石が反発するように、ぐわっと座面から離れた。


「ふぁっ! 身体が浮かんだ!」


「ほら~。子どもは外に出ないとダ・メ・だ・ぞ~」


「うわー! はなせー!」


 浮上した身体が、縦に立てられる。

 手足をジタバタさせていると、客観的には空中を泳いでいるように見えるのかもしれない。

 オレ自身に手ごたえはないけど、前には進んでいた。まりさんが指を振っているのを見るに、きっと操作されているんだろうけど。


「おばさ~ん。カナタくん借りますね~」


「はーい。行ってらっしゃーい」


 いつ頃からか、母さんも魔法に対して反応を見せなくなった。

 きっと洗脳を強められたんだろう。

 なんだか悲しいなあ。





「銀行強盗だ! 手を上げろ!」


 椅子でオレたちの順番が回ってくるまで待っていたら、突然そんな声が聞こえた。

 入り口を見てみると、銃を持った目出し帽の男たちが数人、自動ドアを通って入店してる。

 ……展開早すぎでしょ。


「うわあああああっ! 強盗だ!」


「きゃあああああっ! 誰か助けて!」


 阿鼻叫喚である。無理もない。

 オレだって、本当はかなり怖い。

 隣にまりさんという最終兵器がいるから、何とか平静を保ててるけど。


 横をチラッと見てみると、まりさんは何故かニコニコしてた。

 なんでだよ。


「うるせー、黙れ! ぶち殺すぞ!」


 銀行強盗の一人が、小学生みたいな怒声を放ち、天井に向かって


 パパパパパパパパッ!


 と、サブマシンガンを乱射した。


「ね、ねえ、まりさん。これって、マズくない?」


 オレは助けを求めるつもりで、小声で尋ねる。

 ちょっと体が震えて、声のコントロールが上手くできなかったけど、ヤツらは気にしている様子はなかった。

 これでまりさんが動いてくれればいいんだけど……


「え? そうかナー? あの人たちの目的はお金だろうし、大人しくしてれば大丈夫だと思うけど~」


 ダメだこの人、自分のことしか考えてないわ。

 困っている人を助けるだとか、そういう発想が無いっぽいわ。警察のクセに。


「どうにかしてよ!」


「え~。銀行強盗なんてレアだからぁ、最後まで見てみた~い」


 こんな時にブリっ子してんな!

 さっさと解決しろ!


 なーんて思ってたら、いつの間にか強盗の一味が近づいてた。

 「流石に騒ぎすぎたか」と思ったけど、手錠をオレたちの腕にはめていくだけで、特に何も言われなかった。

 でも、どうするんだよコレ……


「大人しくしていろ! なーに、静かにしてりゃ命までは取らんさ。ふふふ……」


 周りを見てみると、オレたちの他にも、客や銀行員全員を拘束して回っているようだった。

 そんな中、強盗の一人がある銀行員に銃を突き付けて、命令している。


「おい、このカバンに入るだけ万札を詰め込め。妙な真似をしたら撃ち殺す」


「ひいぃぃぃ……!」


「早くしろ!」


「は、はいい! わかりました!」


 怯えながら、強盗と共に奥へと消えていく銀行員。

 そうだよなぁ。怖いよなぁ。オレだって、あんなふうに銃で脅されたら、従うことしかできないと思うよ。

 やっぱり異常なのは、このシチュエーションを堪能してる、隣の人だよなぁ。アンタのことだよ、まりさん。


「ねえ、まりさん。ホントにどうにかする気無いの?」


「うーん。確かにちょっと可愛そうかナーとは思うけど~……」


「うん」


「本官は休職中なので、本件には一切関与しないでありまーす」


 聞いてはみたけど、ちょっとでも期待したオレがバカだった……

 となると、外に助けを求めるしかないよなぁ。

 どうにかして、警察……もっとまともな警察の人に、通報できないだろうか。


「おいおいおい、やべーよ! 外にサツが集まってやがる!」


「なにぃ! 誰がチクりやがった!」


 お、ナイス!

 もしかして、まりさんが通報しておいてくれたのかな?

 なんだかんだで最低限のことはしてくれるんだなぁ。


「通報ボタンだ! 銀行員のヤローが押しやがったんだ!」


「チクショウ! ふざけやがって!」


 ……まあ、そりゃそうか。

 銀行にはそういう備えもされてるだろうし、そもそもまりさんが何かしてる素振りなんかなかったし。

 この際何でもいいや。早く助けて!


『えー、マイクテス、マイクテス。えーっと、なんだっけ……犯人に告ぐ! 無駄な抵抗はやめて出てきなさい!』


 この絶妙にやる気のない感じ……なんかどこかで聞いたことある声だぞ、コレ。

 ガラス張りの壁越しに外を見てみたら、そこには見たことのある人が拡声器を持っていた。


「霞沢君ね~、コレ」


 そうだ、霞沢巡査だ。彼のほかにも、何人もの警察官がいる。

 霞沢のにーちゃんには期待できないけど、きっと指揮を執っているのは、まともな警官だろう。

 これなら大丈夫かも! いや、大丈夫なはずだ!


「チッ! マズいぜ!」


「こうなったら、計画を少し早めるか」


 計画?

 まあ、計画ぐらいは立ててから来てるのか、流石に。

 一体、何をするつもりなんだろう……


「おい! 金の準備は出来たか!」


「まだパンパンじゃねえ!」


「もういい! 引き上げるぞ!」


 え! もう帰るの!?

 いや、オレとしてはそっちの方がありがたいんだけど……

 でも、こうも引き際がいいと、嫌な予感しかしない。


「おい女! 立て!」


「へ? 嫌ああああぁ!」


「そっちの女もだ!」


「やめてえええぇ!」


 なんてことだ!

 強盗たちが、客や銀行員たちを無理矢理立たせて、引きずってる!

 銃で脅されたり、服を引っ張られるだけならまだいい。でも、髪を掴んで引き上げるのは酷すぎる!


「テメーらは人質だ! 俺たちが安全に逃げられるまで、壁になってもらう!」


 肉壁を作ろうっていうのか! なんて卑怯な!

 でも、「安全に逃げられるまで」ってことは、ちゃんと解放されるんだよね……?

 金を盗られた銀行の人には気の毒だけど、それはそれでいいんじゃないかな? 命より大事なものはないし。


「マズいわね~」


「え?」


「多分だけど、連れ去った人質を生贄にするつもりよ~」


「まっさかー。暗黒魔族じゃあるまいし」


 『生贄』なんて言葉、マンガ以外だと魔法絡みの話でしか聞いたことないぞ。

 だから多分、冗談だろうなって思ってたんだけど……

 意外にもまりさんの声は、マジトーンだった。


「いやいや、暗黒魔族よアレ~」


「……え?」


「目の周り、メイクでいい感じに隠してるけど~」


「うん。……あ」


 まりさんに言われて、強盗たちの覆面で隠れていない、目元の部分をよーく見てみる。

 すると不思議。確かに違和感があった。

 肌には透明感というか、素肌っぽい瑞々しさが無くて、まるでペンキでも塗りたくったような、乾いている印象だ。


 更に観察していると、違和感は強まっていく。

 でもオレには、その違和感の正体はわからない。

 答えは、まりさんが教えてくれた。


「隙間をよく見ると、元の肌の色が見えちゃってるのよね~」


「マジじゃん……」


 ……肌、青いなあ。影だと思ってたけど、普通に変な色してるなあ。

 それを踏まえたうえで全身を見てみると、不自然なふくらみがいくつもある。羽とかを服の中に隠しているのだろうか。

 これはまりさんの言う通り、暗黒魔族で間違いないだろう。


 でもどうする?

 強盗たちが暗黒魔族だとしても、素直に警察を信じて、助けを待ってればいいんじゃないのか?

 いや、まりさんが「マズい」と言ってるぐらいだから、警察にはどうにもできないのかもしれない。


「よし、撤収だ! 人質を盾にして出るぞ!」


「おう!」


 あ、ヤバっ! 強盗たちが出ていくぞ!

 早く何とかしないと!


「まりさん! どうにかできないの!?」


「うーん、出来ないことはないけど~」


「けど!?」


「めんどくさ~い!」


 ……やりたくないっていうのは、わかる。

 オレだって、魔獣の相手をするのはすっごく嫌だった。怖いし、ケガするかもしれないし、女の子になるし……

 でも、仕方がないからやったんだよ。それをこの人は、面倒くさいだのなんだのと。


 流石に少し、腹が立ってきたぞ。


「なんなんだよ、アンタ! 人の命かかってるんだぞ!」


「ごめんねぇ、無駄な労働はしない主義なの~。それに――」


 人差し指を、おでこにグリっと突きつけられた。

 屈まれて目線を合わせられて、威圧するような感じで、まりさんは迫ってくる。


「カナタくんにだって、出来るでしょ? 人にばっかり「やれ」っていうのは、違うと思うナー」


 確かに、この人の言う通りだ。

 借り物とはいえ、俺にだって魔法の力はある。

 めちゃくちゃ怖いし、ケガじゃすまないかもしれない。でも、そんなのは、自分だけ拒否する理由にならない。


 それでもオレには、出来ない理由がある。


「ぐっ……! でもでも、オレはここじゃ――!」


 「変身できない」――

 そう言おうとして、止められた。

 人差し指が、唇を押さえたんだ。


 オレが押し黙ると、まりさんも指を唇から離して、諭すように語り掛けてくる。


「カナタくん。もうすぐしたら、警察の人に事情を聞かれると思うの」


「それがなんなんだよ!」


「その前に、おトイレ行って来たら? 今なら誰もいかないから、早めに行った方がいいと思うな~」


「――!? そうか!」


 オレが嫌だったのは、変身を人前で見られること。

 春川カナタが、魔女っ娘かなたちゃんと同一人物であることを、知られたくないからだ。

 でも、その問題が解決されるなら、オレにだって人質を助けることは出来るかもしれない!


 銃を持った相手と戦うなんて、考えるだけで怖い。

 それに、暗黒魔族は元人間。見た目も人間みたいだし、魔獣とは違ってやりづらいかもしれない。

 それでも、オレに戦う力があるのなら――行かない選択肢はない!


 オレが立ち上がると、まりさんは言葉を続けた。


「あの人たち、車を用意してるみたいね。もし車が動かなくなっちゃったら、どういう反応するのかしら」


「……わかった!」


 すごいそれっぽいアドバイスだ。なんだかんだで、ちゃんと考えてるんだなあ。

 あとは自分で実行に移してくれれば、完璧なんだけど。

 そんなことを考えながら、オレはトイレに駆け込んだ。


 ……傍目には、漏らす寸前みたいに見えちゃうかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ