第4話 ~家族が増えるの!?~
うっかり本名を名乗っちゃったぞ。
それだけでオレと、この可愛いドレスの女の子が同一人物だなんて、思わないだろうけど……
でも無理矢理結び付けられて、明日学校でからかわれたりしたらヤダなぁ。
……まあ、やっちまったものは仕方ないから、とりあえず勢いでごまかすか!
「みんなの公園を脅かす悪しき魔獣よ! 早々にここから立ち去りなさい!」
よし決まった! ポーズもちょっと可愛めにしたぞ!
頼む! 公園前に居座ってるはた迷惑な魔獣くんよ、これでビビって帰ってくれ!
で、ないと……すごく困る!
「そうはいかぬ。この魔獣イヌー……魔の者として生まれ、獣として育てられた宿命がある。故に、獲物を前にして背を向ける……そのような愚は犯せぬ」
なんかカッコいい感じに言ってるけど、やってることは小学生ビビらせてるだけだろ! 惜しむなそんなの!
つーか名前テキトー過ぎない!?
「そ、そうなんだ……。なら仕方ない。このオ……ワタシの、聖なる魔力によって、チリ一つ残さずこの世から消し去ってやる! ……消し去ってあげるわ!」
「ずいぶん吠えたな、小娘。虚勢の代償は――高くつくぞっ!」
え、ちょっ……待って。
「グオオオオッ!」
「うわあああああぁ!」
いきなり助走をつけて飛びかかって来た!
オレがとっさに回避すると、後ろにいたコウジたちも、飛び退いたようだった。
あっぶねー!
うまく避けてくれなかったら、巻き込まれたコウジたちは大ケガしていたかもしれない!
とりあえずコウジたちからは離れよう!
「な、なんだぁ、アイツ。逃げてやがる!」
「すごい威勢良かったけど……もしかして本当は戦えないの!?」
「そんなわけねーだろ! あんだけデカい口叩いてたんだぜ! 多分必殺技とかあるぜ、ありゃ!」
ねーよ! 戦えねーんだよ!
まりさんから教わったから変身だけはできるけど、他の魔法の使い方なんか知らない!
あんな化け物に勝ち目なんか無いから、必死にあんなハッタリかましてたのに!
「グフフフフ……貴様を血祭りにあげて、あのガキどもを絶望のドン底に突き落としてやるわ!」
ま、マズい……
このままだと本当にやられる!
なんかこころなしかゲスっぽくなってるし!
何か手は無いのか……?
まりさんはどうしてた? そういえば銃で撃ち殺してたっけ……
都合良くその辺に銃が落ちてればいいんだけど、この日本じゃそんなの期待できない!
「我を前にして武器すら作らぬとは、身の程知らずなヤツめ!」
……ん、『作る』? もしかして、魔法で武器が作れるのか?
そう考えた瞬間――オレの頭の奥、手のひらの中に、不思議な感触を
感じた。
それはまるで、日常的な作業の感覚を思い出すかのような、そんな感じだった。
「俺様の牙で丸かじりにしてくれるわ!」
「うわっ!」
また襲ってきた!
とりあえず避けたけど、いつまでもこんなことをしているわけにはいかない!
「くそっ! 早く出ろよ、オレの武器ぃー!」
オレは感覚に従って、手のひらに『ナニか』を集中させる。
この『ナニか』がきっと、魔力なのだろう。やがて魔力は輝き、ソフトボールぐらいのサイズの球へと膨れ上がった。
銃のイメージを固めるとリボルバーの形になり、光が消え、大理石でできているかのような白い銃が手の中に納まる。
「うわあああぁぁぁっ!」
オレはとにかく、引き金を引きまくった。
まるでエアガン……いや、水鉄砲を撃っているようだ。反動もなければ重みすらない。
銃口からは目でとらえられない鉛玉ではなく、目に見えるレーザーが――
ピッ、ピッ、ピッ!
と、勢いよく飛んで行った。
全弾命中! と、喜んだのも束の間……
「カスめ! 効かぬわ、そんなもの!」
「嘘だろ、効いてねぇ!」
「これって、あの子ヤバいんじゃない!?」
ダメだった。
ちょっと毛を毟った感じはあるけど、ダメージは与えてない……
思い返してみれば、まりさんが銃殺してたのは、暗黒魔族という人間っぽいヤツだったっけ。
まりさんは暗黒魔族のことをクマに例えていたけど、目の前にいるコイツこそ本当の猛獣じゃないか。
猛獣を狩るなら……拳銃じゃダメなのか?
「ならこれならどうだ!」
オレはリボルバーを光の塊に戻すと、さらに魔力を手のひらに集めた。
光り輝く魔力は球体から細長いフランスパンのような形になり、だんだんと大きくなっていく。
「すげぇ! どんどん伸びてるぜ!」
「フン! 今更、剣でも作り出そうというのか、愚か者め!」
「あ、危なーいっ!」
魔力の形成が終わらないうちから、魔獣イヌーが飛びかかってきた。
まあ、そりゃあそうだ。ヒーローの変身中は最大の隙だなんて冗談話があるけど、隙があるならさっさと攻撃するべきだろって、オレだってそう思う。
当然予測もしていたので、避けるのも難しくなかった。大きく後ろに跳んで、距離を取る。
「そんな逃げ腰では、この我に一撃与えることすらもできぬぞ!」
「いや、逃げなきゃダメなんだよ!」
武器は完成した。
オレはその武器の『銃口』を、奴に向ける。
「な、そ、それは……!?」
拳銃がだめなら……人間ではなく、猛獣を相手にするなら、猟銃だ。
それも、散弾銃じゃなくてライフル銃。クマを狩るならライフルだって、地元の猟友会のおじさんが言ってた気がするからそうした。
腕の中に納まるのは、芸術品のような、白を基調とした煌びやかな装飾の銃。オレはその引き金を引き、その名を叫ぶ。
「くらえ! 魔法の猟銃、『マジカル・バレット』!」
バシュッ!
と、一閃の光芒が放たれた。
流れ星のような煌めく一閃がイヌーを貫き、悲鳴を残す暇すら与えず消滅させる。
その威力に、オレは驚いた。恐れを抱いたと言ってもいい。そう思ったのは俺だけじゃないだろう。
「け、消し飛ばしちまった……!」
「これが魔法なの……?」
コウジも、ももこちゃんも、驚愕してる。
無理もない。オレだって、ちょっと震えてるんだから。
でもコウジたちは、ちょっと喜んでいるようにも見える。この怖さを理解できるのは、使った人間だけなのかもしれない。
「魔法って本当にあったのかよ……! カナタにも謝っておかねーとな」
「そうだね。かなたちゃんのこと、カナタくんにも教えてあげないと」
「だな。そういやカナタのヤツどこだ?」
「そういえばどこにもいないね」
あ……ヤバ。
このままだと怪しまれる。いや、もう今の時点で怪しさしかないけど……
というか二人とも、言ってて何とも思わないのかな。とりあえず誤魔化しておくけど。
「かなたちゃん……じゃなくて、カナタくんなら、先に逃がしておいたよ」
「えーっ!? アイツ、オレたち置いて自分だけ帰ったのかよ!」
「ひっどーい! あたしたち、こんな怖い思いしたのにー!」
良かったー! この感じ見るに、全然気が付いてない!
二人ともバカで助かったー!
……でも明日学校で何か言われそうだなぁ。とほほ。
「もっとしっかり礼をしたいとこなんだが、オレ帰らねーとやべーから帰るわ!」
「あ! あたしも帰らないとー!」
「今日は助かったぜ、かなたちゃん! 来てくれなきゃマジでヤバかった!」
コウジは一目散に走り去った。
もうだいぶ暗くなっている。怒られるのは免れないだろう。
お礼にカードの一枚や二枚くれてもいいんじゃないかと思ったけど、何だかセコいから言うのはやめた。
「助けてくれてありがとー! カナタくんも無事でよかったよー!」
「えっ!?」
うそぉ、バレてたの!? ビビッて凄い声出ちゃった。
まさかコウジに話を合わせてたのかな?
なんていい子なんだ、ももこちゃん……!
「え? カナタくん、逃がしておいてくれたんでしょ?」
「ああ、うん」
違った。
この場にいない(と思われてる)カナタの安全を喜んでくれてるだけか……
それはそれで嬉しいけど。
「じゃーねー。また会ったらよろしくー」
ももこちゃんも、駆け足で公園を出ていった。
コウジとは違って、ジョギングのような余裕のある走り方だった。
これでこの公園に残されたのは、オレだけ。
ちょうど今、変身が解除されて、髪も服装も体形も元に戻った。
さっさと帰ってくれなかったら危なかったなー。カードなんかねだらなくてよかった。
……オレも帰るか。
怒られなきゃいいけど。
◇
ちょっと遅くなったけど、家に帰ってきた。
玄関をくぐると、夕食の匂いがする。
今日はきっと、オレの好きなから揚げだ。
体を張って友人を助けたオレの姿に感動して、神様がご褒美でもくれたのだろうか。
そうでなくても不運続きなんだから、そろそろいいことの一つや二つはあって当然だと思うな。
なーんて、そう思っていたのに……
「ただいまー」
「あら~。カナタくんおそかったわね~」
何故かこの家のリビングに、『あの人』がいた。
思わず頭から床にダイブしてしまった。
「なななななななな、なんでいるんだよぉ!」
「え~、そんなにおかしいかナー?」
そう、花江まりだ。
昨日病院で会った、あの魔女だ。
「どう考えてもおかしいだろ! どういうことなの、母さん!」
いてもたってもいられなくなって、ついオレは怒鳴ってしまった。
だっておかしいじゃん。他人が我が物顔で、我が家のソファーに寝そべってるんだぞ。
なんとも思わないのだろうか? いや、内心かなり腹が立っているに違いない。
ほら、キッチンからやってきたぞ。
流石にまりさんでも、こんな舐めくさったことをしてたら怒られるだろう。
……しかし、母さんの答えは予想外のものだった。
「あら? カナタ、帰って来てたのね」
「そうだよ! 今帰って来たんだよ!」
「あんた、まりちゃんと会うの久しぶりでしょ。ちゃんと挨拶しときなさいね、今日から一緒に暮らすんだから」
それだけ言い残して、再び母さんは台所へと戻っていく。
オレには何が何だか、理解できなかった。
「え? どゆこと……?」
『久しぶり』とはどういうことだろうか?
オレがまりさんと初めて会ったのは数日前だ。それ以前に面識なんて無いはずなんだ。
まさか、オレが覚えていないだけなのか?実は前に会ったことがあるとか……
ジロジロと見てみるけど、やっぱり覚えなんかない。
糸目のお姉さんなんて、知り合いにはいなかったはずだ。もう少し近づいて眺めてみる。
そんなことをしていたら、まりさんが少し照れながら話しかけてきた。
「え、えーっとね~……」
「うん」
「久しぶり~。従姉の花江まりだよ~」
「……ん?」
従姉ってことは、オレの母さんか父さんの兄弟の娘さんってことだよね。
でも叔父や叔母がいるなんて話、聞いたことないぞ。両親はどっちも一人っ子だったはずだ。
だから多分、コレはまりさんがオレをからかっているだけなんだろう。
「いやいやいや、そんなの聞いたことないんだけど」
「まあ、流石にカナタくん相手じゃ、無理あるよね~」
「なんだよそれ。まるで他の誰かになら通じるみたいな言い方じゃん」
「そうなのよ~。今キミのお母さまには、この設定で刷り込みしてるの~。だから合わせておいてね~」
……この人いま、凄いこと言わなかったか?
『設定』だとか『刷り込み』だとか……
つまりそれって――
「なんでしれっと人の母親を洗脳してんだよおぉ!」
「人聞き悪いわね~。ちょっと認識をいじってるだけよ~」
「それを世間では洗脳っていうんだよ!」
やーっぱりやらかしてたぞ、この人!
しかも全く悪びれてないのがかなりタチ悪い! この人本当に警察なのか!?
せめてここにいる理由ぐらいは、警察絡みのまともなものであってほしい……
「それで、オレの家に何の用!」
「あっ、やっぱそれ聞いちゃう~?」
「あったりまえじゃん! 返答次第じゃ許さないからな!」
人様の家庭に土足で上がり込みやがって! いや、スリッパだけどさ……
とにかく、場合によっては警察呼んででも追い出す! いや、この人も警察なんだけどね……
「実はわたし~……ケガの療養ってことで、しばらく休職することになったのよ~」
「ふーん、そうなんだ。で?」
「それで~、病院のベッドで寝てるのも暇だから~」
「うん」
「しばらくカナタくんのお家でお世話になろうかナーって」
「は?」
……はぁ。
この人、こういう人なんだな。
なんかもう、怒り通り越して呆れちゃったわ。
そんなキラキラした眼差しで見られても、意味はないぞ。
かなりトチ狂った思考してるって、冷静に考えなくてもわかるんだからな。
ちょっと前に知り合ったばかりの小学生の家に泊まろうとしてるとか、ヤバすぎでしょ。
「カナタくんのお家で、お世話になりたいナーって」
「いや、2回言わなくても聞こえてるよ」
「それじゃあ、許してくれる~?」
「病院のベッドで寝てなよ。あと母さんの洗脳も解いてね」
「そんな~」
ウソ泣きしたって絶対に許可しないからな。
さっさと出てけ。
「それにぃ~……これってカナタくんのためでもあるのよ~?」
「オレのため?」
聞いてる限り、そんな雰囲気はなかったけどなぁ。
前みたいに、この人の興味100%な話だと思ったんだけど……
まあ、一応聞いておくか。魔獣の件もあったし、少しでも魔法がらみの情報は持っておくべきかもしれない。
「そう。今カナタくんは、魔力という危険物を持っているの。銃や刀なんかよりも危険な、奇跡の力を」
「それは……まあ、わかるけど」
あの魔獣イヌーを吹きとばた、魔法のライフル。
あれが化け物にだけ効くものなら、危険はない。
でも、人間を打てるとしたら?
間違いなくケガでは済まないし、凶器は消せるから、完全犯罪だって可能なのかもしれない。
確かにまりさんの言うことには一理あって、オレは彼女の言うことを理解することができた。
「じゃあなんで、そんなものオレに渡したの?」
「……それは置いておいて」
あ、逃げた。
きっと痛いところだったんだろうな。
「カナタくん。君は今、警察の管轄外の魔法使いということで、ちょっとした危険人物です」
「うん」
「きっとこのままだと、知らないおじさんたちに四六時中ストーカーされることになります」
「な、なるほど……」
その可能性は考えてなかったな。
確かに、魔法なんて危険なもの、普通の警察が放置するわけがない。
普通じゃない警察は魔力とか渡してるけど。
「しかしわたしが監視するなら話は別。二十四時間見張り続けなくても文句は言われないし、万が一カナタくんが何かしらの問題を起こそうが、わたしが責任を取るだけでOKです」
おお! なんか、大人っぽいこと言ってる!
すごい無責任な人だと思ってたけど、ちょっと見直した!
「ついでにわたしが暇しなくて済みます」
ああ、そういえば本音の部分はそれなんだっけ。
ちょっと幻滅したわ……
「そういうわけだから、これからよろしくね~」
「え? オレまだ何も言ってないんだけど」
「いや~、よく考えたらなんだけど……」
なんだろう、嫌な予感がする。
直後、階段を下る音が響く。予感がきっと正しいものなんだろうってのは、音を聞いたら直感的にわかった。
だって、まりさんが途中で口をつぐんだから。
「ごめんなー、まりちゃん。空いてる部屋無いから、悪いけどしばらくカナタの部屋で二人で寝てくれな」
二階から降りてきた父さんが、リビングに顔を出す。
……なるほど、こっちも掌握済みか。
「いえいえー、全然かまわないですよ~。わたし、カナタくんのこと好きですから~」
「ははは、そう言ってくれると嬉しいな。なるべく早く部屋作るから、待っててくれな」
また二階へと上がった音がすると、オレは押し黙ってしまった。
まりさんはこっちを見てくるけど、さっきの言葉の続きを聞く必要はもうない。
彼女もわざわざ言うべきか、悩んでいたのだろう。わずかばかりの沈黙が続いて、テレビの音だけが耳に入る。
だが結局、まりさんは口を開いた。
「……ご両親の許可は得てるから、別にカナタくんの許可はいらないかナーって」
この女――花江まりはこともあろうに、邪悪な笑みを浮かべてオレを見下してきたのだ。
こ、コイツゥゥゥ!




