第3話 ~公園が魔獣に支配された!~
「あはははは! カナタくんか・わ・い・い~!」
な、なんなんだよ、これ……
なんで変身したら女の子になってるんだよ……
おかしいだろ。女の子になる必要、どこにも無いだろ。
つーかなんで服までご丁寧に女物になるんだよ。しかもなんかフリフリしてて、可愛らしい感じだし。
「あ、変身解けたら元に戻るから安心してね~。……多分」
「それならよかった……って、そうじゃないじゃん!」
「え? 他に何か言うことあったかナ~?」
明後日の方向を見て、口笛を吹きだすまりさん。
この反応、絶対わかっててとぼけてるな……
あと今、ボソッと「多分」って言ったの、聞き逃さなかったぞ。
「なんで女の子になってんの! つーかその前に、何が目的でこんなことさせてんだよぉ!」
「えーっとね……女の子になってるのは~、きっとわたしの魔力を使ってるからね~」
え? どういうこと?
オレのものになったんじゃないの?
「わたしの身体で作られた魔力はぁ、わたしの身体で最も効率よく動くようにできてるから~、つまりその……」
「つまり?」
「魔力が勝手にカナタくんの身体を、わたしと同じような構造に作り替えちゃった結果だと思うわ~」
「……わかった。納得はしてないけど、なんとなく理解はした」
本当は理解もしたくないけどな!
あーあ。男のまま格好よく変身できれば、みんなに自慢出来たのに……
「で、目的の方なんだけど~」
「うん」
「面白そうだったから!」
「は?」
この人、今なんて言った?
オレの耳が間違いじゃなければ、「面白そう」とかほざいたように聞こえたんだけど。
多分聞き間違いだよね……?
「カナタくん可愛いからぁ、変身させたらもっと可愛くなるんじゃないかナーって」
「は? ……は?」
「服が可愛くなるぐらいだと思ってたから、女の子になっちゃったのは予想外だけど~」
「ふ、ふ、ふ……ふじゃけるなー!」
散々期待させておいてこれか!
つーか、わざわざからかうために呼んだのかよ!
あの霞沢とか言う警察のにーちゃんまで使って!
噛んじゃったけど、そんなのどうでもよくなるぐらい、オレの怒りは高まっていた。
「おこらないおこらない。えがおえがお。にこー」
そう言って笑顔を見せつけてくる、まりさん。
めちゃくちゃ腹立つ……
「どうしたら戻るんだよ、コレ!」
「さあ? 落ち着いたらそのうち戻るんじゃないかしら~」
「なんで知らないんだよぉ!」
「わたし変身なんて普段しないから~。なんか子供っぽいし~?」
とりあえずオレがここに呼ばれたのは、こうやってはずかしめられて、笑われるためだということはわかった!
どうやら、別に魔法の才能だとか、戦いの宿命だとか、そういう話ではないのだということも……
一体何だったんだよ、じゃあ。なんか無駄に張り切っちゃって馬鹿みたいじゃん。
「もう帰る!」
「あ、じゃあタクシー呼んでおくわね~」
それは助かる! 今日されたことは忘れないけど!
と、まあ、魔法絡みのお話はここで終わった。
特に口止めとかされなかったけど、別に言いふらしても信じてもらえないと考えてのことだろう。実際信じてもらえなかったし。
とにかく、これでもう花江まりに会うことも、振り回されることもないだろうし、あとは魔法のことなんか忘れて、いつもの日常に戻るだけ。
……と思ったんだけど、そんなことはなかったんだ。
むしろここからが本番。さらなる災難の始まり。
これだけで済んでくれればよかったんだけどなぁ……
ちなみに変身は十分くらいで勝手に解けた。
タクシー来る前で良かった。
◇
――翌日
「『イグナイト』のカードで、『バニッシュウルフ』を撃破! すかさず『狂乱剣闘士』でカナタに攻撃!」
「ぎゃー! また負けたー!」
コウジのヤツ、容赦なさすぎるよ……
アイツはいっぱいカード持ってるけど、オレはあんまり買ってもらえないんだぞ。
コレが生まれの差というやつか。ぐぐぐ、悔しい。
「またコウジくんの勝ちなのー? カナタくんよわーい!」
いつもの公園の、ベンチの上でカードゲーム。
いつもと違うのは、たまたま通りがかったももこちゃんに見られてること。
くーっ! 情け無いとこ見られて、悔しいばかりだよ。
「はっはっはっ! この天才コウジさまにかかれば、カナタなんぞ一捻りよ!」
「でもコウジくん、テストの点はカナタくんより低いよね? あとカナタくんの方が足も速いし、家庭科もできるよー?」
「ぐぐぐ……」
家庭科が得意なのは、ちょっと男らしくなくてヤダなぁ……
でも意外と見てくれてるんだなぁ。学校じゃそんなに話すわけでもないのに。
これは……脈ありか?
「付き合うならカナタくんかなー。コウジくんも面白いけど」
「えっ!?」
や、やっぱり!
まさか、クラスで一番かわいい(オレ調べ)ももこちゃんが、オレのこと好きだなんて……
これは男として、応えなきゃ!
「どっちかと言えばの話だけどねー」
な、なんだ……コウジと比べての話か……
「オレも好きだ!」なんて言わなくてよかった。
危うく恥をかくところだったよ。
「そんなことより、そろそろ帰らないのー? もう五時だよ?」
「マジか!? やべぇ、遅くなったらかーちゃんに怒られる!」
空はもう暗くなり始めてる。
春になって暖かくなり始めたとはいえ、まだ日が落ちるのは早い。
塾とか行ってるエリートならそんなに遅くも感じないかもしれないが、オレたち一般庶民からすれば、日没は一日の終わりにも等しかった。
コウジが焦りながらカードをかき集めて、リュックに入れていたその時……
ももこちゃんは、何故か公園の入り口を指差して、固まっていた。
「ね、ねえ、あれって……」
怯えのあるその声音を聞いて、オレはタダゴトじゃないことを悟る。
指し示すその先に、オレは恐る恐る視線を動かした。
「な、なんだよ……アレ!」
そこには、大きな影が鎮座していた。
影……というと、違うかもしれない。実際には、夕日を背にしていたから、陰になってよく見えなかっただけだ。
しかし、それにしても異様な姿形をしていて、俺たちの恐怖を煽るには十分な貫録を持っていた。
「わかんないよ! いつのまにかいたの!」
「なんだ? 何かいんのか……ああっ!?」
コウジもようやく気付いた。
公園の唯一の出入り口に陣取っている者の正体――
それは、オレたちぐらいの子供なら容易く丸呑みにできそうな、バカでかいイヌ科の猛獣だった。
「グルルルル……!」
猛獣は唸る。
まるでオレたちを、縄張りを荒らす敵であると認めたかのように。
あるいは、狩るべき絶好の獲物だと見定めたかのように。
「わ、ワンちゃん……? いや、オオカミかなぁ?」
「どっちにしたってデカすぎんだろ!」
コウジの言う通り、大きすぎる。
ももこちゃんは犬か狼だと思ったようだが、多分どっちでもない。
オレにはわかる。これは、普通の生き物じゃない。
「もしかして……『暗黒魔族』!」
「あ、いえ。自分、通りすがりの『魔獣』です」
……喋れんのかよ!
つーか、『魔獣』ってなんだよ! しれっと新概念出すな!
とりあえず、魔法的な生き物なんだろうけど。
「な、なんなんだ、オマエ! 何が目的なんだ!」
「ふふ……人の子よ、知りたいか? ならば教えてやろう! 我が崇高なる『魔力徴収計画』の全貌を!」
「魔力徴収計画!?」
とりあえず目的聞いてみたり驚いて見せたりしたけど――
なんかコイツ、急に偉そうになったな……
「魔力とは、絶望に抗うための奇跡の力。全ての人間は、生まれながらにして魔力を持っている」
「へぇー」
「困難な状況に直面したとき、抗う手立てがないとき――その壁を打ち破るために生み出す、生き足掻こうとする本能のパワーこそが魔力なのだ」
「たまげたなぁ」
なんかご丁寧に解説まで始めてくれたぞ。
コウジとももこちゃんは呑気に聞き入ってるみたいだから、今のうちにオレがなんとかしなきゃな……
そう思って辺りを見渡してみる。
「特に子供は素晴らしい。少し脅してやれば、僅かながらも良質な魔力を生み出すのだからな」
「そ、それじゃあまさか……」
「オ、オレたちをどうするつもりなんだー!」
この公園は周りを建物に囲まれてるから、逃げ道はない。
隠れるところはあるけど……今から身を隠しても意味は無い。
……ダメだ! どうにもできない!
このままアイツに食われるしかないのか!?
それは嫌だ! まだ十年ちょっとしか生きてないのに!
「だからこうして、帰宅前の子供を公園に閉じ込めてやるのだ。すると、家に帰れない絶望感と、親に叱られるという恐怖に、心が支配される」
……ん?
「その時、微量ながらも最高の魔力が空気中に滲み出て、この俺様の腹を満たすのだー! どうだ人間よ! もっと怖がれ、怯えろ!」
…………ああ、そういう感じね。
捕まえて食うとか、そういう話じゃないのね。
「ひいいぃー! やべーよぉ! このままじゃ晩飯抜きだぜぇ!」
「あたしもだよー! 密かに楽しみにしてるアニメ見れなくなっちゃうー!」
命の危険は無さそうだけど、だからってこのままだとマズいな……
そう思っていたその時――
公園の外に、自転車が走っているのを見た。
大人で、しかも警察だ。更に言うなら、見知った顔でもあった。
オレが手を振ると、その人物はペダルを漕ぐのをやめて、停まってくれた。
「おーい! 霞沢さーん!」
「お、カナタくんじゃーん! もう遅いから気を付けて帰れよー! じゃあな!」
……そう言って、霞沢巡査は早々に立ち去ってしまった。
嘘だろおい。気を付けるも何も、既にかなり危険な状況なんですが……
オマエそれでも大人か。
「うわあああぁあ! 見捨てられたー!」
「どうしよどうしよー!」
「ふははははは! 頼るべき大人から見放され、さらに濃い絶望と魔力が生まれおったわ!」
まずいまずいまずいぞ。
花江まりさんを呼んでもらえば、何とかなるかもと思ったのに……
このままだと、かなり長い間この公園に閉じ込められる!
やるしかないのか? 『アレ』を!
もしかすると、やらずに助けを待ち続ける方が賢明な判断なのかもしれない。
でもこのままだと……オレも親に叱られる!
「コウジ、しばらくアイツの目をひきつけておいてくれ」
「あ? 何する気だよ」
「オレは……出られる場所がないか、探してみるよ。その間、ももこちゃんを頼む」
「お、おう!」
ひっそりと耳打ちをしたオレは、こっそりとその場を離れて、公衆トイレの裏へと隠れた。
ここなら多分、人目には付かない。
「すぅー……『変身』」
大きく息を吸って胸のドキドキを抑えてから、小声で呟いた。
アイツに勝つための、『魔法』の言葉を。
まばゆい光と共に、オレの身体が生まれ変わる。
これから女の子になるのだと思うと、身体構造の変化が著しいこともよくわかる。
背丈は変わらないけど、腰回りの形、肩幅、肉付き……あとついでに胸も少し膨らんで、実に様々な部分が変わっていくことが、感覚的に理解できた。
身体が変わると、次は服だ。
今まで着ていたトレーナーやらズボンやらはどこかへと消えて、胴体や手足にまとわりつくように、フリフリのドレスが形成される。
肌触りは良いし、意外にも動く時に邪魔にならないけど……でも、男としてはいつまでも着続けたいものではなかった。
「グルルルル……! あの光、黒魔族が現れたか!」
あの犬っころは、コッチに気がついたらしい。
俺はトイレの裏から飛び出ると、大きくジャンプをして、コウジたちの前に降り立った。
やっぱり、すごい力だ……。こんな距離をジャンプするなんて、変身前はおろか、走り幅跳びの世界記録保持者でも無理なんじゃないか?
「な、なんだオマエ!」
「女の子!? でも、この辺りじゃ見たことないよ!」
み、見られてる……
バレないよな? オレが春川カナタだって。
「貴様、何者だ! 名を名乗れ!」
「オr……ワタシの名前は、『魔女っ娘かなたちゃん』!」
あ、ヤバ。うっかり本名出しちゃった。
Q.カナタたちのやってるカードゲームは何かモデルとかあるんですか?
A.気にしないで下さい。間違っても過去作とか漁らないように




