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凍結惑星シェフィル  作者: 彼岸花
第五章 シェフィルの秘密

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シェフィルの秘密09

 シェフィルが気配を捉えた次の瞬間、地平線の彼方から無数の生物が姿を現す。

 その外見は、なんとも奇怪なものだった。

 全長二メートル近い身体は円錐形をしており、表皮の色は宇宙空間を彷彿とさせるほど黒い。円錐の底辺部分からは何十もの細い触手が生え、うねうねと蠢いていた。目や触角はなく、翼や推進器官も見られないが、どういう理屈か宙に浮いている。円錐形の身体は横倒しになっており、しかし難なく前へ前へと進んでいた。

 構造は単純そうだが、地上の生物と異なる『デザイン』だ。それに原理不明の方法で浮遊しているのも異質さを醸し出す。単に飛ぶだけならプニムシなどにも出来るが、それらはとても小さな生物。ここまで巨大な飛行生物なんて、シェフィルは見た事もない。

 あれが母の言っていた下級戦闘体なのだろう。起源種シェフィルにとって免疫細胞のようなものであり、それでいて母達と違って本能だけで動くため細かな制御が出来ない存在。

 何時もであれば相手を知るため注意深く観察するところだが、今回はそうもいかない。下級戦闘体がアイシャを襲うのは確定した情報であり、今更警戒も何もあったもんじゃない。

 おまけに下級戦闘体は猛スピードでシェフィル達に接近しており、悠長にしていたらあっという間に肉薄されてしまう。免疫細胞のような存在だとすれば、自身の命には頓着するまい。相手が自分より強いかどうかなど一切考えず、問答無用で突撃してくる筈だ。

 一体だけなら、その無用心さを利用して逆にカウンターを叩き込むところだが……遮蔽物がないこの場の景色を埋め尽くすような、数える事も出来ないほどの大群となれば、流石に真正面から戦う訳にはいかない。


「ちょ……母さま、あの、もの凄い数がいるように見えますが」


【ざっと五十万体が来ているようです。ですがこれは少ないぐらいですね。今シェフィルは多くのエネルギーを消費していて、我々以外の戦闘体の数が少なくなっています。普段ならあの数倍は来るでしょう】


 地平線を埋め尽くす五十万という数の、ざっと数倍。合理的なシェフィルですら考えたくないと思ってしまう大群だ。

 そんなとんでもない数を相手しないで済んだのは良いが、現状は未だ厳しい。相手の実力も未知数なのに、五十万も相手にしなければならないとは。

 とはいえ、此処で悲観していても無意味である。必要なのは行動だ。


【私が先導します。あなたはアイシャを連れて、追ってきなさい】


 合理的な母はすぐに行動を起こす。ふわりと宙に浮かぶや、真っ直ぐ、高速で進み始めた。

 量子ゲートワープを使える場所に向かうのだ。そこに行かねば、地上まで逃げる事すら叶わない。


「アイシャ! 走りますよ!」


「ひゃあああ!?」


 手を引き、シェフィルはアイシャの了承を得る前に走り出す。アイシャは悲鳴染みた声を上げつつも、シェフィルの足に追い付こうと全力で走った。

 母はシェフィル達とは一定の距離を開けた状態で飛んでいる。下級戦闘体と同じ原理で飛んでいるのだろう……勿論シェフィルにその原理は分からないが。母との距離が縮まる事はないが、離れていく事もないので、シェフィル達の速さに合わせて飛んでいるようだ。

 より厳密に言うなら、アイシャの足に合わせて、と言うべきだろうか。

 アイシャの足は遅い。今出せている速さはシェフィルの全力疾走に遠く及ばない、時速百キロ前後だ。これでも普通の人類から見れば『人類最速』を軽々と追い抜くスピードなのだが、シェフィル含めたこの星の生物から見れば鈍足でしかない。今まで大型生物の狩りに参加しておらず、足腰を鍛えていなかった弊害と言うべきか。

 尤も、仮にシェフィル並に速かったとしても、追ってくる下級戦闘体はそれを上回る飛行速度を誇っていたが。


【ピィイイキュイィィイイイイ!】


 高周波の電磁波をまき散らしながら、一体の下級戦闘体が迫ってくる。

 狙いはアイシャ。アイシャとの距離が三十メートルほどまで迫ると、円錐型をしている身体の先端……目などがないので頭と呼んで良いかは分からない……がぱくりと裂けた。裂け方は左右に開くという形で、中には細かな触手が無数に生えている。

 咽頭や歯は見られないため口としての機能はなさそうである。しかし注意深く観察してみれば、中に生えている触手の先端が鋭く尖っているのが確認出来た。噛まれれば、一瞬で筋肉がズタズタに切り裂かれてしまうだろう。

 あんなものに噛まれてはアイシャの身体が瞬く間に肉塊と化す。アイシャは必死に走っているが、相手の速さが格段に上では振り切れない。

 だが、一つ希望がある。

 下級戦闘体はアイシャだけを標的にしていて、シェフィルには見向きもしていない事だ。「シェフィルを二体殺した」相手だけを攻撃するという、本能に従った行動でる。本能だから、アイシャが憎い、獲物として食べよう等の感情はない。そこにいる『もの』に『噛む』という行動を起こしているだけ。

 奴等にとってそれをする事自体が目的であり、噛む事が出来たか、目標を排除出来たかと言うのは考慮しない。本能のみで動くというのは、そういうものだ。

 つまりシェフィルがアイシャを助けても、奴等はどうとも思わない。


「させませんっ!」


 試しにシェフィルが飛び蹴りを放っても戦闘体はぴくりとも動かず。

 シェフィルの蹴りを受けて、下級戦闘体は大きく吹っ飛ばされた! バランスを崩した身体は地面に墜落。ごろごろと起源種シェフィルの上を転がっていく。後方にいた他個体も巻き込んだ。

 追手も纏めて撃退出来た。加えて、仲間が目の前で蹴られたにも関わらず、戦闘体達はやはりシェフィルには見向きもしない。それどころか蹴られ、転倒に巻き込まれた個体すら、体勢を立て直した後に追うのはアイシャの方だ。自身へのダメージにすら無頓着だった。

 これは邪魔する上で好都合。回避や進路妨害がなければ、アイシャに襲い掛かる全ての戦闘体に蹴りを入れられる筈だ。加えて今の手応えから、下級戦闘体の身体能力はシェフィルと同等程度。速さは下級戦闘体が数段上だが、防御力とパワーはシェフィルの方が勝るだろう。一対一であれば足止めは勿論、十分勝ち目がある。

 ただ、問題は――――


「(一体二体どころか、百体二百体転ばせても全然足りませんねこれ!)」


 追い駆けてくる下級戦闘体の数があまりにも多く、一回蹴飛ばすだけでは群れの勢いに全く変化がない事だ。

 蹴られても反応しないのは、勿論下級戦闘体に知能がないのも理由である。しかし知能がないからといって馬鹿とは限らない。

 数という圧倒的暴力を活かす上で重要なのは、全体の動きが乱れない事。しかし自分の命を惜しんで最前線に立つのを嫌がれば、五十万の大群は常に味方の後ろに回り込もうとして前進しないだろう。自分の命を守るには、誰かを盾にするのが一番合理的なのだから。だから突撃させる存在には、そんな小賢しい事を考えない程度の知能しかないのが一番『合理的』である。

 途方もない大群というのは、頭が悪いほど()()()な存在になるのだ。事実数体返り討ちにしたシェフィルであるが、そんなのは先陣を進む連中か引っ込んだだけ。早くも何十という数がやってきて今の攻撃で出来た穴を塞ぐ。足止めと言えるほどの効果はない。


「ぐ……やっぱ逃げるしかありませんか!」


 迫る奴を返り討ちにしたところで大した意味はない。シェフィルは積極的な迎撃を諦め、アイシャの下へと駆け寄る。アイシャの遅い足に追い付くのはシェフィルならば容易い。

 駆け寄ったら腰から掬い上げるようにして、シェフィルはアイシャを抱えた。


「ひゃ!? え、あ、ありがと――――」


 抱えられた直後は驚いて目を丸くしていたが、自分の足が遅かったと気付いたのか。アイシャからは反発もなく、感謝の言葉まで述べてくる。

 残念ながらシェフィルの耳に、その言葉は入らず。

 アイシャの顔が近いという、抱えたのだから当然そうなる状況にアイシャ以上に驚いてしまい、危うく転びそうになっていたからだ。過酷なこの星での狩猟生活、そこで身に付いた運動神経がなければ大地こと起源種シェフィルの上を転がる事になっていただろう。


「ひぃやぁ!? ちょ、しぇ、シェフィル!? どうしたの!?」


「い、いえ、なんでもないです! もう大丈夫です!」


「いや全然大丈夫じゃ」


 問われて咄嗟に誤魔化すシェフィルだが、アイシャは納得せず。

 しかし質問攻めには合わない。

 アイシャが問い詰めてくるよりも、戦闘体の群れが襲い掛かってくる方が早いのだから。


【ピィイイイィィ!】


「ほっ!」


 頭から突っ込んできた個体の一体に噛まれる、瞬間にシェフィルは跳躍。戦闘体の突撃は跳んだシェフィルの下を潜る形で空振りに終わる。

 そしてシェフィルはそいつの頭を踏み付けて、力いっぱい跳んだ!

 片足で大地を踏み込む走りと違い、跳躍は両足で力を生み出す。踏み込みに僅かな時間が掛かり、そもそも人体が跳躍に向いた身体付きではないため、連続で跳んでも速度は出ないが……回避のタイミングと合わせて使えば、突進してくる戦闘体の速度も上乗せされて大きな加速を得られる。

 何十メートルと跳び、間近にまで迫っていた戦闘体達との距離を稼ぐ。更に踏み付けられた個体は反動で大きく仰け反り、仲間を巻き込んで遥か後方へと転がっていく――――

 いや、今度は転がらない。

 なぜなら後方に迫ってきていた大群が、転がってきた個体を受け止め、そのまま前へと押し出したのだから。転んだ個体は仲間達を足場にして起き上がり、また飛び立って群れの一部となる。これでは転ばせて周りの個体を巻き込み時間稼ぎ、という戦法が使えない。

 しかし真に驚くべきは、先程までと異なる陣形という点だろう。


「(まさか、学習している……!?)」


 母は下級戦闘体について、知性のない本能だけの存在と語っていた。

 だが今や群れは一致団結した塊となっており、秩序だった隊列を組んでいる。本能にそんな真似は出来ない、とは言わない。地上で長い間暮らしてきたシェフィルは、本能だけで高度な戦術を繰り出す生物達と幾度も戦ってきたのだから。

 だが、本当に本能の戦術であれば最初からやっているものだ。切り替えるにしても何度か失敗するか、何かしらの刺激に反応する形となる。こんな素早く、適切に変わるとは考え難い。

 ひょっとすると攻撃を観測・学習し、効果的な戦術を編み出している『司令塔』がいるのではないか。だとするとこの群れは極めて手強いが、逆にチャンスでもある。司令塔により群れの動きがコントロールされているのなら、その司令塔を潰せば混乱に陥る筈――――


【シェフィル。言い忘れていましたが、下級戦闘体はネットワークで繋がっており、集合的知性となっています。よって一個体が受けた刺激は全体で共有されますので、基本一度行った対応は通じないと思いなさい。また集合知性となる事で演算力は我々相当になるため、解析力も高いですよ】


「それ先に言ってくれません!?」


 等という希望は、母の遅い忠告により打ち砕かれた。母の言う通りなら、下級戦闘体は一個体が一つの神経細胞であり、群れる事で巨大な『脳』として振る舞っているらしい。

 個々には自我も知性もないが、群れる事で母達に匹敵する知能を持つ。迂闊な作戦は痛い目を見るだけだろう。『下級』と名付けられているが、実態はパワーもスピードも頭脳も、全てが一級品の存在ではないか。

 道理で此処、大事な起源種シェフィルの傍に配置されている訳だと、シェフィルは納得した。下級戦闘体に任せておけば、大概の問題は難なく解決出来る。母達はもっと知的で、単独でやる必要のある活動に回すのが合理的なのだ。

 即ち母達と役割分担が出来る程度には優秀。母と同等の脅威と考えた方が良い。


「(どうします!? これどうします!?)」


 勝ち目のない相手だというのは分かっていた。だが、ここまで絶望的なのは予想外。頭を必死に働かせ、打開策を練ろうとする。

 しかしシェフィルの頭が妙案を閃く前に、下級戦闘達が新たな策を繰り出す。

 それは纏まっていた群れの幾つかが、左右に広がり始めた事。

 壁のようにそびえていた群れが疎らになり、一見シェフィルにとって有利になったように見える。だがシェフィルは奴等の思惑に勘付き、顔を顰める。

 この群れはシェフィル達を包囲するつもりなのだ。

 極めて合理的な作戦である。戦闘体の速さはシェフィル達よりも上であり、数的優位も取っているのだ。ならば全方位に展開して逃げ場を封じた後、密集・圧殺してしまえば良い。数の有利と足の速さを活かした、極めて効果的な戦略と言えよう。

 そしてこの作戦に対し、シェフィルは打つ手がない。

 この手の作戦を破る方法は分かる。敵陣形の中で一番手薄そうなところに、戦力を投入して突破するのだ。包囲という陣形は、言い換えれば薄く広がるものであり、局所的には戦力が少なくなるのと同義。敵の方が数で勝っていても、局所的に数的優位を取れれば十分破れる。

 しかしシェフィルはたった一人、アイシャを含めても二人だけだ。対して下級戦闘体はざっと五十万体。どんなに軽く見積もっても、『局所的』な数でさえ数千体はいるだろう。戦力差はまるで埋まらない。おまけに実力はほぼ拮抗しているため、突破には時間が掛かる。これでは包囲を素早く突破なんて出来ない。


「(このままでは追い付かれ、圧殺されますね……どうしたものか……!)」


 更に状況が悪化する中、シェフィルは諦めずに思考する。だが、今よりマシな状況ですら案がなかったのだ。今更思い付くものなどない。

 強いて作戦があるとすれば、この下級戦闘体達が追っているのはシェフィルではなく――――


「しぇ、シェフィル……あの」


「心配はいりません」


 考え事の最中声を掛けてきたアイシャだったが、シェフィルは一言で黙らせた。

 恐らくアイシャはこう言おうとした。「私を置いていって」と。

 確かにそうすれば、シェフィルは確実に助かるだろう。下級戦闘体の狙いは単純で、起源種シェフィルの傍で二回端末を殺したアイシャの排除である。アイシャが排除出来ればそれで良くて、シェフィルの事など、恐らく障害物程度にも思っていない。

 アイシャを見捨てれば自分は助かる。最初から分かっていた事であり、今すぐにでもやろうと思えば出来る。貴重な繁殖相手を失うのは惜しいが、一番重要なのは自分の遺伝子()。この状況を覆す手がないのだから他に選択肢はない――――本能のまま生きていれば、アイシャを切り捨てるのは当然の決断だろう。

 合理的に考えれば、アイシャの意見に賛同すべきだ。かつてのシェフィルであれば、きっとそうした。

 だが。


「(嫌です。そんなの、絶対に嫌です!)」


 今のシェフィルは違う。

 手放したくない。失いたくない。胸の奥底から湧き出すのは、そんな非合理的な衝動。何故こんな気持ちになるのかまるで理解出来ないが、しかし確かに存在している。

 生き残るには本能に従うべき。だが()()()()()()()で言えば――――自分の中にある衝動に従いたい。

 だからシェフィルはアイシャを手放さない。たとえ自らの生命を危険に晒しても。


「(そうです! このままだと死ぬのであれば、死ぬ気の作戦をすれば良いのです! 例えば……)」


 改めて死を意識して考える。すると一つの案が思い浮かんだ。

 それを実行するのは極めて危険だ。下級戦闘体に追われるよりはマシなだけで、やはり死ぬかも知れない。また、これはシェフィルの力だけでは出来ない行いだ。母の手助けが必要であり、母がそれを了承するかは分からない。

 しかしやらねば確実な死、或いはアイシャを失う。ならばより確率の高い方に賭けるのが合理的というものである。


「母さま! 確認ですが、此処の天井はシェフィルの一部ですか!?」


【天井ですか? いいえ、違います。天井部分はメンテナンス炭末の分泌物で固められたものであり、シェフィルの身体ではありません】


 まずは確認。そこが起源種シェフィルではない事を確かめる。母達は起源種シェフィルの一部であり、故に起源種シェフィルを害する真似は出来ないからだ。

 懸念の一つが解決した。シェフィルは本題を切り出す。


「でしたら母さま、天井を電磁波ビームで崩す事は出来ませんか!?」


 シェフィルがそう尋ねると、母は押し黙ってしまう。

 考え込んでいるのだろう。母は飛行速度は一定に保ちつつ、触手をゆらゆらと揺れ動かすばかり。

 しばらくして、母はこう答えた。


【ええ、問題ありません。天井の崩落程度であればシェフィルへの被害もありませんから。またこれの巻き添えになっても、シェフィルは自分への攻撃とは判断しません。あくまでも事故です。加えてアイシャを巻き込むのであれば、排除行動への援護として容認されるでしょう】


 最大の懸念もクリアし、シェフィルの顔に笑みが戻る。アイシャはなんの話か分からずキョトンとしていたが、説明している暇はない。

 既に背後のかなり近いところまで、下級戦闘体が迫っている。余裕は殆どない。


「でしたらやってください!」


【良いでしょう。少々リスクはありますが、現状を鑑みるに妥当な作戦だと思われます】


「え、な、なんの話」


 いよいよ疑問が抑えきれなくなったようで、アイシャが尋ねようとしてくる。

 しかしそれを言い切る前に、母は天井に向けて電磁波ビームを躊躇いなく放った。

 電磁波ビームは天井に命中。分子レベルの破壊により核爆発が起きる。衝撃波は電磁波ビームを浴びていない部分にも広がり、広範囲を粉砕。今まで天井部分の岩盤に支えられていた岩も次々と落ちてくる。

 即ち、崩落だ。

 何百トン、いや、何十万トンにもなる岩が落ちてくる。自由落下で加速してくる岩は、正確にシェフィル達を狙っていた。岩に気付いたアイシャは悲鳴すら上げずに目を見開くが、シェフィルは一切の動揺なく岩が落ちてくるまでの時間を算出しておく。

 猶予があると分かったら、背後を振り返り下級戦闘体との距離を確認。

 岩の崩落を目にした下級戦闘体達は動きを止め、一部の個体は既に後退し始めていた。迫る大岩を危険と判断したのだろう。自己の生命に頓着はしないが、無駄に消費するのは『本体』にとって適応的でない。無為な死を回避するための本能は組み込まれていたと思われる。

 或いは、崩落に巻き込まれるシェフィル達を追う必要はないと判断したか。いずれにせよ、下級戦闘体にこれからやる事を邪魔される心配はない。


「(さぁ、一か八か……!)」


 シェフィルは頭上から降り注ぐ大岩の集まりを、鋭い眼差しで射抜くように見据える。抜けられる道があれば良いが、見たところ岩は広範囲かつ隙間なく位置していて、回避は不可能。

 ならばとシェフィルはアイシャをぎゅっと抱き締めた

 直後、崩落した大量の岩がシェフィル達の周りに降り注いだ。

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