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我慢いたしました

 この森には不釣り合いなセーラー服の少女。

 だが、その人間離れした美貌は、彼女がただ者ではないことを示していた。


「女? なんで、ここに……?」


 リーゼントは突如現れた莉世に、疑問を隠せないようだ。

 次の瞬間、莉世はリーゼントの目前まで移動するとそのまま黒いローファーで蹴りを叩きこんだ。

 普通の人間では目で追うことすらできない速度で放たれた蹴りは、リーゼントを十メートル以上吹き飛ばし、そのまま大木に叩きつけた。

 死ぬほどの一撃なら止めようかと思ったが、どうやら流石に理性は残っているらしい。


 とはいえ、何本か骨折れたっぽいけど。

 莉世はそのまま片手でリーゼントの頭を掴み持ち上げると、鋭い往復びんたを決める。

 リーゼントの顔がふぐのように膨れ上がる。

 今のびんたでようやく目が覚めたらしいリーゼントが消え入るような声で言う。


「お前……誰だ」


「道弥様の女よ。道弥様を侮辱した罪、償いなさい」


 誤解を招くようなこと言うな。

 莉世はリーゼントの胸元を掴むと、まるでボールを投げるようなフォームで放り投げた。

 リーゼントは回転しながら弾丸のように森の中へ飛んで行く。


「え? 式? え? ど、どういう?」


 混乱しているゆずは何度もこちらを見ては、莉世へ目を向ける。

 心配しているゆずをよそに、俺は小さく呟いた。


「死んでないし、大丈夫か」




「道弥様、私は我慢いたしました! 何度も、何度も、我慢いたしました。莉世は悪くありません」


 莉世は俺に怒られると思ったのか、頬を膨らませながら目をそらす。


「へえ」


 俺はそう一言だけ発する。

 それを聞いた莉世は俺が怒っていると思ったのか、下を見ながら呟く。


「だって、道弥様を馬鹿にされたんですもの……手加減もいたしました。死んではいないはずです」


 その様子を見て、俺は笑う。


「怒ってないよ、莉世」


「本当ですか!」


 莉世は尻尾を出していたら振っていたことが分かるくらい笑顔で言う。


「だけど、治療はしようね? あんなぼろ雑巾みたいになってたら、連れても歩けない」


「は、はい……」


 あんなぼろ雑巾になって、リタイア扱いになってないだろうか?

 俺達はリーゼントの元へ向かう。


 リーゼントは藪に突き刺さっていた。そして片腕が可動域とは明らかに逆に曲がっている。

 藪から体を起こすと、白目を剥いて気絶していた。

 流石武士型の男。体は頑丈らしい。


 リーゼントを地面に降ろすと、莉世に目を向ける。

 莉世は両手に霊力を集中させると、折れた肋骨に手を当てる。


「狐火・癒火(ゆび)


 莉世の両手から黄色の炎が宿る。その火に当たったリーゼントの体がみるみるうちに回復していく。

 数秒で、元の姿に完治した。


「よくやった、莉世。じゃあ……」


「私はまだ帰りません! 強制帰還されても何度もここに戻ってきますから!」


 俺の言葉を遮るように莉世が大きく首を振る。


「おとなしくしてろよ……」


「勿論です」


 本当かよ。

 そう思いながら、俺達はリーゼントが起きるのを待った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「だって、道弥様を馬鹿にされたんですもの……手加減もいたしました。死んではいないはずです」 良いね。このまま終わりまで付いて来てもらった方が、支障なく合格できるね。
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