別れ
「仕留め損ねたか」
俺は呟く。
遠くから見ている妖怪を察知し挨拶をしてみたが、どうやら生きているらしい。
「追いましょうか?」
「いや、いい。今回の件とどこまで関与しているかも分からんしな」
莉世の言葉に俺はそう返す。
それに……少し疲れたな。
俺は夜杉町を出て、報告へ向かった。
「なに……町に居る妖怪は全て祓っただと? し、信じられん……」
報告した陰陽師協会の男は、驚きを隠せないようだった。
「確認して頂いても構いません。これが今回の長である以津真天の死体です。一級妖怪相当の力があったため変異種でしょう」
俺は死体を見せる。
「確かに随分と大きいな……」
報告してしばらく待った後、確認のため夜杉町に向かった陰陽師達が戻って来た。
「ほ、本当に一匹も残っておりません。五千を越える妖怪達が全滅しています」
「ほ、本当なのか。君はどれほどの……いや、ありがとう。助かった。このままでは犠牲が増える一方だったからな。流石岳賢さんが指名するだけあるな」
「いえ、仕事は終わったのでもう帰ります」
俺はそのまま帰路に就いた。
◇◇◇
テレビは夜杉町奪還の話で持ち切りだった。
『続報が入って参りました。先日百人の陰陽師による夜杉町奪還の失敗をお伝えしましたが、本日芦屋道弥三級陰陽師が単独で指名依頼を受け、夜杉町の妖怪の完全祓除に成功したことが発表されました』
アナウンサーが情報を伝える。
『先日一級依頼に変更されたと聞きましたが、それを単独で芦屋さんは向かったのですか?』
コメンテイターが尋ねる。
『陰陽師協会によると、菅原一級陰陽師が芦屋三級陰陽師を指名し、それを芦屋さんが受け入れた形ですね』
『そんなことをすれば陰陽師の階級に意味がないのではないですか? 実力があるのであれば早く上げればいい』
『それは最もですが、まだ規則が追い付いていないのが現状です。それに彼が異常なだけなので難しいですね。強いとは聞いていましたが、まさか一級妖怪を軽く祓うレベルとは』
とコメンテイターの陰陽師が返す。
「夜杉町の周囲の町民は皆不安がっておりましたので、素晴らしいニュースですね。ですが、同時に陰陽師不足を痛感させる一件とも言えるでしょう」
とアナウンサーは締めくくった。
SNSでも同様に大きく話題となっている。
『一級妖怪軽く祓うの凄すぎるだろ。早く階級上げてやれよ、十六歳の一級陰陽師見てみたいわ』
『本当に敵の妖怪が一級妖怪かは分からなくないか?』
『死体を元に、陰陽師協会が正式に一級相当と認めているぞ。それに二級三人死んでるからな。一級レベルだろ』
『それより五千を越える妖怪が一匹も残ってなかった方が異常じゃね?』
『分かる。逃がさないように結界まで張ってたらしい。徹底しているよな』
この一件により道弥は一級相当の強さを持っていることを、世間が理解した。
◇◇◇
俺は数日後、桜庭先輩の告別式に参列した。
多くの生徒や陰陽師が集まり、桜庭先輩が好かれているのが分かる式だった。
「先輩……何もできませんでしたけど、仇だけはとりました。安らかに」
と桜庭先輩に伝えていると、一人の女性がやって来た。
「娘の仇を取って頂いてありがとうございます……娘もきっと喜んでいると思います。あの子は芦屋さんのことが大好きで……」
と最後は声にならないような声で伝えてくれた。
前世でも多くの仲間を俺は見送った。
死と隣合わせの仕事であることを最近忘れていた。
「いえ、お母さん。こちらこそ桜庭先輩にはいつもお世話になっておりました」
あまり実感は湧かなかったが式に参列することでもう会うことはないんだな、と理解する。
「俺と同じ事務所で働くって言っていたのに……」
と小さく漏らした後、俺は式を後にした。
帰り道、俺はコンビニで桜庭先輩がよくくれた飴を買う。
「甘いな……」
もうこの飴を俺にくれる人は居ないだろうな、と思った。
ここまでで4章が終了です。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
少し悲しい終わりになってしまいましたが、続きは明るく行きたいと思います、多分。
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