夜杉町奪還作戦
道弥が兵庫に行って間もなく、夜杉町奪還チームも新潟県夜杉町付近に到着していた。
百人を超える陰陽師達が一同に会するのは珍しい。
強い妖怪一体の祓除の場合、人数は意味がないからだ。
今回は推定数千の妖怪が相手であるため、人数も必要だからである。
メインは二級陰陽師三人、三級陰陽師七人のトップチーム。
残りは三級一名を中心とした十人の混成チームが九つ。
主に五級陰陽師は補助が中心で、戦闘は殆ど参加しない。
「凛華ちゃん、現場の雰囲気やばいねー」
と桜庭凛華に少女が声をかける。
少女は凛華と同じ淀川陰陽師事務所所属の五級陰陽師である。
「今回程妖怪による大規模な占領事件は余りないからね。仕方ないだろう」
「そうなんだけど……敵の数も多いんでしょう? もっと人数増やした方がいいと思うけどなー」
「仕方あるまい。そもそも陰陽師の数が少ないからね」
「相変わらず冷静だね、君はー。そう言えば、芦屋君に約束取り付けたんだって! やるじゃん! 大ファンだったもんねー」
そう言って少女は凛華の頭を強めに撫でる。
「大ファンとか、そういうのじゃないから……!」
「とか言って~! 聞いたよ。三級になったら同じ事務所なんだって。今回も頑張らないとね」
「ああ。まあ頑張るよ。ほら、呼ばれているよ」
皆、集まり始めている。
今回のリーダーである二級陰陽師が、皆に向けて言葉を紡ぐ。
「皆、急な招集にも関わらず集まってくれて感謝している。俺は二級陰陽師の二階だ。今回は町単位で妖怪に占領されるという痛ましい事件であり、早急な解決が必要なことは皆も理解していると思う。まだ主犯は確定していないが、夜杉町の周辺にあった廃村を根城にしていた二級妖怪がトップの可能性が高い。トップチーム以外は二級妖怪に出会った場合は速やかに逃げるように」
「「「「はい!」」」」
「今回は敵の数がこちらより圧倒的に多い。無理をせずに長期戦になる覚悟で臨んでくれ。護符など様々なものを協会から支給されている。各自受け取ってから町へ入ってくれ。では、お前達、武運を祈る」
「「「「応!」」」」
こうして夜杉町奪還チームが動き始める。
凛華と少女は第五チームに割り当てられ、主犯格以外の妖怪の間引きが主な仕事である。
そして二階と中心としたトップチームは後ろに第二チームと第三チームを従え、町へ入っていった。
町は既に完全に妖怪の手に落ちていた。
「キタ! ニンゲンガキタ!」
騒ぐ妖怪を二階は一瞬で祓いながら進む。
(やはり数が多い……メインまでは、霊力を温存したいな)
「第二、第三、悪いが途中の露払いを頼んでいいか」
「「了解です」」
先頭を第二、第三に譲り周囲を確認する。
至る所に妖怪が居るが、そこまで町は破壊されていない。
(町自体が目的だったのか。ここに住むつもりか?)
しばらく歩いていると、北方向に少し騒がしさを感じる。
「人がまだ残っていたのか? 向かおう」
そう言って北へ進むと、小学校の校舎から騒ぎ声が聞こえる。
(子供達が捕らわれている? そのような報告は受けていないが……スルーする訳にも行かんな)
二階はそう判断して、校門から小学校内に入る。
「不気味ですね……」
隣の二級陰陽師が言う。
「ああ。だが、確かめない訳にはいかん」
校舎内を進むと、一つの教室から声が聞こえる。
「これが掛け算。ならこの問題は解けるかな?」
とまるで算数の授業が聞こえる。
(どうなっているんだ? 授業……?)
皆、混乱していた。
教師が捕らわれているのか。他に理由があるのか判断できなかった。
すると、声が止み、扉から一人の男が姿を現す。
年齢は二十代後半ほどの柔和な雰囲気の男だった。
「君は……人間⁉ まだ無事な人間が居たのか?」
一人の陰陽師が声を上げ駆け寄ろうとする。
だが、それを二階が止める。
「今授業中なのですから、不法侵入は困りますね」
男はそう言った。
「お前……妖怪だな? こんなところで何をしている」
「何をって……学校なのですから授業に決まっているじゃないですか」
「まさか人間の子供を捕らえて……!」
その言葉を聞いて、男の表情が変わる。
「ふざけるな! 誰が人間などに教えるか! ここは妖怪のための学校だ!」
その言葉の後、扉から姿を現したのは大小様々な妖怪である。
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