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都の戦い②

「おお……」


 他の生徒達も皆、聞き耳を立てており、道弥の言葉に息を呑んだ。

 自分達の世代の圧倒的一位。

 彼の弟子など、興味が湧かない訳がない。

 その言葉は都の耳にも入っていた。


(道弥様……そんなことを言われたら、負ける訳には行かないではないですか!)


 都は中鬼からは見えないよう木で体を隠すと、その木に両手を当てる。


「臨兵闘者皆陣列前行。木行・成樹(せいじゅ)。急急如律令」


 都の言葉と共に、木の折れていた枝が突如成長し、中鬼の目を貫いた。


「ガアッ!」


 中鬼もただの木が襲ってくるとは思っていなかったのか、反応が遅れた。

 中鬼は悲鳴をあげ、その顔には憤怒が溢れる。

 中鬼は怒りに任せ、襲い掛かって来た木に金棒を叩きこむ。


 木がなぎ倒され、都の姿がむき出しになるも、中鬼の怒りは収まらない。

 そのまま金棒が都に振るわれる。


「まずいですわ!」


 都は咄嗟に結界を展開するも、その結界ごと都は吹き飛ばされる。


「大丈夫か?」


 結界の砕けた音を聞き、何が起きているか分からない生徒達がざわめく。


(痛い……! けど、このまま止まっていたら負ける!)


 都は痛む体を無理やり動かし、再び木々に潜む。


(まだ終わっていない、ですがやはり火力が不足してますわ。ですが、木々に霧、それに片目も見えない。中鬼も満足に見えていないはず)


 都は中鬼が見えない右目側に移動すると、一気に勝負をかける。

 渾身の霊力を使い、呪を唱える。


「臨兵闘者皆陣列前行。木行・木天掌(もくてんしょう)。急急如律令!」


 木から巨大な木でできた腕が生えると、中鬼を抑え込むように背後の木に叩きつけた。


 (あれは木天掌。中々の大技を。勝負を決めに来たな。徹底的に地の理を活かした戦法。木行が得意なのか、実践を意識させて彼が教えたのか……だが、中鬼を潰すには少しだけ、火力が足りないな)


 山楽は少し遠くからその様子を見守っていた。

 中鬼の顔は苦しそうに歪んでいたが、倒しきる程の威力はなかった。


(だが、四級妖怪相手に一歩も引かず、最後まで戦う姿は素晴らしかった)


 そう締めようとしていた山楽の目に、走る都の姿が映る。


(いったい何を?)


 都は中鬼が背中を押し付けられていた木まで回り込むと、その両手を当てる。


「臨兵闘者皆陣列前行。木行・成樹。急急如律令」


 木から生えた枝は背後から中鬼の頭部を貫いた。

 頭部を貫かれた中鬼はそのまま消えていく。

 それは都の勝利を意味していた。

 傷を負った都が木々の中から現れる。


「素晴らしい。三条都の勝利だ」


「「「「おおおーーーーー!」」」」


 歓声と共に、拍手の喝采が起こる。

 その傷だらけの姿を見て、簡単に勝ったと思った者は居ないだろう。

 全力を尽くし、それでもなお勝った彼女に皆が拍手を送った。


「中鬼の再顕現まで少しだけ時間がかかる。それが終わったら続きを再開しよう」


「先生、次は芦屋君です。彼の相手に中鬼では意味がないと思います。山楽さんの相棒が見たいです!」


 そう言ったのはさっき絡んできた田山である。


「山楽先生の相棒って……あの有名な」


「私も見たい!」


 と生徒達がざわめき始める。


「あいつは生徒と戦わせるような式神ではない」


「えー」


「けど、芦屋君が中鬼なんて、相手になりませんよ!」


 と好き勝手言い始めた。


「先生、俺はなにが相手でも構いませんよ。中鬼でも、他の式神でも」


 道弥はそう言ったが、少しだけ山楽の相棒に興味があった。


「はあ……仕方ないな。だが、同じ条件だと不公平だ。芦屋君は十秒、逃げ切ったら勝利とする」


「構いません」


 道弥は堂々と言葉を返した。


「出ろ……(みやび)


 山楽の言葉と共に、大犬が姿を現した。


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