足立という男
「昨日連絡したばかりなのに、来ていただいて本当にありがとうございます! 道弥、この人は白陽高校の方達よ! 一度実際に話を聞いてみたら良いと思って」
「いえいえ。連絡頂きありがとうございます。進路はお子様にとって人生を左右する大事な出来事ですので少しでも早くお話したくて来てしまいました。日本の至宝とも言える君が欲しい。白陽高校について知って頂ければ選んでいただけると確信しております」
足立と名乗った眼鏡の男はにっこりと笑顔を浮かべる。
おそらくこいつも陰陽師だが、そこまで強くない。
強さだけなら後ろの狩衣を着た陰陽師の方が強いな。
「芦屋君、突然の訪問すまなかったね。俺は山楽と言う。元々は二級陰陽師だったが、今は白陽高校で教鞭を執っている」
がっしりしており、短い短髪の男が爽やかに笑う。
まだ三十代の元二級陰陽師をよく雇えたな。
人数も少ない上に、給与も高い。学校で雇うのは簡単ではなかったはずだ。
「中に入って下さい。今お茶を入れますので」
「それでは失礼します」
二人が俺の部屋に案内される。
母はすぐに俺の部屋に三人分のお茶を持って来てくれた。
「お母さん、二人の話は俺が聞くから」
そう言って、母を強引に追い出す。
「それでは話を聞きましょうか」
「警戒されてますね。まあいいでしょう。はっきり言います。貴方は白陽高校に来るべきだ。君の目的や将来を考えると白陽がベストです」
足立は眼鏡を上げながらそう言った。
「理由を聞いても? 正直俺は別にどこの高校でも良いと思っています。なんなら陰陽科でなくても」
俺ははっきりと伝えた。
「はっきり言うなあ。その溢れる自信、俺は嫌いじゃないがな。若いが……既に俺より、強いな君は。その年でその圧倒的な霊力。そして卓越した陰陽術。明らかな怪物だ。どこの高校も、どの事務所も君を欲しがるだろう。君程であればあまりメリットは感じられないのも分かる」
三楽はにたりと笑う。
「そうでしょう? 白陽に行く理由が別にないんですよ」
「確かに君ならどこにいても間違いなく一級になる。それだけの圧倒的なポテンシャルがある。断言しましょう」
俺は足立の言葉を聞いて、首を傾げると同時に興味を持った。
「なら、なぜ白陽がベストなんですか?」
「君の才は異常です。正直、技術的なことでは、どこの学校でも教えられないと考えています。だが、別のメリットを提示することはできます。君の目標は一級になることじゃないでしょう? 目的は芦屋家の復興ですよね」
足立ははっきりとそう言った。
この男、かなり俺のことを調べてきているな。
俺の情報は正直まだそんなに出回っていないはずなんだが。
「なぜそう思うのですか?」
「ただ一級になりたいだけなら、菅原氏のスカウトを断るメリットがありませんので」
確かにそうだ。
「仮にそうだったとしても、白陽に行く理由にはならないですよね? 同じ東京なら第一でも良い」
「いや、貴方は第一には行けない。なぜならあそこは安倍家と懇意にしているからです。貴方は将来的に安倍家との敵対も考えているのではないでしょうか?」
足立の言葉を聞いて、俺は一気に身構える。
どこまで知っている?
「足立、何を言っている!? なぜ彼が安倍家と⁉」
横に居た山楽さんも驚いている。どうやら何も知らないようだ。
「簡単な推測ですよ。今回、芦屋家の歴史についても調べました。一般的には芦屋家が裏切り、安倍家に返り討ちにあったと文献に書いてあります。しかし、芦屋家の方々は安倍家に裏切られたと話されているんですよね。勿論、その真実は私には分かりません。しかし、芦屋家の方の主張が事実であれば、敵対、いや復讐を考えていても何もおかしくない」
足立はすらすらと話し始める。
この眼鏡。
確かな情報を集め、それを元に子供の俺に交渉するとは。
面白い男だ。
「話が飛躍しすぎだ……安倍家は一級陰陽師を二世代に渡って輩出した御三家一の名家。たとえ彼が一級陰陽師になったとしても勝負に……」
山楽がこちらを見て俺と眼が合い、言葉が止まる。
「まさか……本気で?」
「まさか、彼の妄想でしょう?」
俺はそう返す。
「ふふ。まあそう言うことにしておいても良いですよ。白陽は全く安倍家と繋がりはありません。皆第一に行くからです。その上で申し上げます。私はたとえあなたが安倍家と敵対しても貴方側につきます。これは学校ではなく、あくまで私個人ですが。これは学校卒業後もです。これが貴方に対して我が校が出せるメリットです」
「お前、何を言っているんだ⁉」
山楽さんが驚愕している。
どうやら、スカウトの手札は全く聞いていなかったらしい。
「本気で敵対するのであれば、ただ強いだけではなく権力や人数も必要です。裏方は私がバックアップすると約束します。」
「たかが高校のスカウトになにができるのか?」
「優秀な陰陽師とも伝手がありますし……私自身がとっても優秀ですよ。どうですか? 損は絶対にさせません。それに君のあらゆる陰陽師業を、学校総力を挙げてバックアップしますよ」
「学校自体に興味はそこまで湧かないですが、貴方に興味が湧いた。いいでしょう。白陽に入りましょう」
この男は一級になった後に必要になる人材だ。
俺は白陽高校に入ることが決まった。
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