修行開始
◇◇◇
事務所を出て、送迎車に乗った都は安堵のため息を吐いた。
「ああ……良かったですわ。なんとか弟子にしてもらえる様でした」
自分でも非常識なことをしていた自覚のあった都は、なんとか第一関門を突破したことを喜んだ。
(人面瘡から私を救って下さった道弥様のことを調べると、驚くことばかりでしたわ。歴代トップの成績で難関と言われる陰陽師試験を通過。一級陰陽師菅原岳賢のスカウトを断るも、既に様々な依頼をクリアしている。その実力は齢十五にして二級陰陽師以上と言われている……そんな人の元から教えてもらう資格が私にあるのかしら?)
都はあらゆる陰陽師を頼るも全て失敗した経験から人生に絶望していた。
このまま自分は人面瘡とともに死ぬのだと。
そう思っていた自分を救ったのがまさか自分と同い年の少年なんて想像もしていなかった。
そんな道弥が都は神のように見えた。
道弥の様になりたいと考えた都は父にお願いして道弥の元で働くことを望んだ。
(必ずや陰陽師に……そして道弥様のお役に少しでも立てるように)
都はそう自らに誓うと、明日からの修行に思いを馳せた。
◇◇◇
翌日、学校終わりにやって来た都は陰陽師ルックだった。
しかも明らかな高級品
あの親馬鹿な父が用意したことが分かる。
明らかに一流の陰陽師が作成したであろう護符を全て取り上げ、俺は都の前に立つ。
「ああ、お父様から貰った護符が!」
「初心者にこんなものは必要ない。陰陽師の基礎的なレッスンから始める。まずは一日でも早くマスターしたいのが、霊力の消費だ。なぜか分かるな?」
「はい! 霊力は完全に消費し、回復する際に少しだけ増加すると考えられているからですわ!」
元気溌剌に応える都。
目からはやる気が満ち溢れている。
「正解だ。陰陽師は印を結び、呪を唱えることで陰陽術を扱う。まずは陰陽術を覚えそれにより霊力の消費を目的とする」
「分かりましたわ!」
「見本を見せよう。臨兵闘者皆陣列前行! 火行・鬼火」
俺は右手で印を結び、呪を唱えた。
それと同時に目の前に野球ボールほどの火の玉が浮かび上がる。
それを見て都の目が輝く。
「凄いですわ! これが陰陽術ですのね!」
都は大きく息を吸い込むと、顔を引き締める。
「臨兵闘者皆陣列前行。 火行・鬼火」
都ははっきりと呪を唱えるも、全く反応がない。
「駄目だな。体の霊力をうまく陰陽術に変換できていない。おそらく霊力というモノをあまり認識できていないのだろう」
俺はそう言うと、左手に霊力を集中させる。
通常霊力は目に見えないが、多くの霊力を一か所に集中させた場合、可視化が可能である。
今俺の左の掌は霊力によってわずかに空間が歪んでいることが分かる。
「触れてみるといい」
「失礼しますわ」
都は恐る恐る掌に触れようとして、霊力に阻まれる。
「これが霊力……!」
「感じたからと言って、すぐにできるようになる訳ではないからな。地道に特訓だ」
「はい!」
都は再度、顔を引き締めると呪を唱える。
「臨兵闘者皆陣列前行。 火行・鬼火。臨兵闘者皆陣列前行。 火行・鬼火。臨兵闘者皆陣列前行。 火行・鬼火」
だが、一日中唱えても、陰陽術が成功することはなかった。
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