僕の死因は女神さまのクシャミが原因だそうです
「ごめんなさい!」
気がつけば女性が僕の目の前で土下座をしていた。
えっと、ここは⋯⋯?
というか、僕の身体はどうなったのだろう?
「すみません。僕には何が何やら⋯⋯。あ、あと顔をあげてください。女の人をそんな姿勢で置いておくと心が痛みます」
僕はなるべく変質者にならないように、女性の肩に触れて起き上がらせようとしたが、あることに気づきその手を止めた。
どこに触れよう?
女性の身なりは綺麗だ。顔は見えないけど、絶対に美しい。そして女性が着る純白のドレスにも似た服は、肩が露出しており土下座のため見える背中には1対の神々しい翼が見えた。
あれ?もしかして女神さまとかいう存在?
あぁ、僕は死んだんだな。
ぼんやり死んだ理由を思い出そうとする。えーっと、確か⋯⋯おっと、駄目だ駄目だ。
多分女神さま?なら尚更土下座なんてさせられない。
しかし素肌の肩を触れる勇気は、女性経験皆無の僕には勿論ない。
ならば翼だ!
恐る恐る近づくと、僕は女神さまの側にしゃがみ込む。
ピクッと、女神さまの翼が動いた。なんか可愛い。
僕は、そっとその翼に触れる。
「ヒアッ!!」
僕が翼に触れると、女神さまは飛び上がった。
「ブフッ!」
ついでに、女神さまが飛び上がった際にその翼に弾かれ、僕の身体は一回転宙を舞った。
ヤバい!
天地が逆さまになると同時に、純白の床が眼前に迫る。
「クッ── 」
両手をクロスさせて身構えたものの、ドンッ!という衝撃は来なかった。代わりに、フワリと自分の身体が見えない力に支えられ、ゆっくりと床に降ろされる。
「もう!いくら私が悪かったとして、いきなり翼に触れるなんて変態ですか!」
僕が顔を上げると、宙に浮かびながら少し頬を膨らませて怒ったような表情を見せる女神様がいた。
可愛い!
てっきり美しい系かと思えば、まさかの可愛い系。
金色よりやや白っぽい髪は肩の辺りでウェーブがかかっており、サファイアの様な瞳はくりりとして愛らしい。
僕が女神さまに見とれていると、女神さまは少し頬を赤くするとコホンと咳払いをした。
「いえ、取り乱してすみません。私の肩を触れる勇気がなかったのですね。ですが、いきなり翼とは⋯⋯。私も対応が遅れた時には触れられていたので、思わず飛び上がってしまいました」
心の中を読めるとなると、いよいよ女神さまらしい。
「では改めまして、私は女神セラといいます。もう気づかれているかと思いますが、早良 悠月さん貴方は死にました」
なんとなくこれが夢でないとは思っていたが、女神さまに言葉にされると重みが違う。
僕は女神さまの次の言葉を待つ。
「そして!その原因は⋯⋯クシュンッ!」
いきなり、可愛いクシャミが聞こえた。
そして次の瞬間、可愛らしい女神さまはとんでもないことを言うのだった。
「ごめんなさい、悠月さん。貴方は私のクシャミが原因で死にました」
「⋯⋯へ?」
思わず、バカのような顔になったと思う。
おかしいぞ?僕は台風の日、仕事から帰る途中に横断歩道を歩いていて、突風が吹いた瞬間に何かにぶつかったはずでは?
僕の心を覗いたのか、女神さまは申し訳なさそうに肩をシュンと落とした。
「本来、女神とは祝福を与える立場なのです。例えば、さっきしたクシャミでさえこのように」
女神さまが右手をサッと振ると、何もない空間に映像が映し出された。
そこには山火事によって燃え盛る炎が、今にも山の麓にある小さな村を襲おうとしていた。しかし次の瞬間、見る見ると雨雲が広がったかと思うと、大粒の雨が山火事に向かってふり注いだ。みるみるうちに山火事はその勢いを失っていく。
「人々に奇跡や守りを与えるもの。それが、今回は台風によって起こりうる大規模災害は防げたのですが⋯⋯、私のクシャミの余波で本来なら飛んでいかないはずの工事現場の足台が外れて貴方に直撃したのです」
衝撃の事実だが、死んでしまったものは仕方がない。
きっと、元の世界には戻れないのがお約束だろう。
「日本では、土下座が謝罪の最高峰と聞いた次第で、このような態勢でお待ちしておりました」
うーん、数百年前だとそれでOKかもしれないけど、今やらせたらパワハラで絶対訴えられるよね。
「いやいや、そもそも女神さまが言ってくれなければ事故にあっただけだと思うところでした。えーと、つまりお詫びに異世界に転生させてくれるというお話でしょうか?」
僕がそう言うと、ホッと女神さまは胸を撫で下ろす。
「ご理解が良くて助かります。それで⋯⋯怒りはしないのですね」
「えぇ、両親も早くに亡くしまして、身近に親しい人もいないので」
「⋯⋯すみません。本来なら貴方は暫く後に素敵な人と出会ってそれなりに幸せな家庭を築く天命でしたのに」
あれ、おかしいな?なんか怒りが湧いてきたぞ。
「でもでも!お詫びといっては何ですが、異世界への転生にはかなり優遇をさせて頂きます!女神が善良な市民をクシャミで殺してしまったなんて言われた日には」
「権威が落ちる?」
「いえ、先輩の女神にぶっ飛ばされます」
なんていうか、女神の世界も体育会系なのだろうか?
しかし僕はこの人間味が強い女神さまを好意的に見ていた。
殺された原因が、この人であったと知っても怒りは湧いてこない。
そりゃあ、素敵な女性と知り合えてたかもしれないなんて嬉しいことこの上ないけど、会ったことのない人だから怒る要素もない。
「女神さまの世界も大変なのですね、では転生をお願いします」
僕の心は常に読まれているのか、女神さまはホッとした顔をした。
「案外あっさりなんですね」
うーん、色々やり残したことはあったかなぁ。買いたいゲームはあったけど、最近忙しくて積みゲーになっていたし。
仕事は、チームでやっていたから一人抜けるのは少し厳しいか。
「えーと、心残りはあるのでまずはそれをお願いできますか?」
女神さまは目をパチクリとさせたが、すぐに頷いてくれた。
「干渉できる範囲であれば叶えましょう」
良かった。それならと、僕はお願いをする。
「2つあるのですが、1つ目は、僕が死んだことで仕事のチームに支障が出ると思うんです。できれば、僕の部署に異動したいやつがいれば入れて頂けますか?」
女神さまはニコリと笑う。
「意志がある人に機会を与えるのは、運命の因果律を曲げないので大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。もう1つは、僕にぶつかった足場を管理していた会社に不利益が被らないようにしてほしいのです。こちらは、女神さまのクシャミによる同じ被害者ともいえるのでよろしくお願いします」
本当に管理不十分だったなら、足場を組んでいた会社は罰せられても仕方ないけど、原因が女神さまのクシャミなら可哀想だもんね。
施設の管理が悪かったと言われて、メディアのつるし上げをくらって多くの人が不幸になる。
「ハァ、それは確かに私が原因です。会社が不利益にならないようにしておきましょう。それにしても、さっきから他人のことばかりでご自分の心残りは大丈夫ですか?」
女神さまは、自分の過失を悔いているのか深いため息をついた。
さて、自分のこととなると。うん、悔いは本棚の隙間に隠している薄めの雑誌くらいだけど、正常な男性なら持ってても不思議ではないし、清掃に入った人がビックリするような量でもないしね。
どっちかと言うと、自分が死んで周りに迷惑をかけてしまう方が後味が悪い。
「フフ、自分のことより人のことばかり。悠月さん貴方は本当に優しい人です。心残りはありませんか?」
僕は頷く。
「それでは、転生する世界での貴方のことを決めていきましょう」
女神さまはそう言うと、優しく微笑んだ。
「面白かった!」
「続きを読んでみたい」
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