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奇跡は起きるか

 コールセンターは、いつもの喧騒に囲まれている。

今日も、アルバイトたちが、アンケートの完遂を目指して奮闘している。

その中に、明智の姿もあった。

いつもなら、上手くいかない自分に嫌気がさし、早くも職場から遁走(とんそう)している時期なのだが。

初めて訪れた成功体験を追体験してみたい気持ちが勝ち、また恋心を抱いた上司との進展を夢見る気分もあいまって、仕事場へ再度足を踏み入れていた。


だが、残念なことに、お目当ての上司(菊池)はいなかった。休みなのだろうか。唐沢がいつものように眉をあげ気味にしてアルバイトたちに睨みを利かせている。

仕事の説明が終わり、電話帳が配られる。明智の士気はダウン気味だ。


「まっ。ついてないのは相変わらずだな」

「ここを乗り越えれば、就労が続く絶好の機会になるであろう」

「でも、そう上手く事が運ぶかしら。アドバイスする人がいないんでしょ」

「彼は自分で自分の弱点に気づけぬゆえ、一苦労だ」

「今日で最後だ。なーご」


 電話をかける。また早口に戻る。相手から訝しそうに思われ電話を切られる。

「ああ、また切られてしまった。なんでだろう」

自分の早口に気づいていないようだった。


「困ったわね。せっかく菊池さんからもらった注意事項を忘れてしまったみたい」おせんが嘆く。

「ちょっくらヒントだそうぜ。このまま終わったら元のもくあみだしな」

清太郎が「早すぎるんじゃねえか」と囁く。脳内に着想として響く。


「そうだ。早口だってのを忘れていた」

気を取り直して、再度チャレンジする。しかし今度はぶっきらぼうな受け答えをしてしまい。電話を切られる。


「ぶっきらぼうも問題だけどよ。もう一つ難点があるんだよな」

「さよう、明智は独りごとが多く、それを受話器が拾い相手に筒抜けになっている」

「これ以上ヒントを出すわけにもいかないし、彼に気づいてもらうしかないわね」

「無理無理。なーご」


 中々結果を出せない。電話を途中で切られてしまうことが何度も続く。思わず「またダメだろうな」と独りごとを呟いてしまった。即切られる。

 

「こら、そこ。お客様に『ダメだろうな』とは何だ。聞こえてるぞ」

たまらず唐沢が注意する。ドスの利いた野太い声に、小心者の彼はびびった。

「はい。すいません」つい表情が怒り顔になった。

心の底では怯えているのだが、出てくる表情がアンバランス(※1)なのだ。


「こりゃ今回で終わりのケースだな」

「これからの仕事選びは、もう少し彼のできそうなことを選ばねばならぬ」

「だけどよ。不器用だし、表情は変だし、意思疎通は苦手と来てる。無理なんじゃないか」

「菊池さんが出勤するまで、粘ってくれればいいのに」

「あきらめろ。なーご」


 気落ちしながらも、早口と独り言に気をつけて何度かチャレンジしてみた。

しかし、怒ったような物言いに気づけず。今回は全て撃沈した。

「やっぱり、向いている仕事はなかったんだ。今回もダメだったんだ」

意気消沈して、昼食も食わずに仕事を放置して家に帰った。






※1

小説のケースとは別だが。心理状態と表情のアンバランスは『発達障害工夫しだい支援しだい私の凸凹生活研究レポート2』(しーた著 梅永雄二監修 <宇都宮大学教授> Gakken) 20ページにて指摘されている。

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