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面接の罠

 明智は、地図を片手に道に迷っていた。

どうやら、雇用主が書いた略図を脳内から現実へ変換する能力に欠けているようだ。

つまり、ありていに言えば「地図が読めない」ということになる。

男で地図が読めないのは珍しい部類に入るのかもしれない。

だから、町中にある地図の看板は、明智にとっては意味をなさない。


 汗ばむスーツを片腕に担ぎ、面接先の学童保育場所に着いたのは、午後一時で、時間ぎりぎりだった。

二階建ての民家で、二階に学童の集合場所がある。

おそらく雨天時は、ここで絵などを描いて過ごすのだろう。

子供が喜びそうなファンタジーな絵が窓にパステルカラーで書かれていた。

ロケットや星や月や土星。明るい未来を示すイラストに己の将来を重ね合わせてみた。

ただ遊ぶだけで仕事になる。遊ぶことが何よりも好きな自分にとって未来の天職だと思えた。

風除室の引き戸を開けて中に入り、呼び鈴を押す。

ここの経営者なのか、それとも面接担当なのかモスグリーンのトレーナーを着た中年女性が出てきた。

明智は軽く会釈して「面接を受けに来ました」と伝える。


 自分はスーツ姿だ。ちょいと気負い過ぎかと心の中で苦笑する。それがどうしても、表層筋が上手くうごかせないので、はにかみつつ怒ったような微妙な表情になる。中年女性もその表情を見て「変な人が来た」と判断した。


 テーブルのある部屋に通された。相手の声掛けを待ってから坐る。ここまでは完ぺきだ。

件の中年女性は、ここの運営者で面接担当のようだった。彼女は所用があるらしく、少ししてから面接を始めるとだけ告げた。


 ひたすら座って待ち続ける。明るい未来への第一歩となるはずの面接なのだが、明智の中では早くも、これからの仕事に対する不安の芽が顔をのぞかせていた。

果たして自分は、学童全員の名前を覚えられるだろうか。運動音痴なのに、きちんと球技をこなせられるだろうか。公園から帰る時に、人数を把握できるだろうか等。自分の資質に対して自信がなくなるのはいつものことだった。


 先ほどの中年女性が現れたので、立ってお辞儀をし、面接が始まる。

相手の女性が履歴書に目をやる。明智はといえば、不安を抑えつつ緊張した面持ちで座っているのがやっとの様子。

「資格を履歴書に記載してないようですが。どうなんでしょうか」

意外なことを聞かれて、明智は面喰った。学童保育に資格がいるなんて知らなかったのだ。

「一応、今回の募集では、放課後児童支援員の資格が必要となっております」

急な展開に、明智はすっかりびびってしまった。頭の中が空白になった。

その後、大学は教育学部関係か否かと聞かれたが、教育には全く関係のない学部だった。

教育に関係のある大学なら、まだこの資格を得られるチャンスがあるのだが、完全に道は断たれたといっていい。あとは資格がなくても採用してくれる求人を探すしかなさそうだ。

今後、地道にハローワークに通う必要が出てくるだろう。


 結果として、今の仕事を続けつつ、学童保育の仕事を探すしかないのだろう。

つくづく自分はついていないと明智は天を仰いだ。

陽は高く昇り、気温は高く、この状況で子供相手に全力で遊ぶなど無理だということを天気が諭しているようだった。


「リサーチ不足だったな。仕方ねえや」

「これに懲りて、マーケティング業務に励むがよい」

「惜しかったわね。もしかしたら向いていたかもよ」

「大学の専攻がそれでない以上無駄じゃ。なーご」


 面接はどう考えても採用されないだろう。昼の暑いさなか、スーツ片手に明智は帰路についた。

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