新たな仕事の誘惑
明智の今日の出来は散々だった。睡眠不足と不注意と便意と自意識過剰に翻弄された日々。
上司の唐沢も、ナントカにつける薬はないといった目で見る。
唯一の救いは菊池さんが休みだったこと。
今日の醜態は、ばれずにすむ。一日遅れで伝わったとしても人を介すから薄まる……いや、唐沢フィルターを通して伝わったら、余計に悪く伝わるぞ。という悩みにバツイチの事実が再度思考の上にかぶせる形で巻き起こり頭脳の中は、某動画サイトのコメントが重なった状態になり収拾がつかなくなる。
混乱した頭をクールダウンさせるために、前に水上さんに連れてこられた喫茶店に赴く。ドアの上の飾りである寄木細工がまた増えたような気がする。鐘の音が鳴りドアが開かれる。「いらっしゃい」と女店主が寝起きのような声を上げた。女店主の髪形がショートカットに変わっていたが、鈍感な明智は気付かなかった。
カフェイン系は腹に来るので、当たり障りのないフルーツジュースを注文する。
店内には、サラリーマンが数名。女店主は「あら、こないだの学生さん」と適当に職業を呼ぶ。
「学生ではなくてフリーターです」
「あらそうなの。顔が若いから、てっきり学生さんでバイトしてると思ったわ。で、今日は一人」
「ええ」
別に威張っているわけではないが、明智の返事は、素に戻ると「ええ」が多くなる。
彼は見た目が若く見えるので、昔からよく年齢が下に見られることが多かった。
「バイトは今フルで入れてるの?」
「今までフルタイム入れていたけど、どうしようかなあ」
「知り合いの人が、学童保育の指導員を探しているんだけど、やってみない?」
「学童保育って何ですか」
「ほら共働きの家庭とか今多いから、放課後に子供を集めて遊んだりする仕事よ」
『遊ぶ』という単語に脳が反応し、磁石に吸い付く釘のように惹かれる。
「興味あります! それは何処ですか! 」
「今度、その人に会ったらいろいろ聞いておくわね。しばらくしたら店にいらっしゃい」
「しばらく……っていつごろですか」
あいまいな言葉はわからないらしい。相手の店長も困った顔をした後「三日ぐらい」と適当に答えていた。
そのころ明智の頭上では清太郎が、不満そうな顔をしていた。
「おいおいまた仕事変わるのかよ。勘弁してくれよ」
「せっかく菊池殿が尽力してくれたのを、全く困ったものよのう」
「あらでも、遊ぶのが仕事なら、明智向きかもしれないわね」
「いや、この仕事が一番大変だと思う。なーご」
明智は、遊んでいるだけで給料がもらえる学童保育に、心底心惹かれていた。




