後悔。そして……。
水上パワーから解放されて、明智は帰路についた。
日差しは大分大人しくなり、風も涼しげになり急なもてなされ状態で疲れた頭をクールダウンしてくれる。
その帰宅途中、振り返っては後悔する。
曰く「菊池さんに好きなことがばれたのでは」とか「水上さんがこのことを職場で話題にするのでは」といった自意識過剰な悩みであった。
「そんなに気にしなくていいっつうの」
「そう、誰もお主のことなど気にしておらぬ」
「広まったら逆にチャンスになるかもね」
「いいや、それはない。なぁーご」
自宅に着き、いつもより少なめの夕食をとる。気がかりで食欲が失せたようだ。
母に相談するかと思ったが、照れくさいのと気おくれがして止めた。
しかし割とメンタルと食欲は別なのが常態だったので、いつも大喰らいの明智の小食は目を見張った。
それが気になったのか、珍しく父親が話しかけてきた。
「ずいぶん続いているな。どうだ仕事は面白いか」
「たまたまだよ。それに面白くはない」
「誰か気になる人でもできたか」
「実は、いやいいや」
「なんだ話しかけて止めるなんて気になるじゃないか」
「いいから一人にさせてほしい」
父親は「なんだ」という顔をしてリビングに向かった。明智は一人自室へ移動してベッドに寝転んだ。
「噂になったら恥ずかしくてもう職場には通えない」とつぶやく。
やっと脳がバツイチのことを思い出す。
「僕みたいな子供がいるとか言ってたなあ」
もしかすると、恋愛対象として見てもらえていないと思い始めた。
その考えに行きつくと、自分の思いがものすごく恥ずかしい行為のように思えてきて、布団を抱えて転げ回った。
「なんか病気みたいなことをいっていたなあ」
病気扱いされたことについては腹を立てなかった。自分でも薄々何かがおかしいと感じていたから。
暇になったら、そのナントカセンターに行ってみようかと思った。
しかし、そこは腰の重い明智である。行くまでには時間がかかるだろう。
それより、明日のバイトは続けられるだろうか。
明智は明日のことは明日考えるために、思考を放棄して寝ることにした。
ところが、頭の中で思考は悩みに変化してローリングし始める。
「このことが噂になったらどうしよう」「みんなに知れ渡ったら」という思いが頭を駆け巡る。
無駄な考えから解放されて、眠りに就いたのは午前三時過ぎだった。
頭は寝不足で働かないが、それが逆に悩みの逡巡を停止させたので、普段のように電車に乗って、目指すビルについた。いつものように説明が終わって、バイトが始まる。仕事前に、明智のことを話している人は一人もいなかった。ただ、それに気づくほど頭が回っておらずミスを連発させた。
「しっかりしてくれよ」唐沢に呆れられやっと眼を覚ます体たらくだった。
頭上では清太郎が「コーヒーコーヒー」と騒いでいる。休憩時間にブラックコーヒーの濃いやつを飲む。
しばらくして、便意を催して仕事は中断になる。
今日は、しっちゃかめっちゃかな日になりそうだ。




