【38話】特設新鋭軍の初陣
月日は風のように過ぎ去る。
俺が帝国に来てからの日々は、想像以上に忙しないものであり、気が付けば2ヶ月が経過していた。
王国暦1241年6月。
ヴァルカン帝国内。
ヴァルトルーネ皇女擁する俺たちの陣営には続々と新たな人材が増えていった。
特に新設された特設新鋭軍には、貴族平民問わず、多くの強者たちが選ばれることとなった。
リツィアレイテを筆頭に優秀な平民の者たちが起用される。
ペトラ、アンブロス、スティアーノ、ミア、ファディもその筆頭である。
勿論、貴族の登用もちゃんとしている。
フレーゲルはレシュフェルト王国にいる内通者との橋渡し役に選ばれ、毎日忙しそうに走り回っているのを目にする。
これでもまだ人数は少ない方だ。
でも、ヴァルトルーネ皇女と俺が選び抜いた優秀な者たちが揃った特設新鋭軍はきっとより良い戦果を収めることだろう──。
「ヴァルトルーネ皇女殿下、特設新鋭軍の出撃準備が整いました。今すぐにでも出せますが……いかが致しますか?」
今現在、俺とヴァルトルーネ皇女はリゲル侯爵領に広がる平原にて、リゲル侯爵の軍との全面対決に赴いている。
理由は簡単なこと。
リゲル侯爵が行った悪事の証拠をファディが集め、それをヴァルトルーネ皇女が皇帝グロードに告発したからである。
『事実無根の濡れ衣です! 私はそんなことをしていない!』
リゲル侯爵はそれを否定したが、ヴァルトルーネ皇女がファディに持たせていた魔道具によって、リゲル侯爵が行っている裏事業の証拠を映像として残すことに成功していた。
故に彼の言い分は真正面から完全に拒絶された。
全てはヴァルトルーネ皇女の手の内。
『これを見てもまだ、罪を認めないおつもりですか? 潔く罪を認めてください』
ヴァルトルーネ皇女の発言に怯んだリゲル侯爵は苦虫を噛み潰したような青い顔になる。
『わ、私は……そんなもの認めないっ! それから、お前みたいな小娘が次期皇帝候補なんてものも認めてやるものか!』
言葉を吐き捨て、
慌てて逃げ出すリゲル侯爵を追う者はいなかった。
その酷く醜い姿をただ眺め、やがて皇帝グロードが静かに言葉を発する。
『はぁ……ヴァルトルーネ、リゲル侯爵を討つのだ。お前の手で、やつに引導を渡せ』
『仰せのままに、必ず成し遂げて見せましょう』
リゲル侯爵は自領に逃げ帰り、徹底抗戦の構えを見せた。
その結果、ヴァルトルーネ皇女の初陣がリゲル侯爵の軍との対決となったのだ。
ここで見事、彼の軍を負かせばヴァルトルーネ皇女の名声が上がる。
「アルディア、軍の編成は?」
「はい。我が特設新鋭軍は敵軍を取り囲むように布陣。ヴァルトルーネ皇女殿下が指揮する本軍が中央からじわじわと前線を押し上げ、左翼のリツィアレイテ将軍、そして右翼を担当する自分が後方に回り込み、包囲殲滅……持久戦に持ち込まれないように、先立ってリツィアレイテ将軍が既に敵の補給路を分断しております」
「そう、報告ありがとう」
人数は五分五分。
兵の質はこちらの方が圧倒的に上、
なにより、ヴァルトルーネ皇女が直々に指揮を取るのだから、勝利はほぼ揺るぎないものだ。
だが、単なる勝利では味気ないのも事実。
この戦い、完膚なきまでに敵を叩き、ヴァルトルーネ皇女の威光を確固たるものにする必要がある。
「ミア率いる騎竜兵隊が付近に潜む伏兵を空中から洗い出しております。奇襲の可能性も限りなくゼロに近づけているので、余程のことがない限り、我々の有利は覆りません」
レシュフェルト王国との戦争の前に帝国内の膿を洗い出す。
リゲル侯爵は間違いなく、帝国の癌そのもの。
加えて、彼は親レシュフェルト王国派の貴族だ。
この機会に潰せるのであれば、色々と都合がいい。
「ヴァルトルーネ皇女殿下、指示をお願い致します」
お膳立てはこれ以上ないほどに立てられた。
あとは成果を残すのみ。
ヴァルトルーネ皇女の専属騎士として、獅子奮迅の活躍をしてやろうと意気込んでいると、ヴァルトルーネ皇女が深く息を吸う音が微かに聞こえた。
特設新鋭軍の面々は高所に立つ俺とヴァルトルーネ皇女に視線を向けている。
士気も万全。
いつでも行けそうな雰囲気だ。
「これより、リゲル侯爵率いる賊軍との戦闘を開始する! ヴァルカン帝国の名誉に泥を塗った愚か者どもを一人残らず討ち取りなさい! 特設新鋭軍、出撃っ!」
彼女の掛け声により、兵たちは空に向かって武器を掲げる。
「「「うおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」
周辺を圧倒するような兵たちの歓声を聞きヴァルトルーネ皇女は俺に視線を向ける。
「アルディア、貴方の活躍を期待しているわ。必ずリゲル侯爵を捕まえて。これまでの報いを受けさせるのよ」
向けられた期待。
専属騎士としての初仕事としては、それなりに歯応えのあるものだ。
俺は地面に膝を突き、ヴァルトルーネ皇女に頭を下げる。
「お任せください。必ずや、逆賊共を退け、リゲル侯爵を貴女様の前にお連れ致します」
俺がヴァルカン帝国に来てから、最初の戦いが幕を開けた。
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