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第064話「やることが多い」

「ぐ、ぐぎぎぎ……ッ! い、今まであなたに散々嫌がらせしてきたことを深く謝罪いたします……。種口……さん……。申し訳、ありませんでした……」


 後日――。


 放課後の空き教室にて、俺と種口くんとニナの前で、犬瀬は血涙でも流しそうな形相で額を地面に擦りつけながら謝っていた。


「……もういいよ。ただこれからは今までみたいなことはしないでほしい。俺を苦しめるために、佐東さんや爾那たち俺の友達にちょっかい出すのもやめてくれよ?」


「しょ……承知いたしました……。種口……さん」


 顔は怒りと悔しさで真っ赤になりつつも、魔法契約書の効果がある以上は逆らうことは許されない。


 今後犬瀬は卒業までの数年間、種口くんにちょっかいはかけられないし、彼と会話するときは『さん』付けで呼ばなければならないのだ。


 謝罪が終わると、犬瀬はフラフラとした足取りで空き教室を出て行った。


「魔法契約書があるんだから、大勢の生徒たちの前で謝らせてもよかったのに」


「……ただでさえ佐東さんのチャンネルで俺が犬瀬をノックアウトした動画が拡散されて学園中で話題になってるのに、そんなことしたら俺……めちゃくちゃ性格悪い奴だって思われちゃうじゃん」


「それくらいしてもバチは当たらないと思いますが……まあ、迅くんらしいですね」


「あーあ、どうせなら『卒業まで』じゃなくて『今後ずっと』って言っておけばよかった~」


「ニナ、勝ったからいいですけどギリギリの綱渡りだったんですからね? 下手したらあなたは彼のメイドにされていたかもしれないんですよ? 反省してください」


「ご、ごめんなさい……」


「まあまあ、佐東さんもその辺で勘弁してあげてよ。結果的に全部丸く収まったんだからさ」


「でも、契約書の約束は卒業までの期間だし、犬瀬くん……それが終わったら仕返ししてくるんじゃないの?」


「卒業までの間に今よりももっと成長して、迅くんが彼になにをされようが打ち勝てる強さを身につければいいだけです。……できますよね?」


「が、頑張ります……」


「それに犬瀬家は今大変みたいですしね。もしかしたらこのまま実家が潰れて、迅くんを逆恨みする余裕なんてなくなるかもしれませんよ?」


「そういえばニュースでやってたね。犬瀬くんのお爺さんがやばい犯罪に手を染めてて警察に捕まったって。今日も校門前にマスコミの車が沢山停まってたし、ダン学の評判がガタ落ちになりそうで在校生としては頭が痛いよね~」


 学園の理事である犬瀬の祖父は、海外の人身売買組織と繋がりを持っていたことが明るみに出て逮捕された。


 きっかけは……レイコが魔法契約書のついでに気まぐれでパクってきた書類だ。


 犬瀬家が何年にも渡って徹底徹尾隠蔽してきた違法取引の証拠が、あれに記載されていたらしい。


 アーサーによると、ダン学生徒失踪事件の一部も犬瀬祖父の仕業であり、奴はいなくなっても誰も騒がない身寄りのない生徒に目を付けては、裏世界で失踪したと見せかけて拉致して海外に売り飛ばし、多額の利益を得ていたのだとか。


 犯人が一人なら誤差程度で誤魔化せたかもしれないが、犬瀬祖父と流井吾一が別々に犯罪を行っていた関係で生徒の行方不明件数が多くなり過ぎてしまい、アーサーの目に留まってしまったというわけだ。


 理事の一人の大スキャンダルということで、ダン学はしばらく世間からの厳しい風当たりを浴びることになるだろう。


 まあ、それでもきっと探索者を目指す若者たちがこの学園の門を叩くのを辞めるような事態にはならないとは思うけれども。


「俺としては、それより流井先生が殺人犯だったってことのほうがショックだな。いい先生だと思ってたのに……」


 種口くんは浮かない表情で呟いた。


 流井吾一の殺人についてだが、こちらは一部の関係者を除いて公表はされていない。


 既に犯人が死亡しているのと、犬瀬理事のスキャンダルのタイミングで教師の殺人までが発覚したら、さすがのダン学園でも立て直し不可能だろうと考えられたため、アーサーと探索者協会が水面下で話し合いを行い、内密に処理されることになった。


 今やダン学は日本政府や探索者協会にとっても重要な施設であり、おいそれと潰すわけにはいかないのだ。


 行方不明の生徒たちは、修練の塔のレアトラップに引っ掛かってあの隠し部屋に転移させられてしまい、そこでドッペルゲンガーと入れ替わってしまい、本人は……ということにしたらしい。


 ゾンビとなった生徒たちは、後日レイコが回収した。


 あいつは幽体になるとアンデッドみたいなものなので、あの穴の下でも問題なく動けるのだ。


 生徒たちの肉体は汚れてはいたがそこまで損壊はしておらず、今は探索者協会の秘密施設で隔離保管されている。


 流井吾一は……生徒のゾンビにやられたのか、肉体がバラバラに散乱していたらしい。ゾンビになることすら許されずに、きっと悲惨な死を遂げたのだろう。


 自業自得とはいえ……哀れな最後だ。


「ニナ……大丈夫ですか?」


「うん、もう平気。私……目標ができたから」


 話題が流井のことに変わった途端俯いてしまったニナだったが、すぐに顔を上げて力強く言い放った。


 回収した唯野舞藻さんのゾンビと対面したとき、彼女は激しく動揺して泣き崩れ、自分を責めた。しかしレイコからとある話をしてもらってからは徐々に落ち着きを取り戻し、自分自身の決意を固めることができたようだ。


「爾那、戦女神の聖域(ヴァルハラ)のレイコさんが言ってたあれ……本当に探すつもりなのか?」


「うん、舞藻が身代わりになってくれなかったら、本来なら私がああなってたはずだもん。だから私は……絶対に"死者の花"を見つけてみせる」


「ノーライフキングは厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)ほどではありませんが、その次に凶悪と言われるS級モンスターです。覚悟はありますか?」


「もちろん。……ふふっ、もう厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)に挑もうっていう迅のこと、止めろとか言えなくなっちゃったね」


 ニナは種口くんの方を見て苦笑いを浮かべた。


 裏世界にはアンデッドの王である"ノーライフキング"と呼ばれる超危険モンスターが、今までに三体確認されている。


 そのうち一体は過去にSランク探索者によって討伐されたのだが、その際に"死者の花"という超レアアイテムをドロップしたそうなのだ。


 この花は、なんと死んでアンデッドになってしまった人間を生き返らせる力を持っているという。


 ただの死者には効果がなく、あくまでアンデッド化した存在のみ蘇生可能という限定的なものらしいが、それでも死人を蘇らせられるのだから凄まじいアイテムといえるだろう。


 当時の鑑定記録によると、これはノーライフキングの確定ドロップらしく、つまりはニナがアンデッドの王を倒すことさえできれば、舞藻さんは生き返ることができるというわけだ。


「そうと決まればもっと強くならなきゃね! 迅、早速特訓しましょう!」


「お、おう! ……佐東さんも一緒に来る?」


「すみません……今日はこのあと用事があるので、私は遠慮させていただきます」


「そっか。じゃあ爾那、今日は俺たちだけだね」


「鈴香こないの? ふふふ、なんだか迅と二人っきりの訓練って久々じゃない? じゃあ、迅がどれだけ強くなったか試させてもらおうかな」


「お、お手柔らかに頼むぜ……」


 種口くんとニナは楽しそうに連れ立って教室を出て行き、残されたのは俺一人になった。


 ふぅ……と小さく息を吐いてから、俺は七つのスマホを取り出して一つ一つチェックしていく。


 鈴輝、鈴香、景乃、円樹と確認して……五つ目のスマホを手に取ると、『重要案件』を示す赤い通知マークが画面中央に表示されているのが目に入った。


 内容を確認すると――



《メサイア教団に動きあり。近いうちに大規模な作戦を展開する可能性大》



 そんなメッセージが届いていた。


 メサイア教団とは、現在世界中で破竹の勢いを持って信者数を増やし、急速に影響力を高めている巨大宗教団体のことである。


 名前からも察しがつくと思うが、彼らはかつて裏世界に存在していた――"聖王グラン・メサイア"を信仰する人々だ。


 裏世界最大規模のクラン――"聖王十字団"の母体でもあるこの教団を立ち上げたのは、"コンラッド・アームストロング"という人物。


 今やSランク探索者であり、世界に四人しかいない人間の厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)の一人でもあるこの男は、まだ若かりし頃に裏世界で迷子になってモンスターに襲われ、瀕死の重傷を負っていたところを聖王に救われたのだという。


 それからというものアームストロングは、グラン・メサイアを崇拝し、その偉大さを人々に伝播(でんぱ)するためにこの教団を立ち上げたそうだ。


 当時はそこまで大きな教団ではなかったが、1999年の魔王と聖王の相打ちの直後にアームストロングが厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)の一体を倒して魔王の力の一つを継承し、さらに彼がメサイアレリックを大量に集め始めた頃から教団は急激に大きくなり始めた。


 彼の持つ魔王の能力――【全てを知るモノ(ビブリオン)】は、俺たちが知らない様々な未知の情報を得ることができる力であり、メサイアレリックは超常の力を有する奇跡のアイテムだ。


 世界には様々な宗教があるが、信仰したところで奇跡が起こるかどうかは、所詮は神の匙加減次第である。


 ……が、メサイア教団は違う。


 アームストロングの知識とメサイアレリックの力によって、信者は実際に奇跡の恩恵を受けることができるのだ。


 当然そうなると信者がどんどん増えていくわけで……今では世界中に大きな影響力を持つほどの大教団となった。


 しかし、アームストロングはメサイアレリックは全て聖王の使徒たる我々が所有すべきだとの主張を声高に訴えており、最近はテロすらも辞さない過激な行動を取り始めている。


 もちろん本人はテロは自分たちと関係ないなどと言い張っているが、メサイアレリックを狙った大規模な盗難や強奪が頻繁に起きている現状から考えて、あれらがメサイア教団の仕業であることは間違いないだろう。


「……アームストロング」


 奴とはいずれ決着をつけなければならない。


 俺と……俺たち家族のためにも。



《奴らは東京国際転移門にある、【メサイアレリック《No.02》――"転移ポータル"】を奪う気だと思われる。"聖王ナンバーズ"の一桁台を中心とした精鋭部隊が、東京へ向かっているとの報告も上がっている。"八咫烏(ヤタガラス)"のメンバーは警戒を怠らず、緊急招集があればすぐに駆けつけるように》



「はぁ……またしばらく忙しくなりそうですね……」


 五つ目のスマホに表示されたメッセージを見ながら、俺は大きく溜め息を漏らした。

これにて二章は終了です。


二章までで判明した7人のスズ↓

涼木(すずき) 鈴輝(すずき)戦女神の聖域(ヴァルハラ)所属。探索者ランクA。

佐東(さとう) 鈴香(すずか)。ダン学生徒、大人気美少女配信者。探索者ランクD。

臼井(うすい) 景乃(けいの)。所属なし。隠密行動用一般人。

仁和(にわ) 円樹えんじゅU・B・Aアンダーワールド・バトル・エンジェルス所属。探索者ランクA。

⑤???。ダンジョン省直下特務機関八咫烏(ヤタガラス)エージェント。

⑥???。

⑦流井吾一の前に現れたスズ。探索者ランクS?


次章で残りのキャラやスズの本気が見られる……かも?

引き続きご愛読いただけますと嬉しいです。


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