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第053話「地底湖エリア」

『ゲギャギャギャ!』


「くぅっ!?」


 二足歩行の半魚人のようなモンスターが突き出してきた槍を、左手につけた手甲で逸らす種口くん。


 だが、後方にある巨大な水たまりから数体の仲間が飛び出してきて、俺たちを包囲しようと迫ってきていた。


「えいっ!」


『ギャギャ!?』


 種口くんの身体を壁にして死角を作りつつ、俺はテンタクルウィップを伸ばして奴らの武器を弾き飛ばし、更に足払いを食らわせて転倒させる。


「――迅くん! 今です!」


「うおおおっ!」


『ゲギャアアァ!?』


 その隙を逃さずに種口くんは【鬼眼】で強化した拳を叩き込み、一体一体確実に仕留めていく。


 ……うん、動きも洗練されてきたし立ち回りもいい感じだ。


 このサハギンと呼ばれるモンスターは、鋭利な槍で武装していて集団行動にも長けている厄介な相手なのだが、このエリアの敵は【鬼眼】で攻撃が可能なので、俺がサポートに徹することで危なげなく倒すことができていた。


「ぜえっ……はあっ……これでやっと――」


「まだですよ! 後ろ!」


 近くの大岩の影から飛び出してきた巨大なカエルが、種口くんに向かって液体を吐きかけようとする。


 彼は咄嗟に手甲でガードしようと身構えるが、俺は鞭で地面に落ちていた石を弾き飛ばしてその液体を打ち払う。


 ジュワワ~……っという音と共に飴のようにどろりと溶けていく石を見て、種口くんの顔がサッと青ざめた。


「今度こそ終わりです!」


『ゲコォォ!?』


 消えかけていたサハギンの槍を鞭の先端でキャッチし、それをカエルの眉間に投擲してとどめを刺す。


 するとすぐに光の粒子となって消滅し、その場はようやく静寂を取り戻した。


「はぁ……はぁ……ありがとう佐東さん。また助けられちゃったよ」


「最後まで集中しなければダメですよ? それと迅くんがワカラセマンのパンチに耐えるほどの防御があるのは知っていますが、今のような特殊な攻撃や毒などに対しては避けたり障害物を使って防いだりするのが賢明です」


「うっ……そうだね。まだまだ修行が足りないなぁ……」



:スズたそマジすげぇ……

:鞭って便利だな。俺も使ってみたくなってきたぞ

:俺使ったことあるけど魔力操作難しすぎだしおすすめしない

:しかしワンパン男壁役としては優秀だな

:でもそのせいでカメラからスズちゃんのおっぱいが隠れがちなのが腹立つ

:それな

:しかしもう20階か

:時間はちょっとかかったけどここまで順調にきたな

:男と絡んでるの見たくないから早くニナちゃんと合流してほしいわ

:あっ! ボス部屋の扉見えてきた!

:俺ダン学の二年だけどここのボスかなり厄介だぞ

:Cランクのワイ、ここクリアできなかった模様

:二人ともDランクらしいけどいけるのか?



 11階でニナと別れてから大体3時間くらいだろうか。


 びしょ濡れになったりモンスターに魚臭い息を吹きかけられたりしながら、俺たちはようやく20階のボス部屋の前までやってきていた。


 ちなみに今の時刻は昼の1時くらいで、実習開始から6時間もの時間が経過している。お腹もすいてきたので、早く21階の広間へ行って休憩したいところだ。


「迅くん、準備はいいですか?」


「うん……俺だけじゃ絶対無理な相手だから、迷惑かけるかもだけど頑張るよ」


「では参りますよ!」



:きたああああ!

:ボス戦開幕!

:スズちゃん頑張って~!

:ワンパン男はちゃんと肉壁になれよ?

:今度こそおしっこ見れる?



 中に入ると、10階と瓜二つの闘技場のような空間が広がっていた。


 そして中央の魔法陣から、再び五つの影がゆっくりと出現する。


 現れたのはまたしてもゴブリン。しかし前回とは違って、今回は体格に優れ、装備もしっかりとした個体ばかりだ。



 大剣と盾を持った成人男性並みの大きさの個体――ゴブリンナイト。


 筋骨隆々で両手に手甲をつけた個体――ゴブリンモンク。


 真っ黒なマントに巨大な本を携えた個体――ゴブリンサモナー。


 三角帽子を被り、杖を持って浮遊している個体――ゴブリンソーサラー。


 そして……片手剣に小盾を持ち、立派な鎧に赤いマントを身につけている小柄な個体――ゴブリンリーダー。



 10階のパーティよりも数倍厄介なメンバー構成である。


 特にリーダーは攻撃力や防御力がゴブリンとは思えないほど高く、しかも簡単な魔法まで使ってくるうえに、こいつがいるパーティは連携に磨きがかかり、通常よりも全体的なスペックが上がるという恐るべき特性があるのだ。


 こいつらをソロで倒そうと思ったら、最低でもBランク以上の実力がないといけないとされるが……。


「向こうが連携なら、私たちも同じように連携をとるだけです。作戦通り動けますよね?」


「もちろん!」


 種口くんは俺の問いに力強く頷くと、前方の敵に向けて一気に走り出した。


 それを迎え撃つように前に出るゴブリンナイト。


 予想していた通りの展開だった。何度も過去の実習の動画を観て研究してきたが、このパーティは開幕で誰かが突撃してきた場合、高い確率でナイトが単体で対処しようとしてくる傾向があるのだ。


『グギャギャーーッ!』


「迅くん今です!」


「おうっ!」


 振り下ろされた大剣を横に跳んで躱した種口くんは、懐から取り出した小袋をナイトの顔面に投げつける。


『グギギャッ!?』


 中に詰まっていた粉を鼻いっぱいに吸い込んだ瞬間、ナイトの表情がとろんと蕩け始めた。


 そして次の瞬間――右手に持っていた大剣を宙に浮いているソーサラー目掛けて投げつけた。


『グッギャーーーーッ!?』


 突然のことに対応できず、自慢の中級魔法を使う余裕もなく串刺しにされるソーサラー。


 厄介なはずの魔法職があっさりと光の粒子になって霧散していく。



:え? 何が起きた!?

:同士討ちしてるんだけどw

:状態異常系のアイテムか?

:わからん!

:鈴香先生! 馬鹿なオラたちに解説してくれぇぇーーッ!



 ゴブリンナイトと一緒に視聴者たちも混乱しているようなので、俺は人差し指をピンと立てながら解説を始める。


「あれは"幻惑草"の花粉です。これを吸引すると数分間だけですが酩酊状態になり、敵味方の区別がつかなくなってしまいます。そして、ゴブリンナイトはこの粉への耐性が50パーセント程度しかありません」


 幻惑草はそれほどレアなアイテムはなく、探せば裏世界のその辺にも生えているし、探索者協会のショップやダン学の購買でも売られているものだ。


 ただ使い切りの割にそこそこ値段は高いうえ、耐性を持つモンスターも多いのであまり人気はない。


「このパーティは開幕で突撃すれば必ずと言っていいほどナイトが単独で対処に来るので、そこに幻惑草の粉を投げれば半分の確率で攻略が一気に楽になります。ちなみにモンクは15、サモナーは10、ソーサラーは5、リーダーに至っては1パーセントしか効く可能性がありませんので、ナイト以外には投げないようにしてください」



:もしかしてモンスターの耐性全部暗記してんの!?

:ヤバすぎて草

:ナイトが前に出てくるって癖も聞いたことなかったんだが

:ダン学二年の俺氏唖然

:スズちゃんガチで先生向きじゃね?

:かわいいいうえに頭まで良いとか反則すぎる

:これ革命だろ。次の実習から真似するやつ続出や



 コメントが大盛り上がりする中で、次々と仲間を傷つけていくゴブリンナイト。


 パニックになるゴブリンたちに、俺の鞭や種口くんの拳による攻撃も加わり、あっという間にリーダーとモンクも光の粒子になってしまった。


「はぁ……はぁ……。すごい……ここまで上手くいくなんて」


「運もよかったですけど、私たちも成長しているということではないでしょうか」


 ……と、キリっとした表情で言ってみるが、実際のところ運などではない。


 種口くんがナイトに投げた幻惑草の粉……実は半分の確立を外してしまい、本当は混乱させることに失敗していたのだ。


 ならば何故同士討ちが起きたのかというと、それは俺がもっと強力な"黒の幻想花"の花粉を部屋中に散布していたからである。


 元より種口くんの攻撃が成功しようが失敗しようが俺が上書きするつもりだった。じゃないといくら混乱しててもあんな都合よく味方ばかりを攻撃しまくったりしない。


 更に他のゴブリンにも麻痺や暗闇などの状態異常を与えて行動を制限したりしていたので、ここまで上手くいったのは全て計算通りなのだ。


 ……もちろんそんなことはおくびにも出さないが。


 黒の幻想花の花粉はリノにすら見えなかったので、この事実に種口くんや視聴者が気づくことはまずありえないだろう。


「ナイトの混乱状態がそろそろ解けるのでトドメを刺しますよ!」


「わかった!」


 ナイトの首筋に鞭を巻きつけ、ギリギリと締め上げていく。


 大剣と盾を手放して両手で必死に抵抗しようとするナイトだが、無防備になった腹に種口くんが魔力強化による連打を叩き込むと、すぐに力尽きて光の粒子となった。



:すげー、あとサモナーだけじゃん

:サモナーは単体だと雑魚だからもう余裕だな

:まさか二人共無傷でクリアするとは

:お? サモナーがなにか召喚したぞ!

:あれミラースライムじゃね?

:マジだ! 激レアじゃん!



 最後に残ったサモナーが、持っていた本を光らせて召喚魔法を発動させると、鏡のように周囲の景色を反射する銀色のスライムが現れた。


 スライムはピカピカと光る身体をぷるぷる震わせながら、こちらに近づいてくる。


「さ、佐東さん。あれベッキーの授業で習ったやつだよね? 俺初めて見たよ」


「はい、ミラースライムですね。ゴブリンサモナー自体があまり遭遇する機会が多くないうえに、このモンスターを召喚する確率も低いため滅多に出会える相手ではありません」


「でも弱いんだよね? さっさと倒して――」


「待ってください! カメラを後ろに向けてくれませんか? 試したいことがありまして」


「え? い、いいけど……」


 種口くんは少し困惑した表情を見せながらも、大人しくふわスラを操ってカメラを後ろに向ける。


 俺も同じように自分のカメラを後方に向けて俺たちの姿が視聴者に映らないように調整した。


 ミラースライムは非常にレアなので、あまり研究が進んでいないモンスターだ。なので学術的な興味がむくむくと湧いてきてしまったのだ。


「ちょっと私の身体をコピーさせてみます」


「ええっ!? 大丈夫なの!?」


「サモナーが魔力を注がない限り、外側を写し取るだけで中身は伴いませんので問題ないはずです。ちょっと見ててください」


 ザっと一歩踏み出し、距離を縮めてくるミラースライムと対峙する。


 カメラを後ろに向けたのは、たぶん大丈夫だと思うが、万が一偽装していない俺の本来の姿がコピーされてしまったら面倒だからだ。


 種口くんは……まあ黒の幻想花を使えばそのような事態が起こってもなんとか誤魔化せるだろう。


『ぷるるるーーっ!』


 そして、ピカっとミラースライムの身体が煌めいたかと思うと……次の瞬間に目の前に現れたのは――――

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 >私をコピらせてみます あっ…(察し) こういう系って外見じゃなくてステータスをコピる系が大体→つまり鏡餅もといミラースライムくんがそれ系コピーなら、おっぱいなくなった真の姿を……
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