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第051話「洞窟エリア」

 扉を開けた先に広がっていたのは、洞窟のような岩肌が露出した地面と壁だった。


 光源など一切ないはずなのに明るさを感じられるのは、そこら中に生えているキノコのお陰だろう。ほのかに光を発していて、照明の役割を果たしてくれている。


「洞窟型のフィールドですか……。私はあまりじめじめしたところは好きじゃないんですけど……」


 俺は普通の人より五感が鋭敏らしく、臭いのも湿気も苦手なのだ。


 虫とかも嫌いだし……。


 こんなことリノに言ったら、また「やっぱスズって女の子みたいな感性だよね~」と揶揄われそうだけど。


 ……とりあえず、配信を始めるとするか。


 ふわスラの中に、学園から支給されたシンプルなWi-Fi付きカメラと、いつも使っている配信用の高性能カメラとデバイスを放り込む。


 これはワカラセマンが持っていたレアなふわスラで、カメラ二台や配信用デバイスが余裕で収まるくらいの大きさがあり、機動力や防御性能も抜群という優れものなのだ。


 ふわスラなんて見た目は殆ど変わらないものが多いので、他人に見られても賞金首討伐の戦利品であることはまずわからない。


 最後にマイクとイヤホンを装着して、準備完了。


「皆さんおはようございまーす! 鈴香です。今日はダン学のダンジョン実習ということで、その様子を実況しつつ攻略をしていきますよ~」



:スズたそキタァァァァーー!

:鈴香ちゃんおはよ~

:眠すぎるけどスズたんの声聞いたら目覚めたw

:今日もかわいいぞーー!!

:俺の嫁が朝から可愛い

:これ見るために今日は会社を休んだw

:俺も学校サボる予定だぜ!

:制服! 制服着とる!



「うふふ、気がつきましたか。今日は初めて制服姿でお送りする予定です。どうです? 似合いますか?」



:うひょー!

:マジ天使(確信)

:こんなん惚れてまうやろ

:かわいいかわいいかわいいぃぃ!!

:ブヒィイイイイイ!!

:最高だぁあああ!

:この姿を毎日生で見れるなんてクラスメイト羨ましいなぁ~



 カメラの前でくるりと一回転してみせると、コメントが爆速で流れる。


 ダン学の制服は本当にかわいいからな。これを着るためにわざわざ探索者になって入学試験を受けようという女子もいるくらいらしいし。


「それでは早速行きましょうか。今日は最上階までの攻略を目指していますので、長い配信になると思いますけど最後まで付き合ってくださいね♪」


 俺が一人で本気を出せば昼前にはゴールできるだろうけど、今回ばかりはそうもいかない。


 種口くんのサポートをしつつ失踪事件のほうも解決しないといけないので、たぶん半日に渡る長期戦になりそうだ。


「見てください。この胸についてる『001』の数字のプレート! これは今回私が最初に塔に入った生徒であるという証なのです! なんか嬉しいですよね」



:胸が一番大きいという証?

:つまりFカップってことか?

:おっぱいデカくて草

:お前らおっぱいばかり見てないでプレートについて触れてやれよw

:鈴香ちゃんのおっぱいペロペロしたい

:制服スズたそに抱き着いてくんかくんかしたいお



 制服を着たことによる効果かいつも以上にキモいコメントばかり流れるが、俺は微笑みを絶やすことなく先へ進んでいく。


 この程度で笑顔が崩れるようなら、美少女配信者やアイドルなんてやっていられない。俺はめっちゃ汗ばんで悪臭を放っているおっさんとも満面の笑みで握手ができる男だからな。


 狭く曲がりくねった道を慎重に進んでいくと、やがて前方の十字路から一体のゴブリンが現れた。


 武器は持っておらず、体躯も小柄で腰布一枚を身に付けただけの最も一般的な個体だ。


『グギャギャギャ――』


「――ふっ!」


 俺を視界に捉えるなりこちらに駆け寄ってこようとしたゴブリンだったが、即座に腰元から"テンタクルウィップ"を引き抜いて振るうと、『ギャッ』という悲鳴と共に薙ぎ払われる。


 吹き飛ばされたゴブリンは、空中で光の粒子となって霧散した。



:つえぇえええ!

:初見ですが強すぎてびっくりしました

:もう絶対Dランクの実力超えてるだろw

:あの鞭がスズちゃんと相性良すぎるよな

:清楚系黒髪ロングJKが制服で黒鞭振り回すのたまらんww

:ワイもあんな風にぺちんって叩かれてみたいンゴ

:初回配信時にゴブリンにやられかけたのが懐かしい

:おしっこ漏らしてたしなwww

:↑あの動画はすでに1000万再生突破してるんだぞ。もっとおしっこに敬意を払え

:俺の人生を変えた動画

:僕もあの動画がなかったら今頃自殺してたかもしれない



 あれそんなに再生されてんのかよ……。世の中頭おかしいやつが多くて困るぜ。



 その後も何度かモンスターとのエンカウントがあったものの、問題なく蹴散らしていき、俺は順調に上の階層を目指していった。


 どうやらこの道は複雑なギミックが存在しない単純な迷路系のタイプのようで、広範囲の魔力探知のできる俺にとっては楽勝もいいところである。


 とはいえ、あまりスピードを出し過ぎると魔力探知していることを視聴者に勘付かれてしまいそうなので、程よい速度で軽快なトークを挟みつつ進んでいく。


 そうして約一時間半ほど経過したところで、ついに10階のボス部屋の扉が見えてきた。


「さあ、まずは最初のボス戦ですね! このフロアのボスはゴブリン五体のパーティが相手となるのですが、今までの雑魚と違って統率が取れているらしいので気をつけないといけませんね」



:集団ゴブリン戦……おしっこ……ウゴゴ……

:おしっこ見れる?

:僕もリアルタイムで拝んでみたいです!

:ガタッ

:俺の股間も準備完了です!

:みんなおしっこ好きすぎで草ww

:ホブゴブに腹パンされてゲロ吐いてほしい

:ワイも制服にゲロがかかるところ見たいンゴ

:残念ながらスズたそは強くなり過ぎたからもう吐くことも漏らすこともないぞw



 相手がゴブリンということで、『おしっ娘同盟』や『ゲロイン同盟』の紳士たちが大量に沸いてきてコメントが荒れ狂う。


 ……だが、サービス期間はもう終わったんだ。残念だが鈴香はもうそう簡単におしっこを垂れ流すような真似はしないぜ!


 扉を開いて中に足を踏み入れると、円形の闘技場のような空間となっており、中央の床に紫色に輝く魔法陣が描かれていた。


 その魔法陣から五つの影が浮き上がり、徐々にその輪郭を明らかにしていく。



 先ほども戦ったごく平凡な個体――ノーマルゴブリン。


 短剣を持った子柄な個体――ゴブリンシーフ。


 弓矢を携えた細長い体型の個体――ゴブリンアーチャー。


 後方に控えて杖を持ち帽子を被っている個体――ゴブリンメイジ。


 そして大きな棍棒を携えた巨躯の個体――ホブゴブリン。



 非常にバランスの良い構成で、こいつらをたった一人で倒せなければプロの探索者としては通用しないと言われている。



:うわ……俺なら絶対無理だわ

:Eランクのワイ、絶対プロになれないと絶望する

:俺もここ来たことあるけどシーフが速すぎてやられた

:シーフが前に出てきてアーチャーが後方から攻撃しつつメイジが炎弾撃ってくるからなあ

:それを掻い潜って近づこうとしてもホブゴブリンの打撃でやられる

:こいつらマジで連携ヤバイよな

:初回に三体相手に敗北したけど、はたしてどれだけ成長しているのか……



 俺は腰元から"テンタクルウィップ"を引き抜くと同時に魔力を込め、その場でジッと敵を見据える。


 すると次の瞬間、先頭にいたゴブリンシーフが体を屈めて猛スピードで接近してきた。


「――はっ!!」


 鞭を伸ばし、横方向に薙ぎ払うように振るう。


 するとそれはゴブリンシーフの両足首に直撃し、その勢いで前方に派手に転倒させる。


 それとほぼ同じタイミングでゴブリンアーチャーからの矢が飛んでくるが、俺はそれを鞭で弾き飛ばすと――


 空中を舞っていた矢を鞭の先端でキャッチし、そのまま倒れているゴブリンシーフの頭部にザクリと突き刺した。


『グギャァーー!』


 血飛沫が飛び散り、シーフは絶叫をあげながら光の粒子となって消滅する。



:ちょwwwすげぇww

:鞭の使い方が完璧すぎるww

:魔力操作の精度えぐいな

:U・B・Aの円樹ちゃんの髪みたいに先端まで制御してるじゃん

:↑さすがにあの領域にはまだ到達できてないと思うけど、それにしてもすごすぎる

:まだ終わってないぞ!

:炎弾が飛んできた!



「――ふっ!!」


 続いてメイジから火球が放たれるが、俺はノーマルゴブリンの身体を鞭で絡みとると、射線上に移動させて盾にする。


『グギャーーーーッ!?』


 火球が直撃して全身が火だるまになったノーマルゴブだが、それで終わりではない。


 炎に包まれた状態のまま、俺は勢いよく鞭をしならせるとそれを最後尾にいたメイジに向かって投擲した。


『ギェエエエエエエッ!!』


 火だるまになった仲間から燃え移った火で自らも炎上していくゴブリンメイジ。二体まとめて光の粒子になって消失する。


『グオオォォッ!』


 仲間がやられるのを見て怒り狂ったのだろうか。雄叫びを上げながらこん棒を振り上げて接近してきたホブゴブリンに対して、俺は冷静に対処するべく鞭を操る。


 まるで生きている蛇のごとくしなやかな動きを見せてホブゴブリンの首に巻き付き、そのままギュッと締め上げていく。


『ガハッ……アガッ……』


 如何に巨大な体躯であろうと、呼吸器官が機能しなければ生物は生きていけない。


 まあ、モンスターは魔法生物であるのだが、ゴブリンのような亜人系は基本的に人間と同様の弱点を持っているのだ。


 ホブを助けようと残ったアーチャーが弓を放とうと構えるが、俺は鞭を操ってホブの巨体をズリズリ引きずって移動出せると、アーチャーの細身な体躯の上に覆いかぶせる。


『ギァアアッ!』


 ホブの全体重がかかって押し潰されるアーチャー。


 必死に抜け出そうと暴れるも、俺はホブの首を締めながらさらに強く圧迫していく。


 やがてアーチャーはピクリとも動かなくなり、ホブも口から泡を吐いて完全に白目を剥いたところで、二体とも光の粒子に変わって消えた。



:強すぎワロタw

:かっけーー!!

:こりゃそろそろCランク昇格も考えられるレベルだろ

:まだ探索者になって二ヶ月くらいだろ?

:才能ありすぎだよなぁ

:このまま行けばU・B・A入りもあり得るんじゃないか?

:忍ちゃんや円樹ちゃんとの共演……ゴクリ……

:待て、俺凄いこと気づいたんだけど、スズたそ開始位置から一歩も動いてなくね?

:あ……言われてみれば確かに



 ……あ、ちょっとやり過ぎたかもしれない。いくら序盤のボスと言っても、一歩も動かずに倒しちゃまずいよなぁ。


 まあ、鈴香は天才設定なので多少は目を瞑ってくれることを祈ろう。


「やりました! もしかして私って天才なのでしょうか。えっへん! ……なんて調子に乗りすぎてはいけませんね。油断せずに行きましょう!」


 奥の扉が開いて、上へ登る階段が出現する。


 俺はカメラに向かってVサインを見せつつ、次のフロアへと進むのだった。

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