第048話「生徒会」
「だから私は"戦女神の聖域"一筋だって言ってるじゃないですか……。何度誘われても"ダン学Sクラス"には入りませんから」
「そこをなんとかお願いできない? 在学中だけでいいのよ。"戦女神の聖域"での活動は卒業してからでもできるけど、うちは学生しか加入資格がないんだから。学園のみんなと青春を謳歌しながら探索者活動ができるなんて、今しかない特別な機会だと思うんだけどなぁ?」
「そう言われましても……」
翌日――図書室のいつもの席で昨日の調査報告書をまとめていた俺の耳に、聞き慣れた声が入ってくる。
ちらりとそちらを見れば、困った表情を浮かべたリノと、その向かい側に座る一人の女子生徒の姿があった。
「私も来年で卒業だし、今のうちにリノちゃんみたいな優秀な子を入れておかないと次の世代が心配で――――あら?」
俺が視線を向けていることに気づいたのか、リノと喋っていた女子がふとこちらを振り向く。
完全に目が合ってしまったので、仕方なしに俺は二人の方へと歩み寄った。
「こんにちは、生徒会長」
「鈴香ちゃんこんにちは~。私たちの仲なんだし、もっと気軽に葉ちゃんって呼んでくれてもいいのよ?」
「先輩相手にそんな馴れ馴れしい態度は取れないですよ……」
彼女の名前は"井手内 葉"。
裏世界人気トップ5パーティの一角、"ダン学Sクラス"の副リーダーにして、ダンジョン学園の現生徒会長でもある三年生だ。同時にこの学園で四人しかいないSランク探索者の一人でもある。
ちなみに紅茶荘の104号室の住人でもあって、つまり鈴香とはその縁で顔見知りなのだった。
「ところで鈴香ちゃんとリノちゃんはお話したことあった?」
「いえ、初めましてですね。佐東鈴香です、よろしくお願いします(棒)」
「涼木璃乃ですー。どうぞよろしくー(棒)」
リノと二人でぺこ~っと頭を下げると、お互いこっそり顔を見合わせて小さく苦笑する。
鈴香とリノは初対面という設定だ。
正直俺はリノの前だと気が緩んでしまうというか……ちょっと頭の中が幼くなってしまう傾向があると自分で自覚している。
そのため鈴香のときは外ではリノと接触しないほうが無難と考えていたが……まあ知り合い程度にはなっておいてもいいだろう。
会長はそんな俺たちを微笑ましく眺めながら、「あのねあのね」と楽しそうに話し始めた。
「今リノちゃんを"ダン学Sクラス"に勧誘していたところなの。鈴香ちゃんはDクラスだからまだこっちには参加資格がないけど、あなたには生徒会執行部に入ってほしいと思ってるのよね~。……どう?」
「「結構です」」
俺とリノが同時に拒否の意を示すと、会長は「が~ん!」と言いながら崩れ落ちるように机の上に突っ伏した。
完璧な見た目とは裏腹にコミカルで面白いところがあるんだよな、この人。
会長は優し気な垂れ目に腰まである黒髪のロングヘアーといった容貌で、ちょっと鈴香と似た雰囲気を持つ正統派清楚系美少女だ。
しかし、鈴香とは違って背も高く、胸もお尻も太もももグラマラスな、学生でありながら大人の色気ムンムンの身体つきをしている。
はぁ~……っと溜め息を吐き出したあと、会長は立ち上がってハーフアップにまとめた髪をサラリと手で払い上げた。
「ふーむ……」
「鈴香ちゃん? 私のことじっと見てどうかした?」
そういえば会長も例の事件の容疑者の一人なんだよな……。
まあ、彼女は性格的にああいった犯罪を引き起こすような人間じゃないし、魔術も有名なものだから除外しても問題ないだろうけれど。
会長は戦闘能力はSランクの中ではあまり高くないらしいが、魔術師の中でも非常に珍しい回復系の能力の持ち主で、【聖女の聖水】という様々な回復効果のある水を生成する魔術を使うことができる。
その能力の貴重さと外見の美しさから"聖女"の異名で呼ばれており、日本だけに留まらず海外にも熱狂的なファンが多いのだとか。
魔術というのは本人の特性や性格などを色濃く受けた能力が発現することが多いらしく、この様な能力に目覚める人物は、本当に善人であったり清らかな心の持ち主であることが殆どらしい。
なので彼女が犯罪者である可能性は、限りなく低いと言っていいだろう。
しかし……あまりにも強力な魔術は発動する際になにか大きな代償があったり、もしくは使い手の精神がぶっ飛んでいたりする場合が多い。
これほど珍しい魔術となると、普通では考えられないほどの犠牲があって然るべきとも思えるのだが……。
すっくと立ちあがり、会長の周りをぐるりと一周しつつ観察をする。
「す、鈴香ちゃん……さっきから一体どうしたのかしら……?」
「ふううぅむ……」
……なんかこの人、スカート長くないか?
昭和のスケバンってほどではないが、現代の女子高生としてはかなり長いほうだと思う。
それでも普通の人ならあまり気にならない程度なのだが……会長はスタイルもいいし脚もめちゃくちゃ綺麗で、服の着こなしもスマートなので、この野暮ったく見えるスカートの長さだけがどうも妙に違和感を感じさせるのだ。
校則にもここまで長くしろとは書かれてないし、もうちょっと脚を見せたほうが確実に映える。それがこの人にわからないはずはないと思うんだが……。
「あっ、会長。スカートにゴミがついて――」
「――っ!?」
俺がスカートに手を伸ばした瞬間、会長は残像でも見えそうなほどのスピードで飛び退いて距離を取った。
その反動でふわっと舞い上がったスカートを、シュババッと音が出そうな速さで抑え付ける。
そして何事もなかったかのように笑顔になると、ゆっくりこちらに戻ってきた。
「鈴香ちゃん、いくら女の子同士だからっていきなり人のスカートに触るのはよくないわよぉ?」
「す、すみません」
……あの長いスカート、絶対魔術になにか関係があるな。
でもこの人は犯人ではなさそうだし、これ以上詮索するのは止めたほうがよさそうだ。
その後は三人でたわいもない世間話に花を咲かせたあと、そろそろ解散しようかとなったところで、こちらに一人の男子生徒がやってきた。
男は銀髪で糸のように細い眼をしており、スラっとした体型をしているがひ弱な印象は一切なく、どこか鋭利な刃物のような雰囲気を漂わせている。
「会長はん、ここにおったんかいな。そろそろ生徒会の会議が始まる時間やで?」
「あら、もうそんな時間なのね。それじゃあリノちゃん、また改めてお話をしに来るから、そのときは考えておいてね?」
「何度来ていただいても答えは同じですが……」
「それから鈴香ちゃんもまた一緒にティータイムしましょうね」
「生徒会には入りませんけど、お茶くらいならいつでも付き合いますよ」
「ふふっ、楽しみにしているわ。……それじゃあ浦霧くん、行きましょうか」
「せやな。やけど、その前に鈴香ちゃんに挨拶をさせてもろても構わへんか? リノちゃんは同じクラスやから面識あるんやけど、鈴香ちゃんとは初めてやさかい」
銀髪の糸目は俺の方を見てニィ~っと口角を上げた。
そしてゆっくりとこちらに近づいてくると、右手をスッと差し出してくる。
「ワイは"浦霧 紋嗣"っちゅーもんや。一年Sクラスで探索者ランクはA。所属パーティは"ダン学Sクラス"で、生徒会の書記をやらせてもらっとる。これからよろしゅう頼むわぁ」
「……」
「鈴香ちゃんのチャンネルはワイも毎回楽しましてもろてるで。キミが生徒会に入ってくれたらこの学園ももっと面白ぉなると思うんやけどなぁ。会長と一緒に歓迎させてもらうさかいに、その気になったらいつでも声かけてぇな」
「…………」
「せやっ、せっかくの機会やしこのあと――」
「――――せぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」
「ぼげっふぅぅぅぅぅぅぅ!!」
俺は銀髪糸目男の右手を掴むと、そのまま勢いよく一本背負いを決めて地面に叩きつけた。
呻き声とともに床に這いつくばっている糸目に素早く近づき、関節を極めて完全に拘束する。
「いだだだだだだっ!! 鈴香ちゃんいきなりナニすんねん!?」
「犯人確保ーーーーーーーーッ!!」
「ちょ、ちょっと鈴香ちゃん!? なにしてんの!? なんでいきなり浦霧くん投げ飛ばして関節極めてんの!?」
「離してくださいリノさん! 彼こそが事件の首謀者なんですっ!! 間違いなく裏切者ですよ!」
もうこいつが絶対例の事件の犯人で確定だろ! 昨日の調査とか推理とか全部意味なかったわ!
俺はレイコから色々な漫画を借りて読んでいるので詳しいんだ。この外見と喋り方はどう考えてもクロ確定だ!!
ふしゅるるる~っと鼻息荒くする俺だったが、結局リノにべりべりっと引き剥がされ、銀髪男は首をさすりながらヨロヨロと起き上がってしまった。
「う、裏切者て……。ワイらまだ友人どころか知りおぉたばかりやん……。一体なにを裏切るってゆうんや……」
「言われてみれば確かにそうですね……すみませんでした。怪我はありませんか?」
「……ええって。慣れとるから大丈夫や。ワイら浦霧家は代々胡散臭い外見と喋り方するせいで、周りからいつも誤解を受け続けてきたんや。こないなのは日常茶飯事やさかい気にせんとき」
な、なんか良い人っぽいぞ……?
……いや、でもやっぱり胡散臭さ凄すぎて素直に信じることはできないわ。
ガルルルーッ!
「オトンも先日親会社からやってきた新社長さんに『なんかお前他社に情報流してそうなツラしてんなぁ』ちゅう理由で追い出し部屋みたいな部署に異動させられたらしくてなぁ。ワイら一族はこないな宿命を背負っとるんやからしゃーないねん……」
「あっ……ハイ。なんかごめんなさい……」
「まあ、なんしか生徒会に興味持ったらワイでも会長はんでもええからいつでも言いぃや。鈴香ちゃんみたいに強くておもろい子やったらみんな喜んで歓迎してくれる思うで。ほなまたなぁ!」
「うふふっ、鈴香ちゃんって結構面白いところあるのねぇ~」
生徒会の二人が去っていくと、図書室は再び静寂を取り戻した。
「スズって頭良いのにたまに滅茶苦茶馬鹿になるよね」
「う、うるさいですね……。反省してますよ……」
ぼそぼそっとリノと二人で小声で言い合うと、俺たちはお互い反対方向に向かって歩き出した。




