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第034話「ワカラセマン」★

 『???』視点回です。

 コツコツと、乾いた足音が静寂の中に響き渡る。


 埃の積もった床板を、鍛え抜かれた丸太のような足で踏みしめながら、俺は荒れ果てた廃墟の薄暗い廊下を進んでいく。


 しばらく歩いていると、やがて目の前に鉄製の重厚な扉が現れた。


 古びたドアノブにかけられた南京錠を、懐から取り出した鍵で開け、ゆっくりと室内に入る。


 そこは六畳ほどの広さしかない小ぢんまりとした空間だった。


 殺風景な室内には椅子と机、簡易的なパイプベッド以外には何もなく、四方はコンクリートの壁で囲まれており窓は一つもない。


 俺は机の前に移動すると、椅子に深く腰掛けながら天井を仰いだ。


「ふぅ~……ようやく一息吐けるな」


 ここは裏世界にある俺の隠れ家だ。


 この部屋の中には"結界石"というモンスターの侵入を拒む魔道具が設置してあり、定期的に魔力を供給してやることで24時間安全な領域を確保できる。


 ダンジョン学園にあるというあの"星輪(せいりん)"には効果範囲も性能も遠く及ばないが、それでも裏世界で寝泊まりすることを可能にさせてくれる貴重なアイテムだ。


「まったく……面倒な奴に目を付けられたもんだぜ」


 表にいるときからずっと誰か……それも相当の手練れに尾けられているとは感じていたが、まさか裏世界まで追いかけてくるとはな。(誤字はここのみ、平仮名"つけられている"表記が一般的。ここまで動詞つけるが連続して違和感あり)


 人気のなくなったところで一気に距離を詰められたときは焦ったが、魔術を使ってなんとか撒くことができた。


 たとえ相手が圧倒的格上であろうとも、逃げ切ることができるのが俺の能力の強みだ。


「逃げる際に一瞬見えたあの顔……あれは間違いなく、"黒鵜(くろう) (しのぶ)"だった。まさかあの女……俺の正体に勘付いたのか?」


 ……いや、殺気は感じられなかったしまだ疑惑の段階だろう。


 だが、油断はできねぇ。あの様子だと、次にまた出くわせば戦闘になる可能性が高い。


 あいつの能力は不明だし、なにより世界にたった24人しかいないSランクの一人。なるべく接触を避けるべきだ。今後はますます慎重に行動する必要がある。


 思わず溜め息を吐きながらも、俺は次元収納袋の中からノートパソコンやカメラなどを取り出し、それを机の上に置いた。


 パソコンを起動している間に服を脱ぐと、ベッドの下に収納していた覆面と全身タイツ、そしてマントとベルトを取り出し、手早く身に纏っていく。


 着替え終わると再び椅子に座り直し、ヘッドホンを着けてカメラとマイクの調子を確かめる。


「さぁて……今日も始めるか」


 この拠点は表世界ではWi-Fiスポットなので、裏でもその電波を受信できるのがありがたい。


 ネットに接続して裏ちゃんねるの配信画面に飛ぶと、既に一万人以上の待機人数が表示されていた。


 くくくっ……。やはり俺の人気は凄まじいようだ。大勢の人間が今か今かとこの俺を待っていると考えるだけで、思わず笑みが溢れちまうぜ。


 もはや戦女神の聖域(ヴァルハラ)を筆頭とする人気トップ5の中に俺が食い込むのも、遠い未来の話じゃねえかもな。


 マイクのボイスチェンジャー機能をオンにして声色を調整し、カメラのレンズを見据える。


 そして『配信開始』のボタンをクリックすると、俺はゆっくりと口を開いた。


「よぉ、お前ら待たせたな。今日もワカラセマンのワカラセちゃんねるが始まるぜ」



:待ってました!

:ワカラセマンきたぁぁぁ!!

:相変わらず全身タイツがダサいw

:今度はどんな調子こいてる奴をボコボコにしてくれるんだろ

:楽しみすぎる

:犯罪者消えろ

:早く捕まれよカスが

:頼むから死んでくれ



「おーおー、いつも通り元気がいいじゃねぇか。俺の人気っぷりに嫉妬してる奴らもたくさんいるみたいだが、残念だったなぁ。お前らが喚くだけまた俺の知名度が上がるって寸法だ。俺の糧になってくれてありがとよ」


 俺が配信を開始した途端にコメント欄が爆速で流れ始めた。


 いつも通り俺の活動に期待をしている奴も多いが、最近は憎悪剥き出しのコメントを投げてくるアンチも大量に湧いている。


 まぁそりゃそうだろう。俺は数週間前から探索者協会に指名手配されている、A級賞金首の"ワカラセマン"だからな。



 ――最初はほんの出来心だった。


 裏世界探索中に煽ってきた迷惑系配信者にカッとなった俺は、後日覆面に全身タイツという変装をしてそいつを半殺しにしてやった。


 するとその映像が偶然撮影されており、ネット上で拡散されて大バズりしてしまったのだ。


 コメント欄では「最高だった!」「爽快すぎる」「新たなヒーローの誕生だ!」などといった称賛の嵐が巻き起こり、中でも一番多かったのが「もっと調子に乗ってる奴を懲らしめてほしい」という要望だった。


 それからというもの、俺は正体を隠しながら裏世界犯罪者や迷惑系配信者どもを粛清する活動を行うようになり、やがて"ワカラセマン"と呼ばれるようになる。


 しかし、徐々にそのような奴らばかりを相手にしているだけでは物足りなくなっていった俺は、やがて単純に『調子に乗ってる奴』や『生意気な奴』までターゲットにするようになった。

 

 だがそれが視聴者にウケてチャンネル登録者はどんどん増え、さらにその過激さはエスカレートしていく。


 初めのうちは犯罪者以外の人間を痛めつけることに多少の罪悪感も抱えていたのだが、あまりにも視聴者に持て囃されるうえに、ストレス解消にもなるので止められなくなってしまい、現在に至るというわけだ。


 今ではアンケートで視聴者がわからせてほしいと思う相手を募り、ターゲットに決まった奴はたとえ悪人でなかろうと関係なく痛めつけて、全裸で土下座させるまでがワンセットになっている。



「さあ、じゃあ次にわからせて欲しい奴は誰か、今日もアンケートを取るぜ! 投票フォームに名前を入力してガンガン送ってくれ!」



:今度こそアイドルの全裸土下座が見てぇな~

:最近調子に乗ってる美少女配信者のアカリちゃんにお仕置きしてください! あのビッチの悲鳴が聞きたいです!

:ダンジョン荒らしを頼む

戦女神の聖域(ヴァルハラ)のレイコをわからせて!

:↑レイコはさすがにワカラセマンでも無理だろwww

:迷惑系配信者じゃない奴にも手を出すようになりましたね。もはやただの犯罪者

:人殺しはダメよ~

:人殺しさんこんにちは^^

:調子乗んなゴミ



 凄い勢いでアンケートに候補が書き込まれ、次々と票が投じられていく。


 だがこの場ではまだ投票結果は視聴者に見えず、俺にしかわからない仕組みだ。


 理由は二つあって、一つ目はこういうのは有名人ほど票が多くなりやすいものなので、レイコのようなわからせるのが難しい相手が上位に来たときに弾くためである。


 そして二つ目は、ここでターゲットを発表してしまうと相手に警戒されて襲撃しにくくなるからだ。


 なのでアンケートの結果は俺が実際に投票された内容を操作して順位を決め、ワカラセ決行の当日に発表する流れとなっている。


 くくくくっ、今回は一体誰が俺の餌食になるかな……?


「よし、投票時間は終了だ! どれどれ……次のターゲットは――」


 ……は?


 パソコンに映し出された結果を見て、俺は我が目を疑った。



【66%】ワカラセマン

【20%】レイコ

【7%】アカリ

【4%】ダンジョン荒らし

【3%】その他



 ……ふ、ふざけやがって! アイドルオタクのアンチどもがッ!


 こいつら集団で俺のチャンネルに押しかけてきて荒らしまくってやがる!


 例の事件で指名手配されてから俺の注目度は爆上がりしているが、こういうゴミどもがワラワラと集まってくるのはイライラするぜ……。


 つい数週間前のことだ、俺は大人気アイドルグループU・B・Aアンダーワールド・バトル・エンジェルスのメスガキ系アイドル――"瀬浪(せなみ) (りん)"をターゲットに選んだ。


 その日もいつもと同じようにターゲットを痛めつけて、全裸土下座させてやるつもりだった。


 ところが、あのガキは正義の味方の俺のことを「犯罪者」だの「最低のクズ」だの罵りやがったうえに、どれだけ殴りつけても一向に泣きも謝りもしない。


 しかもあいつは今までわからせてきた相手の中では桁違いに魔力量が多く、俺が負けるほどではないものの思った以上に耐久力があって、手加減していては中々ダメージを与えられなかった。


 そして顔面をグチャグチャに破壊してやってもなお、俺をコケにするような生意気な態度を取り続けたので、思わず力が入りすぎて殴り殺してしまったのだ。


 さすがの俺も殺すつもりまではなかったので慌てたが、時すでに遅し。


 瀬浪凛の命を奪ったことで、俺はついに探索者協会から正式に指名手配される羽目になってしまった。


 そしてあの日以来、俺のチャンネルはU・B・Aアンダーワールド・バトル・エンジェルスのファンどもに粘着され、荒らされ続けている。



:おい、結果はどうした?

:ワカラセマン硬直してて草w

:犯罪者くん次のターゲットは誰に決まったのかなぁ~?

:今のお前は一番調子に乗ってるんだから、次にワカラセられるのは自分だぞw

:早く自首しろよ!

:さすがに荒れてんな~

U・B・Aアンダーワールド・バトル・エンジェルスに喧嘩売ったことを後悔させてやる

:絶対にお前を討伐するって、メンバーみんな意気込んでるぞ

:セナミリンは僕の中で最高のアイドルでした! 絶対に許さない

:ワカラセマン様ぁ~調子こいてるワカラセマンを倒してぇ~



「……ッ!」


 腹立つ野郎どもだ。


 だが、ここでキレても奴らの思う壺。


「はっ、あんなアイドル集団にこのワカラセマンが負けるわけねえだろうが。何人でもかかってこい。全員返り討ちにして瀬浪凛と同じ場所に送ってやるからよ!」


 中指を立てて宣言すると、コメント欄では罵詈雑言が飛び交った。


 実際U・B・Aアンダーワールド・バトル・エンジェルスの小娘どもに負けるつもりは全くない。あいつらは裏世界人気トップ5のパーティではあるが、あくまで人気があるというだけで戦闘能力は他の4パーティよりも劣っている。


 48名の構成メンバーの殆どがBランクであり、ランキング上位の数人がAランクといった程度の連中だ。


 Aランク上位であり、近接戦闘ではSランク級である俺が負ける相手ではない。


 まあ、それでも奴らは数が多いから集団で襲われたらさすがに厄介だが……俺の魔術は一対一の状況をつくり出すのに特化しているので、各個撃破していけば問題はないだろう。


「……が、この二人だけは警戒する必要があるがな」


 マイクをオフにして視聴者に聞こえないように呟きながら、俺は二人の画像を自分だけに見えるように表示する。



 まず一人目。


 ウェーブのかかったふわふわの髪に、如何にもアイドル然とした可愛らしい容姿。小柄な体型に不釣り合いな程大きな胸と、オタクどもに受けそうなパーツをこれでもかと盛り込んだような女。


 ――U・B・Aのランキング1位、リーダーの"黒鵜(くろう) (しのぶ)"。


 こいつはアイドル集団の中で唯一のSランクという脅威の実力を誇っている。


 先程俺の後ろを付け回してきたとき感じた威圧感からして、戦闘能力は本物だろう。おそらく今の俺が真っ向勝負で勝てる相手ではない。



 そして二人目。


 亜麻色の長いツインテールに、小生意気そうなツリ目。アスリートのように細身で引き締まった体つきをしており、程よい大きさの形の良い胸が目を引く。


 その表情は自信に満ちあふれており、傲岸不遜(ごうがんふそん)傍若無人(ぼうじゃくぶじん)な態度が滲み出ている。


 探索者としてもアイドルとしても気が向いたときにしか活動を行わず、その自由奔放で唯我独尊な性格と美貌が一部で熱狂的ファンを生んでいるという天才美少女。


 ――U・B・Aのランキング2位、アイドル界随一の問題児、"仁和(にわ) 円樹(えんじゅ)"。


 こいつは殆ど探索者活動をしていないにも関わらず、賞金首とネームドモンスターの討伐だけで、たった一年でAランクまで上がってきたというアイドルパーティきっての武闘派!

 

 中でも少女だけを執拗につけ狙い、暴虐の限りを尽くした末に喰らい殺すという凶悪なネームドモンスター――"ロリコング"を単独で討伐したことが有名だ。


 ロリコングはドイツ人の有名なAランク配信者――"ヘレン・ドレクセル"を殺害したことで、超A級賞金首に指定されていたほどの怪物。


 狂暴なだけでなく非常に狡猾な一面もあり、十年以上も捕縛されることなく被害を増やし続けていたこのモンスターをたった一人で屠ったというのだから、その実力の高さは折り紙付きといえる。


 黒鵜忍のインタビューで「円樹の実力は自分より上かもしれない」という発言がされていたという情報もあるし、Aランクではあるが戦闘能力はSランク級であると想定したほうがいい。


 ――こいつは要警戒!



 U・B・Aと敵対してしまった以上、いずれこの二人はどうにかして排除しなければならないが、連中の公式Y(ワイッター)を見たところ、あいつらは明日から数週間のアメリカツアーに向かうらしい。


 つまり戻ってくるまでは裏世界には来ないということ。


 今こいつらと戦うことを避けられるのは僥倖だ。その間に色々と対策を練りつつ、ワカラセ活動でこの腹の虫を治めるとしよう。


 ふんっ、どうせ指名手配犯になっちまったんだ。もう後には退けねぇ。


 どうせならU・B・Aの小娘どもを一人残らず殲滅して、あの"切封(きりふ) 斬玖(ざんく)"や"シャイリーン・ゴールドスタイン"に並ぶような超S級の賞金首に……いや、奴らをも超えるような裏世界最強の男として名を馳せてやる!


「あーっと悪い。ちっとばかし考え事をしていてな」


 再びマイクをオンして、アンケート結果をどうしようかと思案する。


 一位二位は論外だし、アカリは九州を拠点としている配信者なので遠くて行きづらい。


 となると次のターゲットはダンジョン荒らしとやらになるのだが……こいつは完全に正体不明で名前しか分からないので、探すのが難しい。


 正直今回のアンケートは参考にならなそうだし、その他の中から俺がぶちのめしたいと思った奴を適当に選ぶとするか。



 ん……? こいつは……。



 その他の欄をスクロールして眺めていると、一人の名前に目が留まった。


 そうだ……このガキはいつか痛い目に遭わせてやろうと思っていたのだ。くくく、今回はこいつで決まりだな。


「さて、お待ちかねの結果だが……お前らもきっと満足できる相手だと約束しよう。次のワカラセ決行日を楽しみに待っていてくれ」


 俺はモニターに映った、まだ十代半ばとおぼしき人物の画像を見つめながら、邪悪な笑みを浮かべた。


 ……くくくっ、ネットで常に誰かを叩きたがる暇な連中ってのはよぉ~、こういうぽっと出のガキが人気になってるのを見ると虫唾が走るんだろう?


 その気持ち……俺にはよぉ~くわかるぜ?


 今回は必ず視聴者のリクエストに応えて、こいつが泣き喚いて全裸で土下座するまで徹底的にわからせてやる。


 俺の魔術――――【二人きりの逢瀬(ターゲットマン)】の力でな!

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